救急診療の受け皿として調整役を担う 分類不能疾患

大垣市民病院

総合内科

岐阜県大垣市南頬町

救急外来の現状

当院の救急外来には、2018年度で40,252人の患者さんが来院しましたが、そのうちの約4分の1にあたる9,931人が、75歳以上のいわゆる後期高齢者です(図)。

グラフ
図 救急受診患者数と75歳以上の割合

高齢者の中には去痰不全(きょたんふぜん)や嚥下(えんげ)機能の低下による肺炎のリスク、消化吸収機能の低下からくる低栄養、慢性的な心機能低下、認知症による自己管理力の低下などをベースラインとして、疾病状態の一歩手前であることが少なくありません。施設や在宅で過ごしている方の中にも、ぎりぎり維持できている状態であり、もう少し悪化したら病院での対応が必要な方が多く含まれています。また、普通に生活されていても、いくつかの慢性疾患を持っている方がたくさん受診されます。

このような背景から、高齢者は救急外来の受診動機となった疾患や状態そのものに入院の適応がなくても、通院困難などが原因で帰宅できず、入院となることがよくあります。また、脱水・低体温症・熱中症といった、通常は救急での応急処置で回復し帰宅できる病態でも、それが引き金となって活動性が低下して日常生活が困難となり、入院せざるを得ないこともしばしばです。

その際、入院する科を決定するのが困難なことが多くあります。現代の医療は専門分化が進み、診療科も細分化されています。その中で、先に述べた脱水・低体温症・熱中症・低栄養などは、これらの専門分野に振り分けることが困難な病態です。また、通院困難となる原因の多くは加齢に伴う身体能力の低下であり、疾患として分類することが適当でない要素が多く含まれています。さらには、独居で付き添う人がいないなど、社会的な要因もこれに加わってきて、ますます担当科決定を困難にしています。

救急診療の特殊性も一因となります。救急診療は、重症度の把握とその安定化を第一義とし、手術や入院の必要性を短時間で把握して急を救(たす)ける場です。しかし、救急を受診される方の病態は、病名をその場で診断できるものもある一方、病名を明らかにするのに数日を要することも少なくありません。疾患名は明らかでなくても、入院加療が必要で、疾患名の特定は入院後に行うというケースもよくあるのです。

救急外来の機動性と各科での分担

高齢者の場合は、もともと多くの機能障害や慢性疾患を持っているため、症状が複雑になり、診断を困難にすることも多くあります。このような病態で入院先の診療科を検討することは、患者さんにとってあまりメリットがない上、その作業に時間を割かれることで救急診療に求められる機動性が損なわれてしまいます。病院によっては、救急部門が入院病棟を持ち、分類不能症例として入院診療を担当するところもありますが、退院調整などに時間をとられ、救急医として本来行うべき救急外来診療が手薄になってしまいます。

当院では内科系各診療科が協力して、専門分野の医師である前に内科医であるとの考えに立ち、分類不能症例については、当番科を決めて分担する体制をとっています。このシステムによって、救急外来での滞在時間の減少・救急担当医の機動性の確保を目指しています。

他病院では、総合内科がその役割を担うところもあります。しかし、総合内科医の人数は十分ではなく、内科系診療科から応援を頼むところもあるようです。当院では総合内科の人員を、調整に必要な最小限とし、外来で各診療科につなぐゲートキーパーとしての役割に徹し、入院業務は各科で負担することによって、内科系診療科の専門的診療が総合内科への応援で人員減にならないよう担保しています。

一方、一般外来を受診した患者さんのうち、生命にかかわる危険な兆候が疑われる方は、救急医が救急外来での診療を快く受け入れてくれますし、入院患者さんの全身管理で難しいことがあるときにも積極的に協力してくれます。さらに内科系当直も1か月に7コマ前後担当して内科系医師の負担も軽減してくれています。このように、内科系診療科と救急医の各々が得意な分野を補うことにより、診療が機能的に行われています。

「フレイル」と総合内科の役割

「フレイル(1)」という言葉があります。厚生労働省研究班の報告書には、「フレイルは『身体的』、『精神・心理的』そして『社会的』要素からなり、健常な状態よりは虚弱化が進行しているが、いわゆる『身体機能障害(disability)』とは異なり、適切な介入によって健常状態に回復することが可能な状態ということができる」と記載されています。

高齢の方は、高頻度でこのフレイルの状態に陥っています。しかも普段の生活に大きな支障がない場合は独居率も高く、また罹患を契機に日常生活の能力が格段に低下することが多いため、帰宅・通院が困難になることも少なくありません。その結果、本来入院が必要でない軽症や、中等症の疾患でも入院加療が避けられない場合が多くあります。当院では、「フレイル+軽症・中等症の疾患」という構図での入院に対しては、このようなことを踏まえて対応しています。

また、退院後の生活についても高率に見直しが必要になってきます。そのため、救急からの入院を生活や介護環境を整えるための入院と位置づけ、よろず相談地域連携課などと協力して、早期から介入してもらっています。病診・病病連携や介護施設との連携の充実も含め、地域の背景と当院の担う役割とのバランスが取れるように努力しています。

救急受診時には通院加療が可能と判断された患者さんが予測通りの経過を辿っているか、あるいは悪化していて入院が必要な状況になっているかの確認についても、できるだけ当院を受診していただきdataなど容易に比較できる環境で判断しています。その上で治療方針が定まれば地域の医療機関に紹介して、患者さんの利便性向上を図っています。

また、その日に結果が出ない血液や尿の培養検査の結果確認などは、総合内科で確認するようにしています。さらに、必要に応じて総合内科の予約を取るなど、再診がスムーズにできるように心がけています。

高齢化による医療・福祉の歪みは日常の診療にさまざまな影響を与えており、受診者側のニーズと医療者側が提供できるソースとの間にすり合わせが必要となってきます。その中で、総合内科は、患者さんの救急外来受診に際し、外来での受け皿であるとともに、内科系入院の調整役として役割を担っています。

【参考文献】
(1)「後期高齢者の保健事業のあり方に関する研究」(平成27 年度厚生労働科学研究特別研究 班長:鈴木隆雄、国立長寿医療研究センター)

更新:2022.03.08