夏場の冷えたビールは大敵!?日本の新・国民病「機能性ディスペプシア」

メディカルブレイン編集部

原因がはっきりせず、慢性的に胃もたれや腹痛、吐き気などに悩まされてはいませんか?
実はこれらの症状は、「機能性ディスペプシア」という病気で、日本の「新・国民病」になると言われるほど、国内で増えてきています。

今回は、この「機能性ディスペプシア」について解説します。

原因が分からない胃の不調「機能性ディスペプシア」は、治療すべき病気

「ディスペプシア」という言葉は「消化不良」を表すギリシャ語が語源とされ、現在では腹痛、特にみぞおち周辺の痛みや胃の不快感、胃もたれ、膨満感や食欲不振などといった胃の不調を表す医学用語として用いられています。その中でも、検査をしても原因が見つからず慢性的に胃の不調が続く症状が、「機能性ディスペプシア」と呼ばれる病気です。

以前は原因が分からないため単なる胃の不調として扱われていた症状ですが、胃の痛みや不快感が続くことで患者のQOL(生活の質)低下に結び付くことから、今では治療すべき病気と考えられていて、2013年以降は保険適用による治療も可能になっています。

内視鏡検査や血液検査、さらにCT検査や胃のピロリ菌除去などを行い、原因となる異常が見つからないにもかかわらず胃の不調が慢性的に続く場合に、「機能性ディスペプシア」の診断が下されます。

国民の約10人に1人がかかる!?「機能性ディスペプシア」は新・国民病

「機能性ディスペプシア」の原因については、まだ明確には分かっていません。複数の要因が関係していると考えられていますが、ストレスや不規則な生活習慣によって自律神経が乱れることで胃の機能にトラブルを引き起こすこともその一つです。

現代の日本では職場や人間関係によるストレスを抱えやすく、睡眠時間や食生活が不規則になっている人も増えています。さらに、数年前には新型コロナウイルス感染症の流行により、経済的にも身体的にもストレスがたまる状況でした。では、どのくらいの日本人が「機能性ディスペプシア」にかかっているのでしょうか?

日本消化器病学会は「機能性消化官疾患診療ガイドライン2021」の中で、「機能性ディスペプシア」の患者数推移については「エビデンス(証拠)がなく評価が困難」としていますが、健康診断受診者のうち11~17%が「機能性ディスペプシア」にかかっていたと報告しています。このことから、今では国民のうち約10人に1人が「機能性ディスペプシア」にかかっている可能性があると言われています。

さらに、日本生活習慣病予防協会が2023年、消化器内科医331名を対象に実施した調査結果を見ても、現代の日本人が罹患(りかん)していると思われる新・国民病の1位が「機能性ディスペプシア」となっています。

今後新たな日本人の国民病となりえる病気TOP10

グラフ:今後新たな日本の国民病となりえる病気TOP10:とても増えていると思う 14.5% 増えていると思う 43.5% やや増えていると思う 28.7% 増えているとは思わない 13.3%

※出典:一般社団法人日本生活習慣病予防協会公式サイト

また、同じ調査で「機能性ディスペプシアの患者が増えていると感じるか?」という質問に対しては、86.7%の消化器内科医が程度の差はあれ「増えていると思う」と回答しています。

機能性ディスペプシアの患者が増えていると感じるか?

グラフ:機能性ディスペプシアの患者が増えていると感じるか?:機能性ディスペプシア 24.5% MASLD 23.9% うつ病/不安症	22.4%
認知症 18.4% サルコペニア/フレイル/ロコモティブシンドローム 18.3% 過敏性腸症候群 18.1% 不眠症 15.1% 肥満症/るい痩 14.8% 糖尿病 12.4% 胃食道逆流症 12.1%

※出典:一般社団法人日本生活習慣病予防協会公式サイト

国民の約10人に1人がかかっている可能性があり、さらに今後も患者数が増え続けるとみられる「機能性ディスペプシア」は、まさに新・国民病と言える病気です。

夏場は冷たいもののとり過ぎにも注意!「機能性ディスペプシア」の予防と治療法は?

「機能性ディスペプシア」の予防

「機能性ディスペプシア」になる原因としては、前述したストレスや不規則な生活習慣のほか、遺伝や生育環境、感染性胃腸炎の既往、胃や十二指腸の知覚過敏など、複数の要因が複合的に関与していると考えられています。ただ、ストレスや生活習慣の改善は今日からでも行えるため、運動不足の解消や脂肪分の多い食事や早食いを控えることなどは、気軽に行える「機能性ディスペプシア」の予防です。

また、夏場はビールやアイスクリームなど冷たいものがおいしい季節ですが、胃の知覚過敏も「機能性ディスペプシア」の原因の一つです。胃の不調を予防するためにも、冷たいものの飲み過ぎ、食べ過ぎには注意しましょう。

イラスト:ビールとアイスクリーム

「機能性ディスペプシア」の治療法

「機能性ディスペプシア」は、がんなどの自覚症状がないまま進行する病気とは逆に、自覚症状があるのに検査をしても器官や数値に異常が見られない病気です。そのため、治療の目安は「満足できるだけの症状改善が行われたかどうか」という点になります。

予防と同様に、生活習慣の改善や食事療法も治療法の一つになりますし、ストレスも症状に影響するため、医師と信頼関係を築いて話を聞いてもらうだけでもストレスが緩和され、症状の軽減につながることがあります。

症状によっては薬物療法も用いられます。酸分泌抑制薬や消化管運動機能改善薬のほか、六君子湯(りっくんしとう)といった漢方薬を使用することもあります。さらに、心療内科的治療、はり治療といった選択肢も検討される場合があります。

かつては「胃の不調」と片付けられてしまっていた「機能性ディスペプシア」ですが、今では治療しなければQOLを低下させてしまう病気として、社会の理解が進んでいます。もしみぞおちのあたりの痛みや、食後の胃の不快感などが1か月程度続くようでしたら、それは「機能性ディスペプシア」かもしれません。消化器内科での受診をおすすめします。

更新:2025.07.25