院内の呼吸管理の向上を目指して RST(呼吸サポートチーム)

大垣市民病院

呼吸器内科

岐阜県大垣市南頬町

呼吸管理のスペシャリスト

当院は急性期病院であり、内科系・外科系疾患を問わず、人工呼吸管理(自身の呼吸では酸素化が保てない、あるいは、息をする力が弱いなどの理由で、呼吸を補助する人工呼吸器の機械を装着すること)を必要とする患者さんが大勢います。人工呼吸管理を行うには、医師の力だけでは不可能で、看護師による医療ケアや機器管理、リハビリなど、コメディカルと協力して行う必要があります。全国的にも、人工呼吸管理に関して専門的知識を持った各職種がチームを組んで患者さんの治療をサポートする取り組みが広まりつつあり、当院では、2014年にRST(Respiratory Support Team:呼吸サポートチーム)が発足しました。

当院のRSTは、医師(呼吸器内科医および救急医)、看護師(救急疾患や呼吸器疾患の専門的知識を持つ認定看護師を含む)、臨床工学技士、理学療法士、歯科衛生士で構成されています。私たちは、週1回、院内で人工呼吸管理を行っているすべての患者さんをカルテで情報共有し、その中から人工呼吸管理が長期化しそうな方4、5人を中心にRSTチームで回診し、治療方針の助言をしています。なお、回診時の各職種の具体的な役割を、「表1」に示します。チーム回診を通じて、呼吸管理の標準化や人工呼吸器からの早期離脱を目指しています。このように当科では、主治医と一緒になって患者さんの呼吸管理をサポートし、呼吸管理の質の向上を目的として活動しています。

職種 役割、具体的な活動内容
医師
(呼吸器内科医、救急医)
チーム統括、診療科との連影、治療方針の検討
看護師 コーディネーター、医師のサポート、病棟スタッフとの連携、看護技術の指導
臨床工学技士 日々の機器の保守・点検、人工呼吸器の設定やアラームの確認、人工呼吸器使用患者のデータ集約
理学療法士 呼吸理学療法の実践・効果の評価、離床への指導
歯科衛生士 口腔ケアの徹底、手技の指導
表1 RSTの構成メンバーとチーム回診時の役割

人工呼吸器からの離脱を目指して

呼吸状態が悪い方にとって、人工呼吸器を装着して呼吸管理を行うことは必要なことですが、その一方で、人工呼吸器を装着することによるデメリットも存在します。具体的には、人工呼吸器の装着期間が長くなることで、人工呼吸器関連肺炎を生じるリスクが増し、死亡率が増加したり(1)、せん妄と呼ばれる意識障害や、四肢の筋力低下などの神経学的後遺症が生じて、人工呼吸器離脱後も認知能力や身体活動の低下を引き起こしたりするとされています(2)(3)。

人工呼吸器からの早期離脱がこれらの合併症予防につながると考えられているため、RST回診では、離脱に向けた人工呼吸器の設定変更や治療方針の助言を行うようにしています。一方で、無理矢理、人工呼吸器離脱を図ることで、かえって患者さんの状態が悪化する心配もあるため、状態を見極めながら、必要であれば人工呼吸管理を継続するように助言することもあります。

快適なNPPV管理を行うために

呼吸状態が悪い方に行う呼吸管理として、前述した人工呼吸器以外に、非侵襲的(ひしんしゅうてき)陽圧換気(NPPV)と呼ばれるマスク型のインターフェースを装着して行う人工呼吸器があります(写真)。

写真
写真 NPPV専用マスク
両サイドをバンドで固定し、鼻と口を覆うようにマスクを装着します。このマスクを通して、人工呼吸管理を行います。

NPPVは、通常の人工呼吸器に比べて患者さんの体への負担が少なく、マスクを装着したまま会話ができ、さらに一時的にマスクを着脱して飲食することができるため、当院でも心不全や慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)(COPD)の急性増悪などに対して、よく用いられています。しかし、特殊な形状のマスクを顔に密着させるため、皮膚に発赤や褥瘡(じょくそう)を生じることもあります。そこで、RST回診では、数種類のマスクから患者さんに一番合ったマスクを選んだり、皮膚保護剤を用いてマスク装着の工夫をしたりすることで、より快適にNPPVを継続できるように助言を行っています。

安全管理と教育的役割

RSTでは、安全で質の高い呼吸管理を行うことを目的とし、呼吸管理に関するマニュアル作成・整備も行っています。これまでに、酸素療法マニュアル、人工呼吸器管理マニュアル、非侵襲的陽圧呼吸マニュアルなど、各職種が共通で使用できるマニュアルを作成しました。また、早期リハビリテーションマニュアルを現在作成中です。これらは院内の電子カルテから全職員がアクセス可能ですので、日常業務で疑問が生じた際に、いつでも素早く参照することができます。研修医や新人職員だけでなく、呼吸管理を日常的に行わない非専門医にとっても、自己学習に役立つ内容となっています。

また、月1回の頻度で、実技中心の参加型勉強会を開催しています。さらに、年1回、シミュレーショントレーニングを開催していますので、人工呼吸器管理中のトラブルシューティングについて、シナリオを通じて学ぶことができます。

以上のように、さまざまな活動を通して、高い専門性を発揮しながら、なおかつ、患者さんにとってより良い医療とは何かを考えて提供できるように、今後もチーム一丸となって取り組んでいきたいと考えています。

参考文献
1)Chastre J, et al. Am J Rspir Crit Care Med 2002;165:867-903
2)Pandharipande PP, et al. Engl J Med 2013;369:1306-1316
3)Herridges MS, et al. N Engl J Med 2011;364:1293-1304

更新:2022.03.14