国際共同研究・国内共同研究の重厚なネットワーク医療 血液疾患

大垣市民病院

血液内科

岐阜県大垣市南頬町

血液内科の歴史と伝統

当科は、1998年に名古屋大学第一内科(現 血液・腫瘍(しゅよう)内科)へ病院要請により専門医1人を派遣したことから始まります。その後、2000年より私が交代派遣となり、3人体制で当時の「内科」の中で診療体制の構築を開始しました。2004 年には、「血液内科」の独立標榜診療科となり、6人体制で現在に至ります(表1~3)。

  2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
入院患者数 16,873人 14,668人 13,927人 15,022人 16,909人
外来患者数 11,081人 12,009人 11,757人 12,031人 12,439人
診療請求額(入院) 934,565,717 円 864,218,959 円 839,746,004 円 1,024,991,793 円 1,213,559,023 円
診療請求額(外来) 785,111,752 円 951,995,631 円 1,085,434,233 円 1,203,845,260 円 1,323,381,011 円
表1 当科の診療実績数
  2014年 2015年 2016年 2017年 2018年
白血病 33 29 39 38 38
悪性リンパ腫 86 100 94 103 94
多発性骨髄腫 24 18 31 31 32
骨髄異形成症候群 33 21 38 49 41
表2 当科の新規診断患者数(がん登録データより)
血液内科病床数 40床
無菌室 7室
血液内科所属医師数 6人
日本血液学会専門研修認定施設
日本内科学会指導医 3人
日本内科学会総合内科専門医 3人
日本血液学会指導医 2人
日本血液学会血液専門医 3人
日本輸血・細胞治療学会認定制度指定施設
日本輸血・細胞治療学会認定医 1人
表3 当科の診療体制(専門性資格等)

名古屋大学医学部開学時に、東京大学より初代勝沼精蔵教授が内科学教授として着任以来、名古屋大学血液研究室は同大学医学部の歴史とともにあります。勝沼教授は日本血液学会の創始者でもあり、その勝沼精蔵教室は、第二内科、第三内科の発足後も、第一内科として長くすべての内科領域の専門分野研究室を擁し、特に血液内科はその中核を成してきました。血液学分野では、名古屋大学グループは国内においても国際的にも、常に伝統的に血液学研究・教育・診療の中核的位置を堅持してきたといえます。明治以来の国内医学会の最上位学会に位置づけられる第30回日本医学会総会は、2019年4月に、第4代第一内科教授だった斎藤英彦先生を会頭として開催されたところです。このような歴史と伝統は、現在の名古屋大学血液・腫瘍内科講座(現 清井仁教授)として継承されています。このように当科は、常に血液学の最新の成果を診療にも還元できるグループの一員であることが、強さの第一の秘訣ではないかと考えています。

血液内科の診療体制

血液内科が設置される病院の多くは、日本内科学会の「教育基幹施設」、あるいは国の指定による「がん診療連携拠点病院」のような指定要件を満たす大規模病院が中心で、血液内診療体制が整備されています。血液疾患は、造血器腫瘍(白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫(こつずいしゅ)など)、造血不全(再生不良性貧血など)、血栓(けっせん)止血異常(血友病など)とさまざまですが、造血器腫瘍はがん診療の先端的な診断・治療技術が大前提となります。

当院では、約20年前より血液内科診療体制の構築が始まりましたが、私が着任当初(2000年頃)は、血液内科診療を行うには前近代的な院内体制で、ずいぶんとまどったことを記憶しています。一方、二次医療圏の中で唯一の大規模病院ということもあり、他診療科と同様、開設早々、診療科の診療実績数は、大学病院を含め全国40位程度に達していました。

この二次医療圏内で唯一の大規模病院という地理的な環境は、いずれの診療科もハイ・ボリューム・センターとして機能する宿命にありますが、血液内科においても同様です。問題は、その診療内容やレベルであるといえるでしょう。2004年、比較的短期間で診療体制を構築した頃、病院機能の外部評価制度やがん拠点病院体制の整備などがタイムリーに導入され、これらの課題とともに、血液内科診療に必要とされる病院横断的な診療体制の整備を進めました。専門資格保有者の育成、中央調剤体制、化学療法オーダーシステムの開発、輸血管理体制、感染対策体制、通院治療センター(外来化学療法部門・初代センター長)の設置と院内マニュアル・手順書の作成や化学療法副作用評価システムの導入などです。

また輸血医療については、着任早々初代輸血センター長を兼務し、体制整備を行い、日本輸血・細胞治療学会による輸血機能評価認定制度で全国62施設目(2019年10月現在、全国の認定施設146、日本赤十字社輸血用血液製剤供給施設約9,700)として認定されました。強さの第二の秘訣は、非医師医療従事者を含む優れた人材の選抜とシステム構築にあると考えます。

先端的な診断・治療~国内・国際共同臨床研究と国際共同治験

血液内科設置当初から現在に至るまで、診療科の発展は、私個人のキャリアによる牽引の要素が大きかったと自負しています。しかしその後は、それを継承していくチーム人材のそれぞれが、維持・発展できるだけの弛まぬ精進を続けられてはじめて成立するものです。後進の中には、その価値観を共有する豊富な人材がいます。

名古屋大学血液・腫瘍内科は、成人白血病治療共同研究支援機構(JALSG)や日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)などを牽引してきた伝統があり、先端診療をこの地域に還元してきました。20年前には最も後進的な分野であった骨髄腫(こづずいしゅ)診療が、現在では最も最先端の診断・治療技術を駆使する分野になりつつあります。これについては、私が国内外の骨髄腫エキスパートとの連携で取り組んできた臨床研究で、大きな成果を上げています。

現在、日本骨髄腫学会の理事、米国の国際骨髄腫学会(IMS)でのIMWG(ワーキンググループ)招待委員、国際骨髄腫財団(IMF)でのAMN(アジア骨髄腫ネットワーク)委員を務め、国際診断基準や国際診療ガイドラインの作成に関わっています。また、医師主導国際共同臨床試験に参加し、主導していますが、国際的な共同作業の連携は、国内にも大きな恩恵をもたらすことができたと考えています。そして、これらを後進の医師たちがほぼリアルタイムで情報共有し、診療に生かせることは大きな利点となっています。

国内では、有望な新薬開発は国際共同治験体制で行われ、40以上の治験を実施してきました。10~15施設程度が全国から選定を受けますが、多くの血液領域の新薬開発治験で、当科が治験施設として選定されています。また、医師主導臨床試験においても、私は日本骨髄腫ネットワークの創設者であり、副代表を務めながら、国内・国際共同臨床試験を数多く主導してきました。最も重要なのは、国際的なエキスパートたちと共同で取り組む医師主導臨床試験です。これこそが、明日の最良の標準治療を生み出す原動力であるといえるでしょう。また輸血医療では、JICA(国際協力機構)に指名を受け、ケニアの輸血医療体制構築の派遣指導協力を担ったり、研修受け入れなども複数年次にわたって行ってきました。

血液内科の専門医は、既存の通常診療と近未来の標準治療開発である治験や臨床試験による治療の双方を理解し、最適な治療の提供を行えることが、重要な要素です。この点において当科は、良質な診断・治療体系を有しており、地方都市にありながら、国際的に先端的な治療まで選択を提示できる体制となっています。つまり、強さの第三の秘訣は国際性にあります。このような環境は、次世代の若手医師の育成環境として、血液内科診療の標準診療技術の習得のみならず、近未来の診断・医療技術の開発への参加を可能にしており、これまでに20人余りの若手血液内科医師の育成を達成してきた原動力となっています。

更新:2024.01.25