【咳過敏性症候群】咳がなかなか治らない…その原因、風邪ではないかも?

メディカルブレイン編集部

風邪(かぜ)は治ったはずなのに、(せき)が止まらない…」。そんな経験はありませんか?

咳は体内に入った異物を追い出すために生じる体の自然な反応で、咳が出る原因はさまざま。主なものとしては細菌やウイルスによる風邪やインフルエンザなどの呼吸器系の感染症が挙げられます。通常は風邪が治れば咳も止まるのですが、時には風邪が完治した後も、咳が止まらないことも。その咳の原因は風邪や感染症ではなく、「咳過敏性症候群」かもしれません。

咳は異物を体外に排出しようとする防御反応

そもそも「咳」って、どうして出るの?

人は生きるために呼吸をします。鼻や口から空気を吸い込むと、気管や気管支を通って肺胞に送られ、そこで空気中の酸素が血液に取り込まれます。しかし、空気を吸い込む際に、細菌やウイルス、ほこりや煙といった異物も一緒に吸い込んでしまいます。

吸い込んでしまった異物は、(のど)や気管、気管支の表面にある咳受容体がセンサーのように感知します。咳受容体が異物を感知すると、脳の咳中枢に信号が伝わり、咳中枢は横隔膜や肋間膜(ろっかんまく)などの呼吸を行う筋肉に咳を起こす指令を送ります。この指令によって咳が出るのです。つまり、咳は異物を体外に排出しようとする防御反応なのです。

図:喉で細菌やウイルス、ほこり、煙など異物を感知し脳の咳中枢に信号が伝わる。

「急性」と「慢性」―咳が続く期間に注目

時には咳が長引くこともあります。しかし、その原因の多くは風邪など呼吸器系の感染症です。例外として肺炎や肺結核、肺がんなどの重い病気が原因の場合もありますので検査は必要ですが、風邪やインフルエンザによって起こる咳は、原因となる病気が治れば、それに伴って止まることがほとんどです。

このような咳は「急性咳嗽(きゅうせいがいそう)」と呼ばれ、原因となる病気にかかってから3週間以内に収まる咳のことを指します。

ところが、中には3週間たっても咳が止まらないこともあります。特に、8週間以上たっても咳が続く状態のことを「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」と呼びます。慢性咳嗽の場合、呼吸器系の感染症以外の病気(喘息や胃食道逆流症、副鼻腔炎(ふくびくうえん)など)が原因の疑いがあります。そしてそれらの病気の治療を行っても咳が止まらない場合、あるいは原因が分からない場合は、「難治性の慢性咳嗽」と呼ばれています。

わずかな刺激にも反応して咳が出る「咳過敏性症候群」に要注意

「咳過敏性症候群」とは?

なぜ「難治性の慢性咳嗽」が生じるのでしょうか。原因を探るうえで、近年注目されている病態が、「咳過敏性症候群」です。「咳過敏性症候群」は、通常なら咳の原因にならないようなわずかな刺激でも、体が過敏に反応して咳が出てしまう状態のことを指します。わずかな刺激の例としては、話す、笑う、歌う、冷気や乾燥した空気を吸い込む、香水やたばこの煙を吸い込む、などが挙げられます。

図:わずかな刺激の例。話す、笑う、歌う、冷機や乾燥した空気を吸い込む、香水やたばこの煙を吸い込む。

長引く咳がもたらす体への影響

「咳過敏性症候群」になり咳が長引くと、夜眠れなくなったり、体がだるくなったり、あるいは仕事や勉強に集中できなくなったりと、日常生活に支障を来すことにつながります。

図:咳が長引いたときの影響。夜眠れなくなる、体がだるくなる、仕事や勉強に集中できなくなる。

それだけではありません。咳が長引くと、気管や気管支などの気道に炎症が生じ、さらにその炎症が原因となって、気道の壁が厚く硬くなって気道狭窄(きょうさく)にもつながってしまいます。「咳過敏性症候群」は、決して軽視できない病態なのです。

新薬・リフヌアは「咳過敏性症候群」に効果あり!?

新しい作用の治療薬

病気の治療を行っても咳が止まらない、あるいは咳の原因が分からない「難治性の慢性咳嗽」に関係している「咳過敏性症候群」ですが、近年「リフヌア(一般名:ゲーファピキサント)」という新しい薬が使用できるようになりました。

2022年に承認された新薬で、咳に関係する神経をブロックすることで咳が出る反応を抑える仕組みになっています。錠剤を1日に2回服用することで、これまでの治療では改善しなかった咳に効果が期待できるため、「咳過敏性症候群」に悩んでいた患者さんたちからの注目を集めています。

副作用と注意点

ただしリフヌアも万能ではありません。すべての咳に効果が期待できるわけではなく、味が薄く感じられる、あるいは味が感じられなくなる味覚の変化などの副作用も報告されています。

とはいえ、従来の治療では効果を得られなかった患者さんには、新しい選択肢となり得る新薬です。長引く咳にお悩みの場合は、一度医療機関を受診することをおすすめします。

更新:2025.10.10