軽いフットワークで腹部救急手術に対応する 急性腹症・腹部救急

大垣市民病院

外科 消化器外科

岐阜県大垣市南頬町

24時間体制で対応する急性腹症・腹部救急

突如として急激な腹痛が起こり、急性の経過をとる疾患を、総じて急性腹症・腹部救急といいます。かつては適切な診断の困難な疾患が多かったのですが、CTなどの画像診断の解像度が進歩し、診断能力も改善しました。しかし、迅速な対応を要求されることは変わりありません。

当院は救急センターを擁し、地域の救急医療を支え、外科はセンター部と緊密な連絡を取りあい、24時間体制で患者さんに対応しています。対象となる主な疾患は消化管穿孔(せんこう)、腸閉塞(ちょうへいそく)(イレウス)、虫垂炎(ちゅうすいえん)、胆嚢(たんのう)などがあり、鑑別するべき他の疾患としては婦人科疾患、泌尿器科疾患などがあげられます。

日本全国の問題ですが、地域における医療人の不足から緊急手術の行えない施設の多い中、私たちは若いスタッフの軽快なフットワークで腹部救急手術に対応しています。治療開始が遅れれば、生命に危険の及ぶこともありますが、仮に危機的でなかった場合も患者さんの苦しむ時間が長くなり、手術後の回復も時間がかかったりします。

虫垂炎、胆嚢炎の患者さんが夜間受診されても翌日まで手術開始を延期する施設がほとんどですが、私たちはすぐに手術を行います。また胆嚢炎に対しては多くの場合、緊急腹腔鏡(ふくくうきょう)手術で対処しています。

確立され検証し続ける大垣式腸閉塞(イレウス)の診断と治療

腸閉塞(イレウス)も原因によっては致死的な場合もあり、緊急対応の望まれる病態もあります。腸閉塞の診断・治療のアルゴリズムは時代とともに流行り廃れがあり、施設や医師にとってもまちまちなため、どの方法がベストであるか不明なのが現状です。

当院では、腸閉塞の原因を絞扼性(こうやくせい)と非絞扼性に大別し、前者に対しては即刻手術を行っています。後者と診断された場合は胃管を留置後、造影剤(ガストログラフィン)で消化管透視を行い、その結果を5時間以内に4型に分類し、手術あるいは保存的治療を選択しています(図)。また、救急でイレウスと診断された患者さんはすべて外科が診ており、診断・治療の遅れがないように努め、治療成績の向上につなげています。

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図 消化管透視による腸閉塞(イレウス)診断。大腸まで流れない場合は手術を選択する

閉塞性大腸がん(大腸がんによる腸閉塞)は近年、大腸がんが増加するとともに、腸閉塞で発症することも頻回になってきました。がんで細くなった部分に金属ステントを入れて内腔を拡張したり、肛門から減圧チューブを挿入して、後日手術する待機的手法をとる施設が国内ではほとんどです。これらの方法は穿孔の可能性が決して低くはなく、また患者さんが身体的・精神的に苦しむ時間も長くなり、結果的には入院日数の延長、医療費の上昇につながります。

当院では、閉塞性大腸がんも即刻緊急手術の対象としています。そのアプローチ方法の紹介とともに短期(術後合併症)、長期成績(生存率)ついても良好であることを報告しています。高齢化と多様化の進む中、私たちの提唱するシンプルな方法の需要はますます増えてくると考えます。

急性腹症・腹部救急に対する学術活動

自分たちの診断・治療法が適切であるかを検証し、世間に発表し、評価にさらされることは重要なことです。急性腹症は当院外科のテーマの一つであり、『急性腹症の診断と治療』(蜂須賀喜多男、中野哲ら共著、医学図書出版、1987年)と『救急診療の実際』(同共著、廣川書店、1989年)を、腸閉塞の診断と治療については『臨床外科クリニックイレウス治療』(蜂須賀喜多男、磯谷正敏共著、医学書院、1991年)の各書籍を、上梓しています。

前述した腸閉塞治療に対しては、Surgery. 162(1),139-146, 2017 でMori H. et al. が、閉塞性大腸がん
の一期的手術については、World J Surg. 39(9), 2336-42, 2015 でOtsuka S. et al. が、また胆嚢炎については、Updates Surg. 68(4) 377-383, 2016 でOnoe S. etal. が発表し、良い成績であることを報告しています。

更新:2022.03.08