肩・膝・腰の手術治療

済生会吹田病院

整形外科

大阪府吹田市川園町

増加する運動器(整形外科)疾患

整形外科は運動器を取り扱う診療科です。運動器とは骨・関節と、これを動かす筋肉と指令を出す神経からなります。

老若男女を問わず運動器に故障を生じることはまれではありません。その原因はスポーツや事故などの外傷による骨折、靭帯損傷(じんたいそんしょう)(関節捻挫(ねんざ))、肉離れ(筋断裂)、腱(けん)の断裂などが中心でした。しかし近年は、超高齢社会に進展したことにより、骨・関節・椎間板などの運動器の老化に向き合わざるを得なくなっています。高齢人口の増加とともに骨の老化である骨粗(こつそ)しょう症(しょう)、関節の老化である変形性関節症、椎間板の老化から始まる変形性腰椎症(へんけいせいようついしょう)などが増加し、痛みや運動機能の低下を克服して高いQOL(生活の質)を維持することが要求されています。

本項では整形外科が取り扱う運動器疾患を3項に分けて説明します。

腰部脊柱管狭窄症(変形性腰椎症)と変形性膝関節症

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図1 腰部脊柱管狭窄症

患者さんの最も多い愁訴は腰痛で、2番目が膝(ひざ)関節痛です。膝関節症については別項「超高齢化における人工関節手術」で詳しく述べますので、ここでは変形性腰椎症とその結果生ずる腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)についてお話しします。

椎間板は腰椎の椎体と椎体の間にあり、中心部は水分が豊富でゼリー状の髄核(ずいかく)、その周りを線維輪という線維軟骨がドーナツ状に取り巻き、ショックアブソーバー(衝撃を吸収する)の役割を担っています。椎間板に激しい運動や長期間にわたり繰り返されるストレスなどが大きくなればなるほど、摩耗を生じやすくなります。

腰椎(腰の骨)椎間板や椎間関節に老化(変性といいます)が進行してくると、腰椎のずれを生じやすく、関節を支える黄色靭帯(じんたい)が分厚くなるため、神経の管が狭くなる脊柱管狭窄症に進行します。この疾患は腰痛だけではなく、下肢(かし)につながる神経が圧迫され、いわゆる坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)を生じます。少し歩くと下肢がだるくなったり、しびれたりして足が前に出なくなりますが、休憩してしばらくすると改善してまた歩けるようになる間欠跛行(かんけつはこう)は典型的な症状です。前かがみで歩く方が楽なので、腰回りの筋肉がますます衰える場合もあります。この悪循環を断つことが重要で、腰回りの筋肉の衰えを防ぐことが腰椎症の進行抑制につながります。これでも改善せず腰椎症が悪くなる場合は、手術療法が必要になります。手術は専門的な知識や技術を持った整形外科医に相談してください。我慢しすぎると、手術をしても改善しづらいことが知られていますので、チャンスを逃さないように早めの受診をお勧めします。

膝前十字靭帯損傷と反復性肩関節脱臼

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図2 再建された前十字靭帯(➡)

膝前十字靭帯損傷(ひざぜんじゅうじじんたいそんしょう)、反復性肩関節脱臼ともに10歳代後半から20歳代に生じ、スポーツが原因でなることが多い疾患です。前者は膝、後者は肩の重要な靭帯損傷で、膝崩れ(ガクッと膝が抜ける)を頻回(ひんかい)に繰り返したり、肩関節の脱臼が癖になったりします。関節捻挫、脱臼は正しい診断と治療が重要です。

前者は膝関節捻挫後、関節内に血が溜(た)まるので、これを確認します。ラックマンテストという徒手テストが陽性で、膝関節MRIで確定診断を行い、関節症がなく活動性が高い50歳未満では、前十字靭帯再建術が必要になります。特に若い年代では放置すると半月損傷を起こし、早期に関節症を生じ、スポーツ活動が困難になります。50歳以上では特殊なリハビリを行うことで膝崩れの再発を防げる可能性もあります。

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図3 肩関節バンカート損傷のMRI所見

後者では靭帯損傷の診断にはMRIが必要で、関節窩前縁(かんせつかぜんえん)の関節唇あるいは骨折を含む靭帯損傷(バンカート損傷)が明らかになれば、初めての脱臼でも靭帯修復術を行わなければ、50~70%が再脱臼を起こす可能性があります。特に若いアスリートにその傾向が強いことが分かっています。

いずれも関節鏡視下手術が標準的治療ですので、専門医のいる医療機関に相談してください。

肩腱板断裂と五十肩

加齢とともに肩関節痛を生ずることはまれではありませんが、これらの多くが五十肩と診断されてしまっていることは残念なことです。

五十肩は、特に誘引なく肩関節痛を生じ、徐々に肩関節が硬くなり(関節拘縮(こうしゅく))、挙上(きょじょう)やねじる動作が困難になる疾患です。夜間眠れないほどの痛みに悩まされることもありますが、疼痛(とうつう)は徐々に改善し、時間とともに快方に向かいます。五十肩の確定診断は腱板断裂がないことが条件です。

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図4 肩関節鏡視下腱板修復術の関節鏡視所見

肩腱板(かたけんばん)は、肩甲骨(けんこうこつ)と上腕骨頭をつなぐ4つの腱からなり、小さい関節窩と大きい上腕骨頭を袖口のように包み込んで、安定した大きな動きができる肩関節を実現しており、「投げる」は肩関節の特筆すべき動作といえます。肩関節の老化の特徴は荷重がかからないため、関節軟骨の摩耗ではなく、腱板の摩耗から始まりますので、肩を酷使する職業では腱板断裂を生じやすい傾向があります。一方、肩を使わない方でも腱板の老化として断裂を生ずるものもあり、痛みのない腱板断裂も少なくありません。

肩関節痛の原因診断には腱板断裂の有無を早期に診断し、正しい治療方針を立てることが重要です。当院では腱板断裂のスクリーニングには超音波検査を用いており、低侵襲(ていしんしゅう)(体への負担が少ない)、低コストでリアルタイムに診断が可能です。

腱板断裂の根治(こんち)療法は手術治療ですが、すべての腱板断裂に適用されるわけではなく、疼痛や関節の動きが保存療法で改善する場合、手術は不要です。疼痛が強く、肩関節機能が悪い場合、特に原因が外傷によるものは手術が必要になることが多いですが、予後は良好です。腱板修復のほとんどは肩関節鏡視下に行うことができますが、広範囲にわたる断裂では、棘上筋、棘下筋を筋肉の根元から移動する筋前進術を併用することもあります。

この術式は、国内で受けられる施設が極めて少ないのですが、当院では実施しています。

更新:2022.03.08