ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう

腰部脊柱管狭窄症

概要

背骨には、脊柱管と呼ばれるトンネル状の構造があり、中には脳から続く神経の束である脊髄が通っています。この脊柱管がさまざまな原因によって狭くなることを脊柱管狭窄症と呼び、脊髄や神経が圧迫されると手足の痛み、しびれ、歩行障害、排尿障害などの症状を引き起こします。

もっとも多い狭窄部位は腰部で、お尻や太ももなどの下肢に痛みやしびれが出る座骨神経痛も、この脊柱管狭窄症の一つです。

腰部脊柱管狭窄症では、歩き続けると症状が強くなり、休むとまた歩けるようになる間欠性跛行(かんけつせいはこう)が特徴的な症状として現れます。

60歳代以降に多く発症し、悪化すると日常生活に支障が出てくるため、高齢者の生活の質に大きく影響する病気といえます。

図
図:狭窄した脊柱管の様子

原因

脊柱管狭窄症のもっとも大きな原因は加齢です。70歳以上では、およそ2人に1人に腰部脊柱管狭窄症が見られるという報告もあります。加齢によって神経の近くにある椎間板が膨らんだり、脊柱管の後方にある靱帯(くじんたい)が厚くなったり、椎骨をつないでいる椎間関節に骨棘(こっきょく/骨がとげのように変性したもの)ができたりすることで神経が圧迫され、症状が現れます。一方、生まれつき脊柱管が狭かったり、成長の過程で脊柱管が狭くなるような変化が起こったりする場合もあります。背骨の形は遺伝するため、家族で脊柱管狭窄症になった人がいる場合は、脊柱管狭窄症になりやすい傾向があります。

また、腰椎の位置がずれる腰椎変性すべり症や、椎骨の間にある椎間板がはみ出す腰椎椎間板ヘルニアも原因となることもあります。そのほか、事故や激しいスポーツなどによる衝撃で脊柱管狭窄症を発症することもあります。

症状

脊柱管狭窄症の代表的な症状は、手足のしびれや痛み、つっぱり感、指の細かな動作のしにくさ、歩行の不自由さなどです。進行すると、運動障害が悪化するとともに安静にしていても痛みやしびれが出たり、体を横にして背中を丸めないと眠れなくなったりするほか、排尿・排便がしにくくなるなど日常生活に支障をきたすことがあります。

特徴的な症状である間欠性跛行は、歩くと足にしびれや痛みが出たり、こわばってきたりするため、長い距離を続けて歩けなくなりますが、前かがみでしばらく休むと治まって楽になるものです。神経の圧迫が進むにつれ、続けて歩行できる距離がだんだん短くなっていきます。

神経が圧迫される場所によって3つの型があり、脊椎の中心にある脊柱管が狭くなって馬尾神経(ばびしんけい)が圧迫される「馬尾型」、脊椎から外に向かう神経根が圧迫される「神経根型」、その両方が合わさった「混合型」に分類されます。馬尾型は両足にしびれや痛みが出ることが多く、神経根型は片側のお尻から足にかけての痛みが出やすくなります。混合型は、馬尾型と神経根型の両方の症状が起きます。

検査・診断

脊柱管狭窄症は、問診や身体診察によって特徴的な症状を確認するとともに、画像による診断が用いられます。単純X線(レントゲン)検査によって骨の状態を診ることで、ある程度は推測できますが、より詳しく診断するためにはMRI検査が必須です。MRI検査によって、背骨の変形、骨折、椎間板ヘルニアといった骨の異常の有無、神経が圧迫されているかなどを評価することができます。

手術を考慮する場合、脊髄腔に造影剤を注入して脊髄神経の状態をX線で調べる脊髄腔造影(ミエログラフィー)も行われます。

下肢の動脈が詰まって血行障害を起こす閉塞性動脈硬化症などでも脊柱管狭窄症と似たような症状が見られるため、原因を正確に調べることが必要です。

治療

脊柱管狭窄症の治療には、大きく分けて保存療法と手術療法の2つがあります。

日常生活にそれほど問題がない場合には、経過観察をしながら保存療法を行います。保存療法には、脊椎周辺の筋力トレーニングやストレッチなどのリハビリテーションを行う方法、腰を安定させるコルセットを用いる方法、薬物療法などがあります。外用薬としては消炎鎮痛剤が用いられ、内服薬としては鎮痛薬や抗炎症薬、神経の血流を良くするための血管拡張剤などが用いられます。また、神経が脊髄から出てくる根本の部分に局所麻酔薬を注射して痛みを軽減する神経ブロックが行われることもあります。

保存療法で効果が得られず、日常生活に大きな支障がある場合、手術による治療を検討します。腰部脊柱管狭窄症の手術には、神経を圧迫している椎間板や靱帯などを切除する「除圧術」と、神経の圧迫を解消するとともに金具を入れて腰椎を固定する「固定術」の2種類があります。体への負担が少ない内視鏡を使った手術も行われています。

更新:2022.05.26