「分散型」ではなく「集中型」、地方の救急医療が抱える問題点と当院の答え 救急車搬送患者の高齢化、軽症化

大垣市民病院

救命救急センター

岐阜県大垣市南頬町

救急医療を行う医療機関は通常、一次救急医療機関、二次救急医療機関、三次救急医療機関という分類がされています。一次救急医療機関は入院が必要ではない患者さんの診療を、二次救急医療機関は一般的な入院加療が必要な患者さんの診療を、三次救急医療機関は重症患者さんの診療を行うのが主な役割です。

2008年に全国で3,175施設あった二次救急病院は、2018年には2,896施設へと減少しています。近年、救急搬送患者の高齢化(図1)、軽症化(図2)が起きており、救命救急センターに搬送される軽症患者は増える傾向にあります。

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図1 年齢別の搬送人員と5年ごとの構成比の推移(全国)
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図2 傷病程度別の搬送人員と5年ごとの構成比の推移(全国)

全国的には救急車の約75%が二次救急医療機関に搬送されており、救命救急センターへの搬送は約25%となっていますが、当医療圏においては約65%が救命救急センターである当院への搬送となっています(図3)。

何故このような状態になっているのでしょうか?

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図3 西濃地域の救急患者受け入れ件数

規模の小さい二次救急医療機関の疲弊

二次医療機関は病院の規模によって、受け入れ状況が大きく異なります。三次医療機関と遜色ない規模・医療体制の病院と、病院規模が小さく救急医療を満足に行うだけのマンパワーの確保ができない病院があります。岐阜県西濃地域では、二次救急医療機関で救急医療を担う医師の高齢化、治療を行う専門医の減少、救急医療に対して求められる、世間的な医療水準の上昇に対応できる医療機関が少なくなっていることが挙げられます。

臨床研修指定病院ではない病院の当直は、ほとんどが医師1人の勤務で行われていますし、非専門分野の患者さんを受け入れることへのリスクもあります。例えば、心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳卒中、外傷などで緊急処置が必要になった場合、通常はすぐに専門医に連絡をしますが、一部の二次救急医療機関ではその専門医も減少しており、対応不能になっているのが現状です。仮に自分の病院で対応困難だった場合、転院搬送による時間的なロス等とそれに伴う後遺症を考慮すると、受け入れ自体が患者さんにとってマイナスになる可能性もある場合には、受け入れを断るのは仕方のないことかもしれません。

こうなると多くの病院が救急医療はリスクであると考え、地域の救急医療は衰退してしまいます。

病院の救急外来から地域の救急外来へ

では、地域の救急医療をどうやって守ったらよいのでしょうか?当院としての答えは、「集中型」救急医療体制にあります。

先述のとおり、大垣市民病院は「断らない救急」を実践し、その文化を大切にしています。ですから、当院が西濃地域全体にとっての救急外来として機能し、救急患者の集約化を行うことで近隣病院の医師の疲弊を防ぎ、救急に関わるリスクを回避することが、地域の安全な救急医療体制への最善の道であると考えます。

都市部では、1つの医療機関に患者さんが集中して救急医療の負担が増加することがないよう、「分散型」の救急医療が推奨されていますが、それとは全く逆の方法です。

地方では、分散できるほどの救急医療機関がないことが一番の理由ですが、むしろ地方で救急医療を学ぶ医師にとっては、救急症例が増えることで、都市部に負けない経験を積むことができるメリットにもなります。

重視される役割分担

救急患者の集約は、小規模な二次救急医療機関の医師の疲弊を防ぎ、救急診療のリスクを軽減する良い方法だと考えます。しかし当院での受け入れと入院治療ばかりを行っていては、すぐに入院ベッドがいっぱいになってしまい、必要な患者さんに必要な治療を行うことができなくなってしまいます。

そこで、救急外来で高度な専門的治療の必要性がないと診断された患者さんには、自宅などから近い二次救急医療機関や施設に、診断後に搬送させてもらうなどの連携が必要です。また、この連携が強化されれば、救急患者のさらなる集約化が地域でより安全な救急医療が提供できる方法であると考えます。

【参考文献】
1)平成30年版 救急救助の現況 総務省消防庁
2)救急医療体制の現状と課題について – 厚生労働省 2018/4
3)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況 – 厚生労働省 平成28年

更新:2022.03.08