手術に革新をもたらす、「ロボット支援手術」

大垣市民病院

泌尿器科

岐阜県大垣市南頬町

ロボット支援手術とは?

ロボット支援手術といっても、ロボットが自ら考え、自動的に手術を行うわけではなく、これまで人間が行っていた内視鏡下手術(腹腔鏡(ふくくうきょう)、胸腔鏡(きょうくうきょう)手術など)に、ロボットの優れた機能を組み合わせて発展させた術式です。医療用ロボットであるダビンチの内視鏡カメラと3本のアームを患者さんの体に挿入し、数メートル離れたコンソール(操作席)にいる術者が、3Dモニターを見ながら遠隔操作で装置を動かすと、その手の動きがコンピューターを通してロボットに忠実に伝わり、手術器具が連動して手術を行います(写真1)。

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写真1 「ダビンチXサージカルシステム」(©Intuitive Surgical,Inc.)

カメラとアームは1cm前後の小さい切開部分から体に挿入できるため、大きく体を切り開く必要がなく、出血など患者さんの体への負担が少ないことが特徴です。また、ロボットアームはコンピューター制御で非常に精度が高く、体の深いところや狭い空間でも細かい作業を正確に行うことができます。

ロボット支援手術は20年ほど前からアメリカで始まり、急速に世界へ広がりました。2019年現在、全世界で5,000台を超えるロボットが稼働しており、年間100万件の手術が行われています。国内では2012年、前立腺がんに対するロボット支援手術が保険適用となりました。2016年には腎じんがんに、さらに2018年には肺がん、食道がん、胃がん、直腸がん、子宮体がん、膀胱(ぼうこう)がんに対するロボット支援手術が保険適用となり、ロボットの活躍する場が広がっています。

当院におけるロボット支援手術

当院では、2014年5月から前立腺がんに対するロボット支援手術を開始し、さらに2018年5月から、腎がんに対するロボット支援手術を行っています。年々その手術件数は増加しており、2019年7月までに前立腺がんに274件、腎がんに33件、合計303件の手術を施行しました(図1)。手術を開始してからの5年間、幸い大きなトラブルを経験することなく継続できています(写真2)。2019年1月からは、第4世代の機種となる「ダビンチX」という最新機種へ更新しました(写真1)。

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図1 当院におけるロボット支援手術の年次推移
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写真2 前立腺がんに対するロボット支援手術の術中風景

前立腺がんに対するロボット支援手術

前立腺がんに対し、前立腺を全摘出する手術で、へそ上を中心として、腹部に広く扇状に小さな穴を6か所開けて行います。前立腺を遊離し、骨盤内のリンパ節を摘出後、膀胱(ぼうこう)と尿道を吻合(ふんごう)します。前立腺のように骨盤の深い位置にある臓器に対する手術で、かつ、膀胱尿道吻合のような細かい運針を行う手術において、ロボットはその特性を最大限に発揮します。

当院で施行した前立腺がんのロボット支援手術260件の集計では、手術時間3時間半、輸血率1.2%、術後早期の重症合併症発生率が2.7%でした。また摘出臓器の詳細な検査では、切除断端陽性率が14.0%、リンパ節転移陽性率が1.6%でした。当院で施行した開腹手術と比較すると、手術時間は1時間ほど長くなりましたが、出血量は大幅に減少しています。開腹手術の輸血率は7.8%、術後早期の重症合併症発生率は12.9%であり、ロボット支援手術では輸血率、合併症発生率が低下していることが分かります。術後の再発率を比較すると、開腹手術と比べロボット支援手術では明らかに術後の再発が少なく、手術成績も向上しています(図2)。

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図2 前立腺がん手術の非再発生存曲線の比較-開腹手術vsロボット支援手術

一方、前立腺がんの手術において、術後の尿失禁は患者さんを悩ます合併症の1つですが、当院では適切な症例選択をした上で、陰茎海綿体神経(いんけいかいめんたいしんけい)の温存手術を積極的に行っています。神経温存の有無別で術後尿失禁の回復状況を比較すると、非温存に比べ片側温存、さらに両側温存手術において尿失禁の回復が早く、手術後1年経過時点では両側温存手術の回復率が9割を超えました(図3)。

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図3 神経温存の有無別、術後尿失禁回復の推移

腎がんに対するロボット支援手術

比較的小さい腎がんに対し、腫瘍(しゅよう)のところだけを部分的に切除する手術です。腫瘍がある側の側腹部に4~7か所の小さな穴を開けて行います。腎臓へ血液が流入する血管である腎動脈をクリップで挟んで腎臓への血流を遮断(しゃだん)した後、腫瘍のところを部分的に切除し、その後、欠損した切除面を糸で縫い合わせます。腎部分切除術は腫瘍の大きさや位置によって、切開や運針の方向が手術ごとに異なります。ロボットはお腹(なか)の中で自由自在に切開や運針が可能であり、腎部分切除においてはロボットの優れた点が遺憾なく発揮されます。

当院で施行したロボット腎部分切除術31例の集計では、手術時間3時間半、腎動脈の遮断時間18分、術後早期の重症合併症発生率は6.5%でした。切除断端陰性、血流遮断時間25分未満、合併症なしの3つすべてを満たすものを手術成功と定義した場合の成功率は79.3%であり、当院で施行した腹腔鏡下腎部分切除術の45.6%と比べ、手術成績が大きく向上しています(図4)。

表
図4 腎部分切除術の手術成功率の比較-腹腔鏡手術vsロボット支援手術

ロボット支援手術の展望

当院のデータで示したように、ロボット支援手術の導入により、従来行っていた手術がより安全に、患者さんの体への負担がより軽く実施できるようになり、さらに手術成績が飛躍的に向上しました。今後はロボット導入後5年間で培ってきた知識や技術を土台とし、これまで手術の適応とされなかった(できなかった)進行がんや難易度の高い手術にも、ロボット支援手術の適応を広げていきます。

たとえば前立腺がんにおいては、前立腺の周囲にがんが浸潤(しんじゅん)しているような局所進行がんに対する手術や、リンパ節に転移があるような転移性がんに対する、薬物治療や放射線治療を組み合わせた手術、また腎がんについては、従来、片方の腎臓をすべて取る手術を行っていた大きな腫瘍や、太い腎臓の血管に近接する腫瘍に対する腎部分切除などです。

膀胱がんに対するロボット支援手術も、優れた手術成績が報告されており、手術の開始を検討しています。さらに、高いコストの問題が解消されれば、肺がんや胃がん、大腸がん、子宮がんに対する手術も順次開始されることが期待されます。

手術用ロボットの導入は、手術に革新をもたらしました。この最新の医療をこの地域の皆さまに安心、安全に提供し続けることができるよう、日々、研鑽を重ねてまいります。

【参考文献】
1)インテュイティブサージカル社ホームページ https://www.intuitivesurgical.com/jp/
2)インテュイティブサージカル社資料

更新:2024.01.25