さらに安全で良質な腹腔鏡下手術を目指すシステム導入

大垣市民病院

外科 消化器外科

岐阜県大垣市南頬町

安全な内視鏡手術を可能にした3D内視鏡システム

現在、内視鏡下腹部手術は、開腹手術と同等に、標準的なアプローチとして受け入れられるようになりました。当院で胆石(たんせき)・胆嚢(たんのう)摘出術が始まったのは、1991年頃です。しかし日本で、胃がんや大腸がんなどの、より複雑な手術に導入されるようになったのは2000年頃でした。当時は、①直接手で臓器を触れることができない、②3次元の世界を2次元のモニターを見ながら行う、③鉗子(かんし)というマジックハンドの動きに制限がある、などのハンデがあり、結果的に手術時間の延長、スタッフの肉体的・精神的負担の増大などが問題となり、従来の開腹手術に劣るというのが一般的な感覚でした。腹腔鏡手術はminimally invasive surgery(MIS、低侵襲手術)ともいわれますが、「創が小さいだけで手術時間が倍になり、本当に体に優しいの?」と疑問視される時代もありました。しかし、2005年頃からはその有用性が認識されるようになり、爆発的に増えてきました。当院の本格導入は少し遅れましたが、安全性が一般的に受け入れられるようになった、2011年6月からでした。

「図1」は、最近6年間の腹腔鏡手術件数の動向です。外科の全身麻酔の年間件数は1,640~1,700件と変わりませんが、腹腔鏡手術の件数は少しずつ増加し、2018年には628件実施し、38%に達しました。当院では2019年7月までに737件の胃の切除、1,008件の大腸切除、242件の肝臓切除、91件の膵臓(すいぞう)切除の腹腔鏡手術を行い、手術時間は胃切除約2時間半、大腸切除約2時間です。全国の平均的医療機関の場合3.5~4時間かかるところをここまで短縮できるのは、開腹手術の手術件数の多さと工夫で、ハンデを克服しているからだといえます。

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図1 当院における腹腔鏡下手術の動向

2016年4月には、オリンパスメディカルシステムズ社の外科手術用3D内視鏡システムを導入しました。このシステムによって立体視(3次元視)が可能となり、先ほどのハンデが1つ減りました(写真1)。縫合などの複雑な操作が、2次元視よりもはるかにスムーズになり、食道手術、肝臓・胆道・膵臓手術など、より高度な手術を安全確実に行うことが可能となったのです。

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写真1 3D内視鏡手術の風景(内視鏡専用手術室)

食道がんの手術では、操作が首、胸部、腹部と広範囲におよび、細かな血管、神経に細心の注意を払いながら手術を進める必要があります。特に、食道と胃のつなぎ目を縫合する操作が必要となり複雑を極めますが、従来の開胸・開腹手術と比較して回復が早く、毎年80〜100%が鏡視下(胸腔鏡+腹腔鏡で)に実施されています。

肝臓・胆道・膵臓の手術は、胃・大腸と比べてさらに複雑であり、開腹手術でも高度な技術が必要とされます。膵臓切除、肝臓切除の手術総数は「図2」のとおり年間140~150件で、その中で腹腔鏡手術の占める割合も少しずつ増加し、2018年には152件中55件(36%)でした。なかでも区域切除、亜区域切除、葉切除などの複雑な肝切除や膵頭(すいとう)十二指腸切除は、繊細な血管周囲の操作が必要とされ、安全性向上のため3次元視できる機器は不可欠といえます。

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図2 当院における胃切除の動向

精緻な内視鏡手術を可能にした4Kディスプレイシステム

胃がんや大腸がんの手術に必要なことは、病変を切除するだけではなく、これらの転移しやすい組織やリンパ節をひとかたまりに取り除くことです。細胞レベルの小さながんをまき散らすことがないようにするため、解像度のより高い画像を見ながら、細かな組織、血管、リンパ管を操作して、精緻な手術を遂行しています。腹部外科手術は本来「層」の手術であり、これらを見極めることが安全な手術に不可欠であり、がん手術の成績(生存率など)の向上につながるとされています。

当院では、2019年6月にカールストルツ社製の4Kディスプレイシステム(写真2)を導入し、本格稼働から3か月が経ちました。胃切除、大腸切除では、若手外科医育成に大変役立っています。「図2、3」は、それぞれ当院の胃切除、大腸切除の動向を示したものです。胃切除は全国傾向と同様に、全体の患者さんはやや減少傾向にありますが、約50%前後で腹腔鏡手術を行っています。大腸については増加傾向にあり、2018年には332件の手術を実施し、腹腔鏡の占める割合が40%になりました。

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写真2 4Kディスプレイシステム(カールストルツ社)
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図3 当院における大腸切除の動向

近赤外線分光法(near infrared spectroscopy)は血流を解析する方法ですが、このシステムでは併用することができ、いままで視診や経験、「感」に頼っていた臓器血流、リンパ流、病変の局在を、より精密に確認することが可能となっています。全例に必要なわけではありませんが、安全な臓器温存、精緻なリンパ節郭清、病変切除ができるようになります。

県下唯一の腹腔鏡下肥満手術施設

当院では、2017年に岐阜県下で初めて、腹腔鏡下胃スリーブ状切除術を施行しました。病的肥満(Body Mass Index〈BMI〉35kg/m2以上)に対する手術治療(Bariatric and metabolic surgery〈減量・肥満・代謝手術〉)は、現在世界で年間約60万件と、海外では積極的に行われています。国内ではまだ新分野の治療で、2014年に、厳しい条件を満たした施設でのみ、保険診療で腹腔鏡下胃スリーブ状切除術を施行できるようになりました。2018年では、全国で49施設でのみ実施可能で、年間でも671例の手術件数であり、全国的にみても非常に専門性の高い手術です。岐阜県下では唯一、当院でのみ保険診療で施行可能です。

当院では2019年8月までに、17例の患者さんに腹腔鏡下胃スリーブ状切除術を行いました。術後の平均入院期間は10日間で、1年後には平均で過剰体重の66%の減量に成功しているとともに(図4)、糖尿病を有する患者さん全員で、糖尿病の改善効果を認めています。

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図4 肥満手術後の超過体重減少率

【参考文献】
1)「内視鏡外科手術に関するアンケート調査 第14回集計結果報告」、『日本内視鏡外科学会雑誌』23(6)、728-802,2018年
2)週刊朝日MOOK『手術数でわかるいい病院』、朝日新聞出版、2016年版、2017年版、2018年版

更新:2022.03.08