神経内視鏡手術による治療例 脳腫瘍、頭部外傷

大垣市民病院

脳神経外科

岐阜県大垣市南頬町

経鼻内視鏡手術

下垂体腺腫は、脳下垂体というホルモンをつくるところにできる良性腫瘍(しゅよう)です。当院でも2011年から内視鏡による経鼻的手術を行っています。鼻から4mmの太さの内視鏡を入れて、腫瘍をとります。「図1」に示した患者さんは、40歳代の女性です。腫瘍は3cmで、右海綿静脈洞(かいめんじょうみゃくどう)に浸潤(しんじゅん)していましたが、幸い腫瘍は柔らかく、すべて取ることができました。術後4年経ち、再発はありません。

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図1 下垂体腺腫手術

脳腫瘍(錐体斜台部髄膜腫、類表皮嚢胞など)の頭蓋底手術

脳腫瘍の多くは、頭蓋(ずがい)骨をはずして腫瘍を取る手術(開頭腫瘍摘出術)を行います。錐体斜台部髄膜腫(すいたいしゃだいぶずいまくしゅ)や三叉神経鞘腫(さんさしんけいしょうしゅ)といった腫瘍では、前経錐体到達法(anterior petrosal approach)といった頭蓋底手術で腫瘍を摘出します。8時間以上かかる難手術になりますが、当院ではこういった手術も行っています。

類表皮嚢胞(るいひょうひのうほう)(epidermoid)も同様の頭蓋底手術を行いますが、再発しやすいことが知られています。特に、神経や血管の裏側に腫瘍被膜が癒着(ゆちゃく)しており、これを取り残すと腫瘍が再発しやすくなります。当院では、頭蓋底アプローチに加え、内視鏡を組み合わせることによって、通常の手術で死角となる神経や血管の裏側の腫瘍被膜も可及的に摘出し、再発率を下げる取り組みをしています。

「図2」は、60歳代の、類表皮嚢胞の患者さんです。MRIの拡散強調画像で、腫瘍は白く写っています。術後のMRIでは、腫瘍がほぼ取りきれているのが分かります。

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図2 類表皮嚢胞手術

頭部外傷

従来、入院が必用となる頭部外傷(急性硬膜下血腫(こうまくかけっしゅ)、脳挫傷(のうざしょう))は交通事故によるものが多い傾向がありました。しかし交通安全が啓蒙され、自動車の安全装備が充実すると、交通事故による頭部外傷は減少し、代わりに高齢化社会と相まって、80歳以上の高齢者が転倒して入院することが増えています。このような患者さんは、心臓や腎臓に持病があり、ワルファリンなどの抗凝固薬(俗に言う血液さらさらの薬)を飲んでいることも多くあります。

頭部外傷では、これまでは全身麻酔で、頭蓋骨を大きくはずす、開頭血腫(かいとうけっしゅ)除去術を行っていました。しかし高齢者で心臓病があり、抗凝固薬を内服していると、体への負担が大きくなります。そういった患者さんには、全身麻酔ではなく、静脈麻酔を行い、頭蓋骨に小さく穴をあけて、内視鏡で血腫をとることによって傷を小さくし、体の負担を軽減して、術後の全身合併症を減らす工夫をしています(図3)。

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図3 急性硬膜下血腫手術

更新:2022.03.08