エキシマレーザーカテーテルによる治療 急性冠症候群(ACS)

大垣市民病院

循環器内科

岐阜県大垣市南頬町

急性冠症候群とは

急性冠症候群(きゅうせいかんしょうこうぐん)(ACS)は、冠動脈粥腫(かんどうみゃくしゅくしゅ)(プラーク)の破綻とそれに伴う血栓形成により冠動脈内腔(ないくう)が急速に狭窄(きょうさく)・閉塞(へいそく)し、心筋が虚血(きょけつ)・壊死(えし)に陥る病態を示す症候群です。急性冠症候群の治療は再灌流療法(さいかんりゅうりょうほう)が必須であり、いかに迅速に、確実に合併症なく血流を再開させるかがポイントになります。

エキシマレーザーとは

エキシマレーザー(Excimer Laser)とは、レーザー媒質に希ガスやハロゲンなどの混合ガスを用いる紫外線(UV)レーザーで、代表例としてArFエキシマレーザー(波長193nm)、KrFエキシマレーザー(波長248nm)、XeClエキシマレーザー(波長308nm)、XeFエキシマレーザー(波長351nm)があります。

エキシマレーザーは、紫外領域のレーザーとしては例外的に高効率で発振でき、かつ装置を比較的小型にできる特長があり、工業や医療(レーシック、冠動脈形成、リード抜去)など、さまざまな分野で応用されています。医療用としてはXeClレーザーが使用されています。

冠動脈疾患とエキシマレーザー

当院では一般的なバルーンカテーテルによる拡張や、血栓吸引カテーテルによる血栓吸引に加えて、エキシマレーザーカテーテルによる血栓蒸散による再灌流(さいかんりゅう)を導入しています。

エキシマレーザーによる冠動脈治療(Excimer laser coronary angioplasty ; ELCA)では分子結合の溶解(光科学的効果)、光熱エネルギーの産出(光熱的効果)、力学的エネルギーの創出(光力学的効果)による蒸散で血栓およびプラークはガス、水分および赤血球(5~7ミクロン)と同程度の微小片に分解されるので、末梢(まっしょう)で塞栓(そくせん)する可能性が低く、安全に血管形成を行うことができます(図1)。

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図1 エキシマレーザーカテーテルによる冠動脈プラーク除去の機序

もともとELCAは、①伏在静脈バイパスグラフトにある病変、②入口部病変、③長い病変(20mm以上)、④中程度の石灰化病変、⑤ガイドワイヤが疎通しうる完全閉塞病変、⑥PTCA不成功病変に有効とされていましたが急性冠症候群において、ステント留置前のELCAは血栓吸引より優れるという報告がなされ(*1)、急性冠症候群では重要な治療という認識が高まっています。

特にステント留置後の血流に優れるという報告から、当院では急性冠症候群の治療では積極的にELCAを行っています(図2)。

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図2 エキシマレーザーカテーテルによる冠動脈治療の実際

エキシマレーザーのその他の活用

エキシマレーザーを用いた手技としては、エキシマレーザーシースによるペースメーカー等の植え込み型心臓電気デバイスのリード抜去手術があります。植え込み型心臓電気デバイスは電池交換のための手術が必要であり、交換手術を繰り返すごとにデバイス感染のリスクが増大していきます(*2)。感染を起こした場合は、リードを含めてデバイス全体を抜去する必要があります。

また、経年劣化によるリード断線のために新規リードの追加が必要なとき、すでに複数本のリードが留置されていて新規リードを追加できない場合は、心臓内に留置した古いリードを抜去する必要があります。留置後期間の経過したリードは心臓内に癒着しているため、その抜去には開心術が必要とされてきました。しかし、エキシマレーザーシースを用いることで癒着組織を蒸散させ、リードを経皮的に抜去することが可能となりました。

当院でも2016年のエキシマレーザー導入後はELCAに加えてレーザーシースによるリード抜去も行っています(図3)。

表
図3 エキシマレーザーカテーテルおよびシースによる治療実績

【参考文献】
*1 Shishikura, D., et al., Vaporizing Thrombus With Excimer Laser Before Coronary Stenting Improves Myocardial Reperfusion in Acute Coronary Syndrome.
Circulation Journal, 2013. 77(6): p. 1445-1452.
*2 Olsen, T., et al., Incidence of device-related infection in 97 750 patients: clinical data from the complete Danish device-cohort (1982-2018). Eur Heart J,2019. 40(23): p. 1862-1869.

更新:2022.03.08