【アトピー新薬】デュピルマブとは?効果や薬価、注意点を分かりやすく解説

メディカルブレイン編集部

強いかゆみのある湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返すアトピー性皮膚炎。かゆみに耐えきれなくなり、()くことで症状の悪化を招いてしまう病気で、なかなか症状が改善しないこともあるため、途中で治療を諦めてしまう患者さんもしばしば見られました。しかし近年、立て続けにアトピー性皮膚炎の新しい治療薬(アトピー新薬)が開発されたことで、状況は大きく変わっています。

そもそもアトピー性皮膚炎とは?患者さんは増えている?

アトピー性皮膚炎は、肌のバリア機能が失われて起きるドライスキン(乾燥肌)、アレルギー反応を起こす要因となるアトピー素因、そしてそれらによって生じるかゆみの3つの要素が複雑に絡み合って発症します。

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ほかにもダニやハウスダストといったアレルギー反応を引き起こす室内アレルゲンや食生活の変化、大気汚染、ストレス、睡眠不足、生活習慣の乱れなども発症に関係していると考えられていて、先進国では近年患者数が増加傾向にあり、日本も例外ではありません。

国内では20年前の2005年には40万人弱だった患者数が、2017年には50万人を突破。さらに2020年には120万人を超え、2023年には160万人に達するといったように、激増しています。同時に、一昔前までは子どもの病気と思われていたアトピー性皮膚炎ですが、近年は一度治まっていた症状が大人になってから再発したり、あるいは大人になってからアトピー性皮膚炎を発症するというケースも増えています。

グラフ:国内のアトピー性皮膚炎患者数
※厚生労働省「患者調査」より作成

これまでアトピー性皮膚炎の治療は、肌の保湿、アレルギー反応による炎症を抑えるためのステロイド剤の使用、生活環境の改善など悪化要因の除去、の3つが柱となっていました。ステロイド剤は、炎症が生じる前から使用することで未然に症状を防ぐプロアクティブ療法に用いられることもありますが、これら3つの治療法は基本的にはすべて対症療法です。そのため、かゆみに耐えきれず掻いてしまって症状が悪化し、結果として途中で治療を諦めてしまった患者さんを見かけることもありました。

ところが今、対症療法ではなく「かゆみや炎症が起こる前に抑える」ための新薬が続々と登場し、アトピー性皮膚炎の治療の状況が一変しています。その皮切りとなったのが、2018年に承認されたアトピー新薬のデュピルマブ(商品名デュピクセント)です。

かゆみや炎症を引き起こす物質の働きを直接抑えるデュピルマブ

デュピルマブ(商品名デュピクセント)はかゆみや炎症を抑える薬ではありません。体内にはTh2細胞という免疫細胞があり、このTh2細胞が生み出す炎症性サイトカインと呼ばれる物質が肌のバリア機能を弱めたりかゆみや炎症を引き起こしたりすると考えられているのですが、デュピルマブはこの炎症性サイトカインの働きを直接抑え込むのです。

図:デュピルマブの働きのイメージ。

そのため、これまでの治療法では効果が不十分だった中等症から重症の患者さんにも効果的であるとされています。

デュピルマブは、生物が体内で作り出すタンパク質などを利用して作られる「生物学的製剤」と呼ばれる薬の一種です。タンパク質を利用しているため経口摂取では消化されてしまうこともあり、皮下注射で投与します。

注射は医療機関で受ける以外にも、在宅などで自分や家族がおなかや太ももなどに注射する自己注射という方法も可能です。

デュピルマブ以外にもある!アトピー性皮膚炎の新しい治療薬

このように、既存の治療法とは異なるアプローチでアトピー性皮膚炎の改善を可能にしたデュピルマブですが、以降も続々と新薬が登場しています。

デュピルマブと同じ生物学的製剤の薬もあれば、炎症性サイトカインの情報伝達に必要なJAK(ヤヌスキナーゼ)という酵素の働きを抑えることで症状を改善させる「JAK阻害薬」や、炎症性サイトカインが生み出されるのと抑える働きを持つ物質を分解するPDE4という酵素の働きを抑える「PDE4阻害薬」などもあります。いずれも、かゆみや炎症の根本にアプローチすることで、アトピー性皮膚炎の症状に対して効果を発揮します。

アトピー性皮膚炎の主な新薬一覧

近年承認されたアトピー性皮膚炎の新薬
一般名 商品名 使用法 承認年
生物学的製剤 デュピルマブ デュピクセント 皮下注射 2018年
ネモリズマブ ミチーガ 皮下注射 2022年
トラロキヌマブ アドトラーザ 皮下注射 2022年
JAL阻害薬 バリシチニブ オルミエント 内服 2020年
ウパダシチニブ リンヴォック 内服 2021年
アブロシチニブ サイバインコ 内服 2021年
PDE4阻害薬 ジファミラスト モイゼルト 塗り薬 2021年

アトピー新薬で治療する前に知っておきたい3つのこと

このように、新薬はアトピー性皮膚炎の治療を中断していた患者さんにも新たな選択肢を可能にします。では、新薬を使用する際に気を付ける点は、どのようなあたりでしょうか?

  • まずは専門医に相談
    新薬は、「試してみたい」と思っても気軽に手に入るわけではありません。日本皮膚科学会などによる「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024」にも、既存治療の適正化を行っても症状の寛解(病気の症状が、一時的あるいは継続的に軽減した状態)に導けない場合に、生物学的製剤の皮下注射やJAK阻害薬の内服の併用を検討する、とあります。まずは医師と相談したうえで、治療方針を決める必要があります。
  • 新薬は高価な場合も
    新薬は、既存の治療法と比べて高価な場合があります。例えばデュピルマブ。成人の患者さんの場合は、初回に300mgのシリンジまたはペンを2本、その後は2週間ごとに1本ずつ注射します。3割の自己負担ですと、初回は2本注射して自己負担額は32,195円、その後は1本注射するごとに16,098円の薬剤費が必要になります(2024年11月時点)。
  • 使用できる年齢に制限がある場合も
    新薬の中には、使用できる年齢に制限があるものもあります。デュピルマブの場合は、従来の治療法で十分な効果が得られていない生後6か月以上かつ体重5kg以上の患者さんが使用可能となっています。

更新:2025.09.22