手術医療の安全と快適を目指して 周術期管理

大垣市民病院

麻酔科

岐阜県大垣市南頬町

周術期医療の概要

病気に対する治療の1つに手術療法があります。手術では皮膚に切開を加え、体の内部に入り込んで、病変に対し直接切除や修復を行います。周術期医療とは、手術の前、手術中、そして術後までの一連の医療行為を指します。

最近の動向としては、退院後の社会生活まで見据えた医療概念の拡大もみられます。周術期医療の最重要課題は、患者さんの安全と快適です。

手術を行う際には、体に身体的あるいは精神的・社会的にも、いろいろなストレスが加わるため、広く院内のさまざまな職種が協力しあって、手術を受ける患者さんのケアを行います。この多職種による連携の要となるのが周術期管理チーム看護師です。看護師は周術期の管理について精通しており、患者さんの視点から多職種による医療チームの指揮をとります。患者さんにとってのパートナーであり、さらに医療チームの指揮者でもあるのです。

手術の準備は手術前から始まります。周術期管理チーム看護師は、患者さんの診療記録や検査結果から全身状態をチェックし、必要に応じて検査の追加や専門各科への紹介を行います。患者さんが普段服用している薬剤は、お薬手帳を参考にチェックし直し、実際に服用している薬の確認を行います。薬によっては手術時に出血を増やしたり、周術期の合併症を増やしたりすることがあるからです。

手術前の禁煙も大切です。喫煙を続けていると、手術後に肺炎や傷口の感染を起こしたり、傷の治りが悪くなることが分かっています。手術を機会にぜひ禁煙しましょう。周術期チームが応援します。

近年、手術をする前の口腔(こうくう)機能管理の大切さが分かってきました。口の中の感染症がさまざまな病気の原因になることが明らかになっており、歯周病治療を始めとする口腔機能管理を行っておくと手術後の肺炎を減らすことができます。また、麻酔時の歯の損傷を防ぐために、グラついている歯を守るための装具を作ることもあります。手術前のみならず、手術後のケアも合併症を減らすのに有用です。

多くの患者さんは、手術後の痛みについて不安をお持ちです。全く痛みを感じないようにするのは難しいのですが、術中の神経ブロックや薬物の使用により、術後の痛みを軽くすることができます。手術後の嘔気(おうき)に対しても薬物による治療を行います。

高度化する手術医療

手術医療は近年ますます高度化し、これまでは不可能とされていた治療が行われるようになりました。例えば、大動脈弁が狭くなり心臓に負担がかかるようになった場合では、これまでは胸を開いて大動脈弁を取り替える必要がありました。しかし、最近では、カテーテルと呼ばれる細い管を体に入れ、その管を通して狭くなった弁を治療することが可能になりました。また、大きな傷をつけることなく、体に入れた細い内視鏡で観察しながら手術を行うことができるようになりました。これらの手術は傷口が小さいことから痛みも少なく、翌日から歩行することも可能になっています。

ロボット支援手術も行われるようになり、複雑な手術も小さな皮膚の傷で出血も少なく行えるようになりました(写真)。手術の高度化に伴い手術室内も様変わりし、医療機器が増え、医療機器の専門家である臨床工学技士が機器の運用に目を光らせています。

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写真 手術は高度化し、ロボット支援手術も多数行われています

このように手術の多くが、体にとって負担の少ない手術に置き換わりつつあることで、これまでは手術ができなかった重症患者や高齢者の手術が、安全に行われるようになりました。

手術中の全身管理も、進歩を遂げてきました。麻酔に関連する薬はより調節性に富む安全なものに変わり、中心静脈カテーテルの挿入や、末梢(まっしょう)神経ブロックなどの麻酔中に行われるさまざまな手技には、超音波を利用し詳細に画像を観察しながら安全に行うことができるようになりました。麻酔中に脳血流の状態や筋弛緩剤の効果を把握できるようになり、さらに最近では心臓の弁の動きを3D画像でリアルタイムに観察可能となっています。

当院は、内視鏡手術、ロボット支援手術、カテーテル手術などの先進的な医療をいち早く取り入れており、麻酔科医師や手術室看護師、そして周術期管理チーム看護師は、これらの手術が円滑に行えるように、また、患者さんの安全に細心の注意を払いながら見守っています。

チーム医療による安全と快適

このようにますます高度化する医療を支えるのは、多職種からなるチームです。手術を行う外科系の医師や、手術中の全身管理を行う麻酔科医師、手術の介助や手術中の患者安全を支える手術室看護師、薬剤の適正使用を監視する薬剤師、医療機器の安全な運用を支える臨床工学技士など、多くの職種に支えられています(図)。これらの多職種をまとめる役割を持つ、周術期管理チーム看護師も活躍しています。当院では、チームにとって最も大切な多職種間の連携がスムーズに行われており、連携による医療の質は高く維持されています。

「図」に示すように、多職種チームの輪の中に患者さんと家族が含まれており、手術を受ける患者さんとその家族もチームの一員として重要な役割があります。手術を受けるということは、その手術に伴う合併症などの危険(リスク)を受け入れることです。これまで述べてきたように、先進的な手術医療を安全に行うために医療機器の進歩と現場の努力が重ねられていますが、いかに小さな手術であろうと、手術や全身麻酔は必ずリスクを伴います。全身麻酔中では多くの場合、筋肉を弛緩させる薬を使用するため、自分で呼吸をすることができなくなり自発呼吸という安全装置は働かなくなります。また、血圧や心拍数などの循環自動調節も行われなくなり、血圧や心拍数の変動が大きくなります。リスクを伴わない手術や麻酔はありません。このようなリスクがあることを、患者さん自身が理解し、受け止める必要があります。

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図 周術期チームは多職種から成り、患者さん自身もメンバーの一人です

周術期医療を医療従事者に一方的に任せるのではなく、どのような手術が行われるのか、その手術を受ける場合の合併症にはどのようなものがあるのか、そのほかの治療法はないのか、などをご自分でよく理解してください。そうすることにより、周術期チームの輪が完成し、良質な手術医療に近づくことができます。

手術や麻酔に関連するさまざまな説明と同意書の記入など、多くの手続きがあります。医師からの説明が十分理解できない場合でも、周術期管理チーム看護師にお尋ねください。患者さんの不安を和らげるように丁寧に説明します。患者さんが納得して手術を受けていただくために、チーム一丸となって努力します。

更新:2022.03.08