【流行のダイエット薬】2型糖尿病の治療薬「マンジャロ」で健康的に痩せられる?

メディカルブレイン編集部

近年、若い女性による「マンジャロ(一般名・チルゼパチド)」という薬についての投稿をSNSなどでよく見かけます。
「マンジャロ」とは注射薬で、打つと食欲が減退して体重も減る効果があることから、手軽なダイエット薬として、美容にこだわりのある女性を中心に流行しています。
しかし「マンジャロ」は本来、2型糖尿病の治療薬です。
ダイエット薬として用いても、問題はないのでしょうか?

「マンジャロ」の働きは、インスリンの分泌を促して血糖値を下げること

2型糖尿病の患者さんは国内に約364万人も存在

まず、「マンジャロ」の本来の使い方についてご紹介します。「マンジャロ」は2型糖尿病の治療薬で、2型糖尿病とは血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌不足やインスリンが効きにくくなることによって慢性的に血糖値が高くなる病気です。慢性的な血糖値の上昇を放置していると、細小血管障害(糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害)や心筋梗塞(しんきんこうそく)、脳卒中といった大血管障害などの合併症につながります。

2型糖尿病は遺伝的要因に肥満、運動不足、食生活の乱れといった生活習慣の要因が複雑に絡み合って発症します。厚生労働省によると、日本では2023年時点で糖尿病の患者さんが約552万人もいて、そのうち約364万人が2型糖尿病の患者さんです。さらにこの数字は2023年時点で治療を受けている患者さんの数のため、糖尿病の疑いがある「予備軍」まで含めると、さらに患者さんの数は増加するとみられています。

インスリンの分泌を促進するホルモンのような働きを「マンジャロ」が担う

「マンジャロ」の効果は、インスリンの分泌を促すことで、血糖値を下げるところにあります。本来インスリンの分泌促進を担うのは、インクレチンと呼ばれるホルモンです。インクレチンにはGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の2種類があり、いずれも小腸から分泌されます。GIPとGLP-1はそれぞれ膵臓(すいぞう)にあるGIP受容体、GLP-1受容体に結合することで、インスリン分泌の促進につながっていきます。

図:食べ物が小腸で吸収されて、インスリンが分泌されるまでの流れ

「マンジャロ」は、このGIPとGLP-1の代わりにGIP受容体、GLP-1受容体に結合することで、インスリンの分泌を促します。そのため、「マンジャロ」は「GIP/GLP-1受容体作動薬」とも呼ばれています。

「マンジャロ」をダイエット薬として使うことの問題点は?

「マンジャロ」がダイエット薬として用いられる理由

ところが、このGLP-1はインスリンの分泌促進以外にも、さまざまな作用があります。食欲の抑制や胃の運動抑制もそのうちの一つです。その結果、食事量の減少につながり、結果として体重も減少します。これが、「マンジャロ」がダイエット薬として用いられる理由です。

図:マンジャロを注射して痩せる想像をしている女性

SNSやインターネットの口コミを見ると、「半年で20kg痩せた」や「食欲が抑えられ、間食をしなくなった」という感想も多くあります。

しかし、「マンジャロ」はあくまでも2型糖尿病の治療薬であり、ダイエット薬ではありません。「マンジャロ」をダイエット薬として用いるには、いくつか問題点があります。

【問題点1】医薬品副作用被害救済制度の対象外となる

「マンジャロ」には、吐き気や嘔吐(おうと)、下痢などの副作用があり、場合によっては急性膵炎(すいえん)、低血糖、腸閉塞(ちょうへいそく)などの重度の副作用が起きる可能性もあります。

しかし、本来の用途である2型糖尿病の治療目的以外で「マンジャロ」を使用した場合、医薬品などを適正に使用したにもかかわらず発生した副作用による健康被害を受けた人に対して、医療費の給付などを行い、迅速な救済を図る「医薬品副作用被害救済制度」の対象外となってしまいます。これが一番の問題点だと言えます。

【問題点2】本来必要とする2型糖尿病の患者さんに行き渡らなくなる可能性がある

ダイエット目的による「マンジャロ」の需要が増えると、最悪の場合、本来必要とする2型糖尿病の患者さんに行き渡らなくなってしまう可能性があります。

現時点で出荷制限はかかっていませんが、2023年から2024年にかけては出荷制限が実施されたこともありました。

【問題点3】保険適用外の自由診療になるため高額

何度も繰り返しますが、「マンジャロ」は2型糖尿病の治療薬です。本来は2型糖尿病の診断を受け、処方されない限りは使用できません。しかし、美容クリニックなどのオンライン診断などを利用して、ダイエット目的で投与している人が多いのが現実です。

オンライン診断でも「マンジャロ」を入手することができるのですが、2型糖尿病の治療目的でない場合は保険適用外の自由診療になることが多く、その場合は費用も高額になってしまいます。

同じ有効成分を含む肥満症の治療薬「ゼップバウンド」が登場

国内でも2025年4月から「ゼップバウンド」の販売が開始

では、「マンジャロ」はダイエット薬として用いない方がいいのでしょうか。実は、欧米ではすでに「マンジャロ」と同じ有効成分・チルゼパチドを含む薬が肥満症治療薬として承認・販売されています。

そして日本でも、このチルゼパチドを含む肥満症治療薬「ゼップバウンド」が2024年12月に承認され、2025年4月から販売開始されています。

2型糖尿病の治療薬である「マンジャロ」ではなく、同じ有効成分を含む肥満症の治療薬「ゼップバウンド」なら保険を適用して使用できるようになったのです。

ただし、国内で「ゼップバウンド」を保険を適用して処方してもらうためには、条件があります。

美容目的のダイエットは、適切な食事制限や運動から

「ゼップバウンド」の保険適用条件は、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかの症状があり、食事療法や運動療法を行っても十分な効果が得られず、さらに以下のいずれかに該当する場合に限られます。

  • BMIが27 kg/㎡以上あり、2つ以上の肥満に関連する健康障害がある
  • BMIが35 kg/㎡以上

つまり、「ゼップバウンド」もあくまで肥満症の治療薬であり、肥満症ではない人の美容目的のダイエットでは保険適用外になるということです。また「ゼップバウンド」は新薬のため、1回の処方が最大2週間分という制限もあります。

急激なダイエットは、摂取カロリーが不足して栄養失調に陥ってしまう可能性もありますし、抜け毛や慢性的な疲労感などの健康問題にもつながりかねません。

図:ダイエットについて医師と相談をする女性

美容目的のダイエットを行う場合は、医師と相談したうえで、まずは適切な食事制限や運動習慣の導入などを検討する方が賢明かもしれません。

更新:2025.11.10