外科医として重要なこと 多くの臨床経験と学術活動の重要性

大垣市民病院

外科

岐阜県大垣市南頬町

独自の方法で安全性と有用性を世界に発信した腹腔鏡下消化器手術

2010年から導入された腹腔鏡(ふくくうきょう)手術は、2019年8月現在で胃切除術は765例(幽門側胃切除(ゆうもんそくいせつじょ)術DG/458例、噴門側胃切除(ふくもんそくいせつじょ)術PG/54例、胃全摘術TG/199例、部分切除術/46例)、大腸手術は943例となりました。通常の腹腔鏡手術は3人(術者、助手、スコピスト)で施行し、術者・助手は両手で鉗子を操作、スコピストは両手で内視鏡操作に専念します。そのため、多くの場合5ポートで行われます。

しかし当院では導入初期から、スコピストも内視鏡ポートのすぐ隣に留置したポートから挿入した吸引管を操作し、術野の洗浄や吸引・視野展開の補助を行い、手術時間の短縮・安全性の向上に努めてきました(写真)。その結果、手術時間はDG/2時間38分、PG/3時間9分、TG/3時間18分、合併症(CD分類grade ≧ II)はDG/8.0%、PG/22%、TG/30%と、短時間で安全に施行されています。

写真
写真 ポートセッティング
矢頭/カメラポートの隣に留置された5mmポート。
このポートより吸引管が挿入され、スコピストの右手で操作される

この結果を、DGはJ Laparoendosc Surg Tech A 2017 ;27: 726-732 、PGはAsian J Endosc Surg 2018; 11: 329-336 、TG はJ Gastric Cancer 2019; 19: 290-300に論文発表し、世界からも一定の評価を得ています。また、これら難手術である胃がん手術の幽門下郭清の一部分は、若手外科医が術者になる前の第一段階の教育として、積極的に施行する機会を設けています。そして、上級医が吸引管で手術をコントロールすることで、安全かつ予後を損なわずに施行できており、若手教育にも非常に力を入れています。

オーダーメイド医療(個別化医療)で患者満足度の高い鼠径ヘルニア手術

鼠径部(そけいぶ)ヘルニアは、外科医にとって歴史的にみて最も古くから治療の対象となった疾患であり、最初に経験する手術の1つで、症例数が多く、しかも意外に難しい手術です。術式も、Bassini法やMcVay法i、liopubic tract repairなどの従来法、Lichtenstein法やmesh plug法、PHS法などの前方アプローチによるメッシュを用いたtension free法があります。そして近年では、腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(TAPP)が導入されています。

従来法からtension free法に代わることで、再発率の低下・創部の突っ張り、痛みの減少などがみられ、また腹腔鏡手術の導入で、整容性の向上、創部痛のさらなる減少、早期社会復帰が可能であるといわれています。

当院でも2010年からTAPPを導入し、毎年250例以上の鼠径部ヘルニア手術を行っています。術式に関しては、嵌頓(かんとん)ヘルニアで腸管切除を要した場合はメッシュを用いない従来法、高齢者で手術リスクの高い患者には前方アプローチtension free法、それ以外はTAPPで施行しています。今回2008年1月から2016年12月までに当院で手術を施行した鼠径部ヘルニア(1,936 例、2,160病変)を対象に、治療成績をまとめるとともにアンケート調査を行い、論文を発表しました(『日本消化器外科学会雑誌』.2019;52(8):413-422)。

結果として、再発率はtension free法3.3%、従来法0.9%、TAPP0.8%と、日本内視鏡外科学会からの報告と比べて低く、アンケートでも痛みは16%、しびれは5%、違和感は24%の患者さんに認められ、手術に対する満足度も89%と高く、私たちも納得のいく結果が得られています(図)。

グラフ
図 ヘルニアアンケート結果

多数の学会発表と論文発表

外科医である以上、手術をして多くの患者さんの命を救うことは当然のことです。しかしそれとともに、これらの治療成績・稀有な症例の治療経験、さらには有用と思われる手術手技を学会や論文に報告し、世の中の医療レベルの向上に寄与することも責務です。

当院は、西濃地区の基幹病院、がん拠点病院であり、全国的にも手術件数は多数に及んでいます。また、名古屋大学腫瘍外科関連の病院で最も手術を行っている病院でもあり、これらの責務を果たさなければなりません。そして実際に、名古屋大学腫瘍外科関連の病院で、最も多くの学会発表、論文発表を行っています。

2018年は全国学会50件、地方学会24件、外国学会5件、日本語論文7編、英語論文3編であり、英語論文は2014年から2019 年の間に30編発表しています。臨床だけでなく、学術活動にも力を入れ、また若手外科医への論文・学術活動の指導教育も積極的に行い、その責務を十分果たしています。

更新:2022.03.08