理論に基づいた確実な心房細動手術をめざす
日本医科大学付属病院
心臓血管外科
東京都文京区千駄木

当科の心房細動に対する取り組み
当科は、心房細動(しんぼうさいどう)手術(メイズ手術)の発祥の地である米国ワシントン大学と協力しながら、黎明期より心房細動手術を行ってきました。心房細動は高齢者や弁膜症(べんまくしょう)に付随する不整脈の1つですが、脳梗塞(のうこうそく)を引き起こす重篤な疾患です。
当院は、開発したワシントン大学とともにメイズ手術を約40年間にわたって施行しており、手術中の心房電位のマッピング所見(視覚化)や動物実験による知見から、理論に基づいた手術を行っています。非常に高い治癒率とその歴史からオピニオンリーダーとしての役割を担っています。最近では、患者さんに応じて小開胸による低侵襲(ていしんしゅう)(体に負担の少ない)手術も行っています。
心房細動とは
心房細動は、加齢や弁膜症に伴って出現する不整脈の一種です。脈が不正になり、頻脈(脈が1分間に100回以上)になると動悸や息切れを生じることとなります。心房細動の有病率は加齢とともに上昇し、ガイドラインによると2005年の時点で日本人の約70万人以上が心房細動を有していると推定されています。
心房細動になると左心房内で血流がよどむことから、左心耳(さしんじ)内に血栓(けっせん)(血の塊(かたまり))を作りやすく、脳梗塞の原因となります(図1)。このため洞調律(※1)に復帰させるリズムコントロールや左心耳を閉鎖することによって、脳梗塞や血栓塞栓症を予防することが重要となります。

※1 洞調律:心臓が正しいリズムで動いていること
メイズ手術とは
メイズ手術は、僧帽弁(そうぼうべん)疾患など弁膜症に付随した心房細動に対して行う手術です(図2、図3)。外科用のアブレーションデバイス(心房筋を高周波もしくは凍結凝固で焼灼することにより、心臓の興奮伝導をブロックする機器)を使用しながら、心房を大きく切ることなく心房細動を治癒します(図4)。心房細動を治癒し、左心房のわきにある血栓ができやすい左心耳を切除することで、脳梗塞を予防します。当院は多くの留学生を米国ワシントン大学に派遣して、メイズ手術の開発にかかわってきました。


メイズ手術は、肺静脈隔離術と左右心房のアブレーションから構成されます。左心耳も切除、閉鎖されます

手術後に脳梗塞を発症した患者さんは1%以下です(1))。
(1) Risk Factors of Recurrence of Atrial Fibrillation(AF) After AF Surgery in Patients With AF and Mitral Valve Disease, Yosuke Ishii, MD, PhD, etal., Seminars in Thoracic and Cardiovascular Surgery, Volume 30, Issue 3, Autumn 2018, Pages 271-278
体に負担の少ない心房細動手術
メイズ手術は高い心房細動治癒率を誇るものの、手術の際には胸骨正中切開(胸の真ん中を縦に切る)および心停止が必要な手術です。
一方で、抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を内服していても脳梗塞を起こす患者さんにおいて、弁膜症などの併存疾患がない場合には、「左心耳クリップ」が有効です(図5)。左心耳は、左心房のわきにあり血栓ができやすい組織です。この治療法は、左小開胸から左心耳を閉鎖し、脳梗塞を予防します。場合によっては、左心耳閉鎖に左右小開胸からの肺静脈隔離術を組み合わせることによって、心房細動の治癒が得られる場合もあります(写真)。


創は小さく、体への負担も小さいです
人工心肺を使用することなく、体に負担の少ない手術も可能ですので、いつでもご相談ください。
更新:2025.12.12
