biopsychosocial modelで行う小児診療 小児への心理発達ケア
大垣市民病院
小児科
岐阜県大垣市南頬町
公認心理師との協同によるbiopsychosocialな小児医療を急性期病院でもカバーする
これからの小児診療は、従来の生物医学的(biological)な課題への対応に加えて、子どものこころの問題への対応、発達障がい児の支援、成育環境と疾患への配慮など生物・心理社会医学的(biopsychosocial)な捉え方が必要となってきています。この方向性は急性期病院でも例外ではありません。当院は2011年から小児科医(子どものこころ専門医)と臨床心理士(公認心理師)を配置し、外来および入院例に対応してきました。小児専任の公認心理師は、小児医療療育センターでは配置が進んでいますが、急性期病院で同様の対応ができるところは、全国的にもまだ少ないのが現状です(写真1)。
入院例におけるbiopsychosocialの捉え方の重要性
さまざまな身体症状症(診察や検査では身体異常や検査結果などの所見がなく、一方で、症状そのものや症状に伴う苦痛、不安によって、生活に支障が生じている状態)を呈して心理的な介入が必要な患者さんは増えており、長期入院を余儀なくされる場合もあります。これらの患者さんへの対応には、biopsychosocialを考慮した医療が必要であり、子どもの発達心理を熟知する公認心理師の参画が必須です。
1例を紹介します。Kさん、4歳女児。食事中に肉が喉(のど)につまったことを契機に、経口摂取が全くできなくなったため入院となりました。消化器系、咽喉頭(いんこうとう)系に異常がなく、原因として心理的要因が考えられました。そこで、子どものこころ専門医の指導のもと、言語療法士による嚥下(えんげ)トレーニング、管理栄養士による栄養評価を行うとともに、公認心理師が介入しました。そして母親の子育ての大変さを支持し、患児の遊びを通した素直な気持ちの表現を引き出すことに成功しました。体重の減少と脱水症が進み、経管栄養治療が必要になる寸前でしたが、経管栄養を導入することなく軽快に至りました。
このようにbiopsychosocialな小児疾患を多職種で集学的に治療することが必要な時代になってきたのです(写真2)。
子どもコンサルテーション・リエゾン活動
当院は、小児循環器科、新生児科が独立した診療科として、2次医療圏を超えて重症患者を受け入れてきた歴史があります。最近、重篤な慢性疾患を持つ小児への心理発達ケアが課題となっていますが、小児循環器専門医、新生児科医から心理社会的な側面から評価してほしいという依頼を受け対応しています(子どもコンサルテーション・リエゾン)。
1,500g未満の極低出生体重児の生命予後は向上しましたが、行動発達の予後には注意を要します。就学時に「落ち着きがない」「読み書きが苦手」など発達行動の問題を指摘される例では、地域にどのような支援のリソースがあるかをふまえて、適切な時期に地域の支援につないでいくことが重要です。彼らNICU卒業生の発育発達評価を依頼されることも増えています。
子どものこころ専門医と公認心理師が、母子への面接を通して評価し、支援をすることにより、小児循環器科医、新生児科医が専門診療に専心できることにもつながります。
地域連携による発達障がいの診療
発達に偏りがあり、医療機関を受診する子どもは増加の一途であり、小さな困り感を持つ例も含めると、10%にも上るとの調査(杉山ら)(1)があります。今や発達障がい診療は小児医療の中でもcommon disease(一般的な病気)になりつつありますが、患者さんの数に比べて、発達を診る小児科医、児童精神科医は圧倒的に不足しているのが現状です。
当院は高度急性期病院であるとともに、地域の子どもたちを守る地域支援病院としての役割を担うために、発達障がい診療にも、早くから対応してきました。
発達障がいの診断には、詳細な成育歴を伺い、適切な発達心理検査を行う必要があり、公認心理師の参画が必須な領域です。また地域の療育、教育施設、かかりつけ医との連携が特に重要な分野でもあります。当院の医師が、大垣市就学支援委員として活動しています。地域医療支援ネットワーク(OMネット)により、子どもの心相談医のかかりつけ医との連携も進んでいます(表)。
症例 | 2018年 | 2017年 | 2016年 | 2015年 | 2014年 |
---|---|---|---|---|---|
心身症 | 33 | 20 | 24 | 15 | 28 |
知的障害 | 63 | 29 | 36 | 43 | 17 |
自閉症スペクトラム障害 | 24 | 30 | 48 | 52 | 48 |
注意欠陥多動性障害(AD/HD) | 49 | 45 | 57 | 35 | 34 |
その他(検査など) | 29 | 13 | 15 | 45 | 24 |
合計 | 198 | 137 | 180 | 190 | 151 |
ERにおいてもbiopsychosocialな小児疾患を見逃さない
当院のような24時間体制の高次救命救急センター(ER)を併設する病院では、身体症状を有する小児が頭痛、腹痛、全身倦怠感(けんたいかん)など、さまざまな主訴で来院します。当院のER受診者の20%は小児例であり、小児が救急車で来院することは日常的な光景となっています。
緊急入院した患児の中に、その原因が発達の偏りや、情緒的な問題に起因する例がまれではありません。また最近激増しているこども虐待への対応も重要です。高度急性期病院でもbiopsychosocialな側面から対応できる体制づくりを行っていきます。
【参考文献】
(1)『講座 子どもの診療科』、杉山登志郎、株式会社講談社、2009年
更新:2024.01.26