第2のコロナ?ヒトメタニューモウイルス(hMPV)感染症 “コロナ禍の再来”と警戒された理由とは

メディカルブレイン編集部

2023年5月に世界保健機構(WHO)が新型コロナウイルス感染症による「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の終了を発表してから、約2年が経とうとしています。WHOは「完全に脅威は消えたわけではない」としていましたが、国内でのコロナ禍はこの約2年の間、落ち着きを見せています。

しかし2024年末、「コロナ禍の再来になるのでは」とまで警戒された、コロナとは別のウイルスが中国で流行しました。それが、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)です。どのようなウイルスで、なぜ「第2のコロナ」と警戒されたのでしょうか?

ヒトメタニューモウイルスに感染すると、どのような症状が生じる?

ヒトメタニューモウイルスは、10歳までにほぼすべての乳幼児・子どもが一度は感染すると言われているRSウイルスと同じニューモウイルス科のウイルスです。

感染すると(せき)や発熱、(のど)の痛みに鼻水、倦怠感(けんたいかん)といった軽い風邪(かぜ)の症状から、呼吸するとゼーゼー・ヒューヒューと音がする喘鳴(ぜんめい)や気管支炎、肺炎といった重い症状までを生じさせる点も、RSウイルスと同様です。

ヒトメタニューモウイルス感染による主な症状(咳、発熱、喘鳴、肺炎)のイラスト

ヒトメタニューモウイルスの潜伏期間は3日~6日で、冬から春にかけて流行します。乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層が感染する可能性がありますが、成人の場合は通常の風邪の症状が数日現れた後に回復することがほとんどです。ただし乳幼児や高齢者は重症化のリスクがあるため、注意が必要です。

ヒトメタニューモウイルスが発見されたのは2001年と比較的最近ですが、新型コロナウイルスのように未知のウイルスというわけではなく、国内外でこれまでにもいくつもの感染例が報告されている、ごく一般的なウイルスです。

ヒトメタニューモウイルス感染症が「コロナ禍の再来」とまで警戒された理由は?

ではなぜ、一般的なウイルスであるヒトメタニューモウイルスが「コロナ禍の再来」とまで警戒されたのでしょうか。いくつかの理由がありますが、主なものは以下の点です。

中国人観光客の急増による国内でのヒトメタニューモウイルス流行と、医療体制逼迫(ひっぱく)の懸念

まず挙げられるのが、2024年末に中国でヒトメタニューモウイルス感染が流行したという点です。2025年の春節(中国で多くの人が連休を取る旧暦の正月)が1月29日で、その前後に90万人を超える中国人観光客が来日すると予想されていました。

中国で流行したウイルスが観光客の移動により日本国内、そして世界中に広がるかもしれないという可能性。そしてヒトメタニューモウイルスの感染者が爆発的に増えてしまうと医療体制が逼迫し、感染しても医療機関で受診できなくなるかもしれないという懸念。それらが、コロナ禍の時とよく似ていたのです。

誰もいない都市の写真

ただし、厚生労働省によると2024年末の中国におけるヒトメタニューモウイルスの検出数の増加は「北半球の冬のこの時期に予想される範囲内」で、中国の保健当局と連絡を取り合っているWHOも異常な流行パターンの報告は受けていないとしています。また中国保健当局の報告でも、中国国内で医療体制は逼迫しておらず、緊急事態宣言や対応は発動していないということです。

ヒトメタニューモウイルスにはワクチンや特効薬が存在しない

ヒトメタニューモウイルスにはワクチンや特効薬が存在しないことも、「コロナ禍の再来」と警戒された理由の1つです。

ヒトメタニューモウイルスに感染した場合の治療は、対症療法を行うことになります。十分に水分補給を行いながら安静にすることが基本で、咳や発熱に対しては咳止め薬や解熱剤を用います。

またヒトメタニューモウイルスの感染経路は、咳やくしゃみで放出されたウイルスを吸い込むことなどによる飛沫(ひまつ)感染と、ウイルスが付着した物体を手指で触ることなどによる接触感染が主です。

そのため、予防としては手洗いやマスクの着用を徹底することが効果的です。この点は、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスの予防と同じです。

国内ではヒトメタニューモウイルスの検出数や動向などについて正確に把握できない

ヒトメタニューモウイルスは現状、国内では感染症法での規定がない感染症であることから、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス、RSウイルスなどとは異なり、保健所へ届け出を行う必要がありません。そのため、厚生労働省もヒトメタニューモウイルスの正確な検出数や動向などについて把握することが困難です。

福岡資麿(たかまろ)厚生労働大臣は1月10日に行われた記者会見で、中国におけるヒトメタニューモウイルスの流行について「直ちに特別な対応が必要な状況であるとは考えていませんが、国民の皆様におかれては、インフルエンザ等の感染拡大も見られる中ですので、手指衛生や咳エチケットといった基本的な感染防止対策の実施について、改めてお願いさせていただきたい」と話しています。

今後ヒトメタニューモウイルスが流行した場合はどうする?

次の世界的なパンデミック(感染爆発)は呼吸器系の感染症で起こるという見方もあります。もし今後ヒトメタニューモウイルスが流行した場合には、すぐには何も対策ができないのでしょうか?

実はこの4月から急性呼吸器感染症の感染症法上の位置づけが、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症と同じように5類感染症に分類されることになっています。急性呼吸器感染症とは病原体による呼吸器の疾患の総称で、急性の上気道炎(鼻炎、副鼻腔炎、中耳炎(ちゅうじえん)咽頭炎(いんとうえん)喉頭炎(こうとうえん))または下気道炎(気管支炎、細気管支炎、肺炎)のことを指します。急性呼吸器感染症の原因となる病原体は、主なものとしてはインフルエンザ、新型コロナウイルス、RSウイルスなどがあり、ヒトメタニューモウイルスもその1つです。

これにより仮にヒトメタニューモウイルスによって急性呼吸器感染症を発症した患者がいる場合は、届け出の対象となります。ヒトメタニューモウイルスへの感染自体が届け出の対象になるわけではありませんが、福岡厚生労働大臣は1月10日の記者会見で「一部の患者から採取する検体の分析により、ヒトメタニューモウイルスなどの病原体の発生動向の把握・分析ができるようにする方向で、今、検討が進められているところです」とも話しています。

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更新:2025.03.07