大腸がんの早期発見に効果的な下部内視鏡検査。受けるのは大変?
メディカルブレイン編集部
大腸がんの早期発見のために効果的なのが、下部内視鏡検査です。しかし、肛門から入れた内視鏡を通して腸内を診察するため、抵抗感を覚えてしまう人もいるのではないでしょうか。下部内視鏡検査では実際にどのようなことを行うのか、またどのような事前準備が必要なのかについて、今回はご紹介します。
早期発見できれば、9割以上の人が治る病気
日本人の死因の第1位はがんで、その比率は全体の24.3%と、日本人の4人に1人ががんで亡くなっている計算になります。その中でも、大腸がんは肺がんに次いで死者数が第2位となっていて、2023年には大腸がんによる死者数は約53,000人にも上ります。(厚生労働省「2023年人口動態統計」より:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei23/dl/11_h7.pdf)
大腸がんは、大腸の大部分を占める結腸に起こる結腸がんと肛門付近の直腸に生じる直腸がんの2つに分けられますが、いずれの場合も早期に発見して治療を行えば5年生存率は90%以上と、治せるがんでもあるのです。
ところが大腸がんによる国内の死者数は増え続けていて、2014年から2023年の10年間だけを見ても右肩上がりになっています。
これについてはさまざまな原因が考えられますが、その1つとして挙げられるのが大腸がん検診を定期的に受ける人が少ないという点です。厚生労働省が推奨し、各自治体が40歳以上の住民を対象に年に1度大腸がん検診を行っているのですが、内閣府が実施した「がん政策における世論調査」によると、2023年7月の時点で「がん検診をこの2年以内に受診していない人」が55.7%と、半数以上になっています。
受診しない理由(複数回答可)で多かったのが「必要なときはいつでも医療機関を受診できるから」(23.9%)、「費用がかかり経済的にも負担になるから」(23.2%)、「健康状態に自信があり、必要性を感じないから」(16.6%)といったものですが、注目したいのは「受ける時間がないから」(21.2%)や「検査内容や苦痛の程度が分からず、不安だから」(16.6%)という理由も上位に入っていることです。
大腸がん検診は、受ける時間も取れないほど長時間にわたるもので、また不安になるほど苦痛を伴うものなのでしょうか?
最初に受診するのは、大腸の出血を調べる便潜血検査
大腸がん検診でまず行うことは、大腸内の出血を調べることです。腸内にがんやポリープ、潰瘍などが生じた場合、腸内に出血が起こり、便にその血が混ざります。出血が多ければ肉眼でも分かることもあるのですが、出血が少ない場合は見ても分かりません。そのため、便潜血検査が行われるのです。
検査といっても、スティックで便の表面をこそげ取り、提出するだけです。一般的な健康診断でも実施される検査ですので、経験のある人がほとんどかもしれないくらいポピュラーな検査です。
特段時間を取られることも、苦痛を伴うこともありません。各自治体が実施している大腸がん検診は、この便潜血検査のことです。
この便潜血検査で出血が認められた場合は、より精密な検査を受ける必要があります。それが、下部内視鏡検査です。
腸内に直接カメラを入れる下部内視鏡検査
食道や胃、十二指腸を調べる際は口や鼻からカメラが付いた細い管を入れる上部内視鏡検査を行いますが、大腸と小腸の一部を調べる場合は、肛門から管を通す下部内視鏡検査が必要です。口ではなく肛門から管を挿入するため、前日から準備しなければなりません。
検査前日の準備
20時ごろまでに、うどんなど消化のよい食べ物を夕食として食べておきましょう。水やお茶、スポーツドリンクなどは飲んでも構いません。アルコールは控えましょう。
検査当日の準備
起床後は、まずコップ1~2杯分の水を飲みます。朝食は食べてはいけません。その後、下部内視鏡検査が終わるまでは食事はとれませんが、水やお茶は自由に飲んで差し支えありません。
カメラでの検査になるため腸内を奇麗にしておく必要があります。そのために一般的に用いられているのが、腸管洗浄液です。
腸管洗浄液の粉末を2Lの水で溶かし、コップ1杯(約180ml)を10~15分間隔で服用していきます。水を1L用意しておき、腸管洗浄液と水を交互に飲み進め、約3時間かけて腸管洗浄液を飲み干しましょう。腸管洗浄液の半分の量の水を必ず飲む必要があるので、注意が必要です。水の代わりにお茶や紅茶を飲んでも構いませんが、糖分やミルクが入ったものは避けましょう。また、スポーツドリンクやアルコールなどを水の代わりに飲むのも厳禁です。
腸管洗浄液は体内で吸収されずに、続けて飲んだ水に押し出されるように排便を促します。コップで数杯程度服用したところで、便意を催すようになります。その後何度も便を排出することで、最初は固形状態だった便が泥のようになり、やがて透き通った水のようになります。この状態になれば、腸管洗浄液の服用は終了となります。
腸管洗浄薬を服用する際に注意すべき点は?
腸管洗浄液を飲んでいる最中におなかが張ってきたら、少し歩いたり上半身をひねったりすると腸の動きが活発になっていきます。
コップ1杯の腸管洗浄液を飲み干すたびに、吐き気や寒気、息苦しさやむくみ、じんましんなどの症状が出ないか、確認しましょう。これらの症状が出た場合は、すぐに服用をやめて医師に相談してください。
また腸管洗浄液は、まれに意識障害や痙攣などの副作用を引き起こすことがあります。周囲に誰か人がいる状態で服用するようにしましょう。
事前に腸内を奇麗な状態にしておくと、異変が見つかりやすく、検査を行う前に再度腸管洗浄液を飲み直す事態も防げるため、一石二鳥です。
※腸管洗浄液の服用については、必ず医師・看護師・薬剤師等の指示に従ってください。
いよいよ下部内視鏡検査
腸内の洗浄が終われば、いよいよ下部内視鏡検査のスタートです。カメラが付いた細い管を肛門に差し込み、腸の中まで進めることで、がんやポリープ、潰瘍などを見つけることができます。
下部内視鏡検査自体は10~30分程度で終わることがほとんどですが、腸内の洗浄が不十分だったり異変が見つかったりした場合は、数時間に及ぶこともあります。
また大腸はまっすぐではなく、ぐにゃぐにゃと曲がった状態で体内に収まっているため、腸内に管を通そうとすると苦しみを感じる場合があります。さらにカメラが付いた管を腸内の奥へと進めるために、腸内に空気を入れて膨らませることもあり、そういった場合も苦痛を伴うことがあります。「下部内視鏡検査は苦しい」という話を耳にすることがあるのは、このためです。
ただ最近では、鎮静剤を用いてウトウトした状態で下部内視鏡検査を受診できる病院・クリニックもありますし、空気の代わりに水を腸内に注入し、サイホンの原理を応用して管を滑らかに進めることで苦痛や不快感を軽減してくれる病院やクリニックも中にはあります。
下部内視鏡検査は受けた方がいい?
ここまで紹介したように、大腸がん早期発見のためにまず行うことは、便潜血検査です。この検査ですと病院の検査のために時間を取られることもありませんので、手軽に受診することができます。毎年1度、必ず受けた方がいいといえるでしょう。
便潜血検査で陽性反応が出た場合は、下部内視鏡による精密検査が必要になります。事前準備や当日の検査などで時間を取られることも確かにありますし、下部内視鏡検査では苦痛や不快感を覚える場合も存在します。しかし、腸管洗浄液による事前準備をしっかり行えば検査自体はそれほど長時間を必要とするものではありませんし、苦痛や不快感を減らせる検査法もすでにあります。
大腸がんを治すためには、早期発見が要になります。まずは毎年1度の大腸がん検診をきちんと受診することから始め、陽性反応が出た場合は必要以上に怖がったり面倒に思ったりせずに、下部内視鏡検査を受診することを検討してみませんか?
更新:2024.11.12