硬性鏡を用いた呼吸器インターベンション 肺がん

大垣市民病院

呼吸器内科

岐阜県大垣市南頬町

硬性鏡とは

肺がんをはじめとした、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)が気道に進展、もしくは外側より気道を圧排することにより、気道の狭窄(きょうさく)を生じることがあります。その際には強い呼吸困難を伴い、生命の危機的状態となりえます。また、アミロイドーシスや気管支結核後遺症等の非腫瘍性の疾患によっても同様の狭窄が生じることがあります。呼吸器インターベンションは、これらの狭窄等に対して内視鏡下に積極的治療介入を行う手技です。

「写真」に示すものが硬性鏡(こうせいきょう)システムです。通常の気管支内腔(ないくう)の観察や肺生検に用いる内視鏡は、柔軟に先端部を操作することが可能であり、これを軟性鏡(なんせいきょう)と呼ぶのに対して、硬性鏡システムでは、カメラであるテレスコープに柔軟性がないため、硬性鏡と呼びます。硬性鏡システムの中で最も重要な部分が硬性鏡管になります。処置の際には、この硬性鏡管を通常の挿管チューブの代わりに気管に挿入し、硬性鏡管の中を通じて換気と処置を行います。通常の気管支鏡(軟性鏡)の方が操作性がよいため、実際には硬性鏡管を挿入後、軟性鏡も併せて用いることが一般的です。

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写真 硬性鏡システムの内容

内視鏡下に腫瘍の焼灼(しょうしゃく)や狭窄部位のバルーン拡張を行い、気道を開存させた後、内腔を維持するためステントを入れます。ステントには主に金属ステントとシリコンステントがありますが、気管分岐部に留置ができるのはY型のシリコンステントのみとなります。硬性鏡は、このシリコンステントを留置できることが一番のメリットです(図1)。

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図1 硬性鏡と軟性鏡の違い

しかしながら、この硬性鏡手技には専門的な技術と判断が必要となるため、限られた施設でしか行うことができないのが現状です。

硬性鏡治療導入のあゆみ

当院では2013年秋に硬性鏡治療を導入しました。導入に際し、医師2人が硬性鏡治療の先駆的施設である名古屋医療センターでそれぞれ2か月間研修し、多数の症例を経験し、技術と知識を学びました。当院での硬性鏡治療導入後、2019年7月までに49例(のべ56件)の症例を経験しました。現在では当院通院中の患者さんだけでなく、岐阜市をはじめとする近隣の病院からも、硬性鏡治療目的での紹介が多くなりました。

硬性鏡治療の実際

治療前日までに、麻酔科、循環器内科、心臓血管外科、臨床工学技士、看護師等と検討会を行い、治療方針を確認します。生じうる合併症や不測の事態に備えたバックアップのため、時には人工心肺の準備なども行います。

硬性鏡治療は手術室で、全身麻酔下に実施します。硬性鏡管を口元から気管に挿入し、気道を確保するとともに、その内腔から気管支鏡を入れます。病変部の確認の後、腫瘍の焼灼、狭窄部のバルーン拡張等処置を行います。ステント留置の際にはシリコンステントを適切な長さに成形し、ステント留置キットを用いて留置します。気道病変はさまざまであり、症例ごとに処置内容が異なります。時にはステントに側孔を開けたり、YステントとIステントを組み合わせたりと、最善を考え処置します(図2)。

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図2 硬性鏡治療の実際

手術後はICUに入室し、全身管理を行いますが、多くの場合、翌日には一般病棟に退室し、歩行や食事も可能です。

当院の治療成績

当院ではこれまでに、49例の症例、のべ56回の処置を実施しました。患者さんの年齢は平均66(25~86)歳。原因疾患は肺がんなどの呼吸器悪性腫瘍が37例(76%)と多く、食道がん5例、転移性肺腫瘍3例などでした。24例(49%)が他院から処置目的での紹介の症例です。

処置を要する部位は、気管のみが10例(20%)、気管分岐部を含む病変が20例(41%)、右主気管支のみ14例(29%)、左主気管支のみが5例(10%)でした。処置の内容は拡張術のみが5件、拡張術+ステント留置術が47件、ステント抜去(ステント留置後、がん治療によりステントが不要となった症例)が4件です。気道狭窄の改善、呼吸困難の軽減などの治療効果が得られたのが54件(96%)で、2件が気道の拡張不能、早期の再狭窄のために治療効果が得られませんでした。

治療後には多くの症例で抗がん剤等の積極的な治療に入ることができ、長期に健在の患者さんもいます。また、高齢で積極的な抗がん剤治療等が困難であっても、自宅に退院し、自分らしく過ごす時間を確保できた患者さんもいました。

今後の展望

硬性鏡を用いた呼吸器インターベンション治療は生命の危機的状況を打開し、劇的に症状の軽減を計れる治療です。当院でこの治療を行うことができるのは、麻酔科、循環器内科、心臓血管外科、医療工学技士などの優れた技術と協力のおかげであり、この総合力こそが、当院のアドバンデージであると考えます。

この治療を必要とする患者さんに、できるだけ安全で効果的な治療を行えるよう、院内スタッフと連携しながら、私たちが日々の研鑽に励むとともに、若手医師が積極的に参加し、これらの手技が学べる貴重な場であり続けられるよう努めていきます。

更新:2022.03.08