子どもが朝起きられない病気「起立性調節障害」とは?

メディカルブレイン編集部

「起立性調節障害」とは、立ち上がった時にめまいや立ちくらみ、動悸(どうき)、失神などの症状が見られる病気です。思春期の子どもを中心に多く発症し、また起床時に特に起こりやすい傾向にあることから、時には精神疾患や心の問題などと誤解されることも。
しかし、その原因は心ではなく身体機能にあります。

今回は、そんな起立性調節障害について解説します。
本人や周囲の人たちが誤った判断をしてしまわないためにも、正しい知識を身につけておきましょう!

起立性調節障害とは?

立ち上がった時に血圧が急降下し、めまいや立ちくらみ、失神、動悸、頭痛などの症状を引き起こしてしまう病気です。

起立性調節障害の原因とメカニズム

起立性調節障害の主な原因は、血圧や呼吸数などの体の特定のプロセスを自動的に調節する自律神経を構成する「体を活動的にする交感神経」と「体をリラックスさせる副交感神経」2つの神経系バランスの乱れです。

人の体は起立すると、重力の作用で血液が下半身にたまりやすくなり、脳や心臓へ送る血液量が減少し血圧が低下します。

これを防ぐために交感神経を活性化させて下半身や末梢(まっしょう)の血管を収縮させ、脳や心臓への血液量を増やして血圧を保っています。

しかし自律神経系のバランスが崩れることで交感神経がうまく働かず、脳や心臓への血流が減少するため、さまざまな症状が起こるのです。

また、自律神経系のバランスの乱れは、体質といった遺伝的な要素や思春期による体内のホルモンバランス、精神的なストレスなどにより誘発されると言われています。

起立性調節障害の症状は?

具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

【起立性調節障害の症状・診断ポイント】

  • 朝、起き上がれなくなる
  • 起立時にふらつきやめまいを引き起こす
  • 倦怠(けんたい)感がある、疲れやすい
  • 食欲不振
  • 立っていると気分が悪い(ひどいと倒れる)
  • 少し動くだけで動悸や息切れがする
  • 失神発作を起こしやすくなる
  • 乗り物酔いしやすくなる
  • 風邪(かぜ)などに由来しない発熱
  • 顔色が優れない、青白い
  • ストレスを感じると気分が悪くなる
  • 頭痛
  • 時々、(へそ)の周囲の痛みがある

このように、症状は実に多岐にわたります。
ほかの病気の疑いがなく、上記の複数項目に当てはまる、または該当する症状の数が少なくてもそれらが日常生活に支障をきたすレベルで強い場合は、起立性調節障害の可能性があります。

また、これらの症状は午前中の方がより顕著に、午後になると緩やかになっていく傾向が見られます。さらに、季節の変わり目に悪化しやすいなどといった季節変動性や、曇天や雨など荒天時には副交感神経が優位になりやすく、症状がその影響を受けることもあります。

起立性調節障害には、4つのサブタイプがある

起立性調節障害には、4つのサブタイプが存在します。

起立直後性低血圧
(軽傷型・重症型)
起立直後に血圧が低下し、血圧の回復に時間を要するタイプ
体位性頻脈症候群 起立後に血圧の低下は見られないものの、心拍数が異常に増加するタイプ
血管迷走神経性失神 起立中に急激な血圧低下がおこり、失神してしまうタイプ
遷延性(せんえんせい)起立性低血圧 起立中に徐々に血圧が低下し、失神してしまうタイプ

診断のため、「新起立試験(*)」を実施し、4つのサブタイプを診断していきます。

新起立試験(*)とは

10分程度ベッドにあおむけで横になった安静時の状態で、複数回血圧と心拍数を測定します。起立後にも同様に複数回血圧と心拍数を測定します。

診断基準

”血圧(収縮期血圧/拡張期血圧)の変化量”と”心拍数の変化量・変化パターン”から、「立位へ移行した直後、あるいは一定時間経過後の血圧・脈拍の増減がどの程度大きいか」「変化がどのくらい持続するか」から状態の変化を観察し、変化パターンが示す特徴や症状の現れ方などで4つのサブタイプに分類します。

参照:一般社団法人 起立性調節障害改善協会「新起立試験のやり方とは?手順を解説」

起立性調節障害になりやすいのはどんな人?

思春期にあたる小学校高学年から高校生に多く見られますが、大人になってから発症する場合もあります。

また、親が起立性調節障害であったなど遺伝要素のある人や、朝が苦手だったり普段から立ちくらみを起こしやすかったりというような、もともと自律神経の働きが弱い人も発症しやすい傾向にあります。

起立性調節障害の予防法・治療法について

起立性調節障害は、生活習慣の見直しに加え、体のケアだけでなく心のケアも必要です。順を追って、予防法と治療法を見ていきましょう。

起立性調節障害の予防法は?

軽症の場合は、以下のようなセルフケアも効果的です。発症の予防につながります。

  • 規則正しい生活を心がける
  • 水分と塩分をしっかりとる
  • 筋力低下を防ぐため、毎日15分程度の散歩など、無理のない範囲で下半身を中心とした運動を行う
  • 座った状態や寝ている状態から立ち上がるときには、頭を急に上げずにゆっくり起立する
  • 静止状態で1〜2分以上立ち続けない
  • 昼夜逆転を防ぐため、早めの就寝を心がける

起立性調節障害は重症化すると日常生活に支障をきたすほどの症状になり、長期的な不登校や休職など、学校生活や社会生活に影響を及ぼす可能性があります。
気になる症状が見られた場合は早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けましょう。

起立性調節障害の治療法は?

医学的な治療法としては、漢方薬を含む昇圧剤の服薬などの薬物療法があります。

また、自律神経系のバランスの乱れは身体疾患の一つです。気持ちの持ちようで治せるものではないのですが、本人や保護者をはじめとする周囲の人々があらぬ誤解をしてしまうことも。
症状を改善していくためには、病気に対する理解を深めたり、環境面を整えたりすることも必要になってきます。

中〜重症者の多くは、起床時などに倦怠感や立ちくらみ、動悸といった症状が強く出てしまい、遅刻や欠席を繰り返すことも少なくありません。

保護者をはじめとした周囲の人々の多くはこういった症状を怠け(ぐせ)や学校嫌いなどのせいだと誤解して叱咤(しった)したり、朝に無理やり起こそうとしたりすることで人間関係が悪化してしまう事例もあります。自律神経系に起因する起立性調節障害は身体疾患であり、適切な治療が必要な病気なのです。

また、思春期の子どもや現代人は、さまざまな心理的・社会的ストレスを抱えています。
起立性調節障害が快方へ向かうには、それらのストレスを軽減させることも非常に重要です。

例えば、子どもの場合は保護者や学校関係者が起立性調節障害について十分に理解を示し、家庭や教育機関、時には専門家の力も借りながら連携を取り、共に支えていけるような仕組みづくりをしていきましょう。

起きられない人のイラスト

起立性調節障害は、適切な治療を行うことで回復する可能性が高い病気です。周りの人々の理解も必要になってくるため、早期発見・早期治療を心がけていきたいですね。

更新:2025.03.24