今後、爆発的に患者数が増加!?超高齢化社会で忍び寄る「心不全パンデミック」

日本は今、人口約1億2380万人のうち65歳以上の人口は3624万人と、その割合が29.3%にも上る超高齢化社会を迎えています(2024年10月1日時点)。そんな状況の中で問題視されているのが、心不全の患者数の爆発的な増加です。2030年には心不全患者が130万人を突破するとみられていて、「心不全パンデミック」とも呼べる状況に陥ることが危惧されています。
超高齢化社会と心不全患者増加の関係
日本の65歳以上人口の割合(高齢化率)は、1950年の時点では総人口の5%に満たない程度でした。しかし1970年になると7%に達し、1994年には14%を超過。そして2007年にはついに「超高齢化社会」の目安とされる高齢化率21%を突破し、2024年には約29.3%にまで増加しています。

※2025年以降の数値は推定値
急速に進む超高齢化社会の中で、従来の医療制度、老人保険制度では対応しきれない問題が生じると予想されており、医療、福祉、介護などにどう対応していくかが国民全体の課題となっています。
懸念されている課題の1つが、「心不全パンデミック」です。
パンデミックは、「感染症の世界的大流行」を指す言葉であり、本来感染症ではない心不全に用いられることはありません。では、なぜ「心不全パンデミック」という言葉が生まれたのか。それは、心不全が年齢を重ねるとともに発症リスクが増加する病気だからです。
慢性心不全の発症率は50歳代ではわずか1%に過ぎません。しかし、80歳以上では、10%にもなることが、アメリカでの研究で報告されています。
下のグラフは、国内の心不全患者数の推移を推定したものです。

※公益財団法人日本心臓財団 公式サイト「高齢者の心不全」より抜粋
2005年には100万人に達していなかった国内の心不全患者数ですが、2025年には約120万人にまで増え、さらに2030年には130万人を突破するとみられています。日本人の死因トップはがんですが、国内のがん患者数は2021年時点で約99万人です。これと比べると、心不全患者数がいかに爆発的に増加しているかが分かります。
心不全は感染症ではありませんが、超高齢化に伴う患者数増加の勢いがまるで「パンデミック」のようであることになぞらえ、誰が名付けたのかははっきりしていませんが、いつしか現状を「心不全パンデミック」と呼ぶようになったのです。
心不全は、どういう病気?
心不全と聞くと、なんとなく心臓が止まってしまう病気というイメージはできますが、詳しい症状については案外知られていないかもしれません。そこで、心不全とはどういう病気なのかについて、ご紹介します。
心臓は、全身に血液を送り出すために一日たりとも休まず動き続けています。心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。そのため、心不全と一言で言っても、原因や自覚症状は人によって異なります。
心不全の原因はさまざまで、心筋梗塞や狭心症、弁膜症、高血圧、不整脈、先天性心疾患などといった病気から生じていきます。心不全を発症すると、心臓から十分な血液が全身に送られなくなるため、酸素や栄養が不足します。すると坂道はもちろん、平らな場所を歩くというちょっとした動作でも動悸や息切れがしたり、疲れやすくなったりします。咳や痰が止まらなくなったり、むくみが出たりする症状がみられることもあります。

心不全になったら気を付けることは?
心不全は症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す病気ですので、うまく付き合っていくことが大切です。心不全の治療で気を付けたいことは、大きく分けて次の3つです。
薬の内服を自己判断で止めない
心不全の治療には、むくみを抑えるための利尿剤や、心臓に悪い影響を及ぼすホルモン類をブロックする薬など、さまざまな薬を用います。症状が改善されてくると自己判断で薬の服用を止めてしまう患者さんもいるのですが、心不全は薬の内服を中断すると短期間で症状が元通りになってしまう恐れがあります。症状が改善されたからといって、自己判断で薬の使用を中断することは禁物です。
生活習慣に注意する
心不全になった場合、食生活の改善も必要です。特に注意したいのは塩分。塩分の過剰摂取は、体内に体液がたまる原因になり、心不全の症状を悪化させる恐れがあります。また、喫煙と飲酒も厳禁です。喫煙は血管を傷つける可能性がありますし、アルコールは心臓に悪影響を与えます。
自己管理に努める
心不全は治療によってある日突然症状が改善されるわけではなく、長く症状と付き合っていく必要のある病気です。そのため、薬の内服や生活習慣に注意したうえで、血圧や体重なども日々チェックしていくことが大切です。血圧の数値の増減や突然の体重増加などを管理することで、自分の体の異変にいち早く気づくことができるのです。
更新:2025.09.07