多職種・地域の連携による糖尿病重症化予防 糖尿病
大垣市民病院
糖尿病・腎臓内科
岐阜県大垣市南頬町

はじめに
糖尿病は慢性の高血糖状態を示す症候群で、放置すると血管障害によるさまざまな合併症を引き起こし、生活の質や寿命に影響します。代表的な生活習慣病であり、食事・運動など適切な生活習慣を身に付けるため、患者さんの能力が最大限に発揮できるよう支援していく必要があります。そのためには医師だけでなく、看護師・管理栄養士・薬剤師・理学療法士・検査技師など、多くの職種の力が必要です。当院の特徴の1つは、糖尿病療養指導に携わる多くの医療スタッフが活躍していることです。
糖尿病患者数は全人口の約12.1%と推計されており、現代の国民病ともいわれています。専門医療機関である当院には多くの患者さんが受診しますが、当院だけで完結する医療ではありません。かかりつけ医や保健センターなど、行政機関との連携が重要です。当院のもう1つの特徴は、地域のかかりつけ医との連携が非常に緊密であるということです。
多職種の連携による糖尿病診療(糖尿病診療チーム)
糖尿病治療にとって大切な自己管理を患者さんに指導する医療スタッフは、高度で幅広い専門知識が必要で、多くの臨床経験と研修や試験を経て認定されるのが、日本糖尿病療養指導士(CDEJ)です。当院には各職種合わせて31人のCDEJが在籍しており、東海4県では第2位の人数です(表1)。このメンバーが中心になり、糖尿病診療チームとして多くの活動を行っています。その一端をご紹介します。
施設名 | 看護師・准看護師 | 管理栄養士・栄養士 | 薬剤師 | 臨床検査技師 | 理学療法士 | CDEJ数 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 刈谷豊田総合病院 | 17 | 6 | 4 | 8 | 35 | |
2 | 大垣市民病院 | 15 | 6 | 6 | 3 | 1 | 31 |
3 | 岐阜大学医学部附属病院 | 21 | 6 | 1 | 28 | ||
4 | 名古屋第二赤十字病院 | 14 | 6 | 8 | 28 | ||
5 | 岡崎市民病院 | 14 | 3 | 6 | 3 | 2 | 28 |
6 | 伊勢赤十字病院 | 12 | 3 | 2 | 7 | 2 | 26 |
7 | 春日井市民病院 | 17 | 3 | 4 | 2 | 1 | 27 |
8 | JA 愛知厚生連豊田厚生病院 | 10 | 7 | 4 | 2 | 3 | 26 |
9 | 松波総合病院 | 3 | 11 | 9 | 1 | 1 | 25 |
10 | 藤田保健衛生大学病院(現 藤田医科大学病院) | 11 | 3 | 2 | 8 | 24 |
1.糖尿病腎症透析予防指導
糖尿病腎症は透析導入の原因疾患の第1位で、国内では毎年16,000人以上が糖尿病腎症から透析導入に至ります。透析になると、生活の質の低下や多くの合併症により健康寿命が損なわれることとなり、現在、国をあげて糖尿病腎症の重症化予防に取り組んでいます。
地域においては、行政とかかりつけ医が連携してハイリスク患者の拾い上げを行います。当院では、管理栄養士・看護師・薬剤師が医師と連携して指導に当たっています。年間指導数は現在750件を超えており、東海地区では1位、全国でも4位の実績でした(表2)。これらの実績は、多くの学会で特別演題として発表され、論文として学会誌にも掲載されました。
施設名 | 件数 | |
---|---|---|
1 | 関西電力病院 | 1816 |
2 | 東京都済生会中央病院 | 1102 |
3 | 大阪府済生会中津病院 | 926 |
4 | 大垣市民病院 | 569 |
5 | 堺市立総合医療センター | 485 |
6 | 東北大学病院 | 348 |
7 | 川崎医科大学附属病院 | 340 |
8 | 兵庫医科大学病院 | 322 |
9 | 秋田赤十字病院 | 322 |
10 | 金沢大学附属病院 | 299 |
2.糖尿病合併症予防(フットケア外来)
糖尿病の足病変は末梢神経障害(まっしょうしんけいしょうがい)、動脈閉性疾患(どうみゃくへいせいしっかん)、感染症などが要因となり、きっかけは小さなアクシデントでも足の切断に至ることがあります。フットケア外来では、糖尿病患者さんの足を守るため、日常のケアの指導から足や爪のトラブルケアを行っています。年間実績数は県下では第2位、東海地区でも10位以内ですが、当院ではフットケア先進国のドイツ式フットケ(Fusspflege)を導入し、補正靴やインソールによる調整も含め、総合的に高度なフットケア技術を提供しています。
3.教育入院、外来糖尿病教室
患者さんへの教育指導は、通常、教育入院という方法をとっています。当院でも行っていますが、今日の社会情勢では入院が困難な方も多いため、そういった場合でも教育入院と同等の効果が得られるように、外来糖尿病教室(週1回で3回コース、1回の指導時間約2時間)を充実させています。また、教育指導には多くの職種がかかわるため、毎週のようにカンファレンスが行われ、情報を共有しています。当院で指導を受けた患者さんは20年間で7,300人以上となり、その指導データは電子ファイルに保存され、久しぶりに受診された方でも過去の指導内容が確認でき、スムーズな診療を行うことができます。
4.肥満糖尿病患者さんへの対策
肥満糖尿病患者さんは生活習慣の改善が最も重要ですが、治療効果が不十分な場合、減量手術(胃スリーブ切除)を実施します。当院は岐阜県で最初の認定施設であり、外科医と協力して治療を行っています。
5.院外活動
日本糖尿病協会に属する患者会、「糖友会希望(のぞみ)」の運営を支援しています。啓発事業として、一般市民向けの公開講演会を年6回、また、地域の医療スタッフの医療レベル向上を目指す、医療者向けの講習会を年4、5回行っています。
糖尿病の地域連携
2008年の新医療計画を機に、専門医とかかりつけ医の間で地域連携パスによる連携型診療が糖尿病の分野でも始まりましたが、当院では2001年から先進的に開始され、20年近い歴史があります。
西濃医療圏は、当院が唯一の基幹型大病院であるという地域性もあり、地域連携パスの登録患者さんは1,000人を超し、質の高い連携を維持しています。この取り組みについても多くの学会で特別演題として発表され、学会誌などにも何度か発表されています。糖尿病診療の地域連携は、地域の診療レベルの向上と均てん化に大きく寄与するシステムで、当院はその中心的な役割を担っています。
更新:2024.10.21