前立腺がん診療の実際
日本医科大学付属病院
泌尿器科
東京都文京区千駄木

前立腺がんとは?
男性におけるがん罹患数(りかんすう)(病気になる人の数)のトップは「前立腺(ぜんりつせん)がん」であり、2022年の予測では約96,400人に上ります。年齢とともに発症リスクが高まり、中高年の男性にとって注意すべき代表的な病気の1つです。初期段階では症状がほとんど現れませんが、体調や尿の変化に注意を払うとともに、検診などで採血(PSA検査)を受けることは、前立腺がんの早期発見につながります。治療法は手術、放射線療法、ホルモン療法、抗がん剤療法などがあります。病気のステージ(進行度)だけでなく、患者さんの希望や健康状態を考慮して決定します。専門医との協力を通じて、適切な治療プランを見つけることが大切です。
診断から治療について
1.症状
前立腺がんは初期段階では症状がほとんど見られませんが、血尿や排尿困難感が現れることがあります。進行すると、骨痛や内臓痛が出ることがあります(図1)。そのため、前立腺がんを早期発見することは極めて大切です。定期的な前立腺がん検診や医師の診察を受けることを心がけましょう。

2.検査
前立腺がんの診断には次の検査法などがあります。
- ・PSA検査:
- PSA値(採血)を調べ、前立腺がんの可能性を評価します。PSA値が基準値を超える場合、前立腺がんの可能性が高まりますが、PSA値は前立腺肥大症(ひだいしょう)や前立腺炎でも上昇することがあります。そのため専門医の診察を受け、より詳細な検査を行うことが重要です。
- ・超音波(エコー)検査:
- 超音波画像から、前立腺の大きさや形状を評価します。
- ・MRI(磁気共鳴画像検査):
- 前立腺の詳細な放射線画像を撮影し、がんの存在や進行度を確認します。
- ・前立腺生検(せいけん):
- PSA検査やMRIで異常が検出された場合、前立腺生検が行われます。この検査では、前立腺組織の一部を採取し、病理学的な検査によってがんの有無や性質を確認します。治療法を選択するための重要な情報が評価できます。
3.治療
- ・前立腺全摘除術:
- 前立腺を摘出する手術であり、ロボット支援下手術が積極的に行われています。
- ・放射線療法:
- 前立腺がんの治療法の1つで、前立腺に放射線を照射してがん細胞を死滅させます。手術が難しい場合や高齢の患者さんにも適応され、痛みを軽減する目的で行うこともあります。外部照射療法と組織内照射療法の2つの方法があります。
- ・ホルモン療法:
- 前立腺のがん組織は男性ホルモンの影響を受けて成長します(男性ホルモン依存性)。男性ホルモンを抑制するのがホルモン療法です。ただしホルモン療法を行っても、完全に細胞を死滅させられるわけではありません。進行したがんや治療後の再発予防に用いられることがあります。治療が効かなくなる場合もあり、そのような状態を「去勢抵抗性前立腺がん」と呼びます。
- ・抗がん剤療法:
- 薬物を使用してがん細胞を攻撃する治療法です。初診時で骨や他臓器に転移している状態や、去勢抵抗性前立腺がんの状態のときに実施することがあります。外来に通院しながら行うことが可能です。
- ・個別化治療:
- 去勢抵抗性前立腺がんに対する個別化医療は、患者さんのがん細胞のさまざまな特徴を評価して、患者さん一人ひとりに適した治療プランを立てます。
当科の前立腺がん診療について
当科の前立腺がん診療の特徴を紹介します(図2)。

1.前立腺生検
日本医科大学式テンプレート(局在マッピング)を用いた経直腸的生検や、新たな取り組みとしてMRI融合標的前立腺生検を施行しています。
2.根治的前立腺全摘術
これまでに、当院では1,500件以上の前立腺全摘術を行ってきました。現在では、ロボット支援下手術(ダビンチ、hinotori™)を実施しています(写真)。実際のロボット支援下手術は、手術時間が4時間程度で輸血が必要になることはまれです。平均入院期間は約11日間です。

3.密封小線源療法
密封小線源療法は前立腺がんの内照射治療で、永久的に放射線の線源(ヨウ素125)を前立腺内に留置し、根治(こんち)(※1)をめざす治療です(図3)。周囲臓器への放射線リスクを低減し、体への負担が比較的少ないことが特徴です。悪性度の低い局所前立腺がんが主な対象ですが、前立腺の形状や症状の有無により適応外になることがあります。

泌尿器科、放射線科、麻酔科が協力し、実践しています
4.ゲノム医療
当院では、泌尿器科医、病理医、遺伝診療科チームと協力しながら、治療可能な薬剤や臨床研究を探る「がんゲノム医療」に積極的に取り組んでいます。特に去勢抵抗性前立腺がんの患者さんを対象として、前立腺がんのゲノム医療を行っています。
5.AI研究
当科が推進する泌尿器がんに対する医療AI研究は、これまでにいくつかの成果を上げてきました。将来的には医療技術の実用化や新たなエビデンス(※2)の発見に向けた研究を進めていきたいと思います。
前立腺がんの治療は常に進化しています。適切な診断や治療法については、専門の医師にご相談ください。
※1 根治:完全に治すこと。治癒
※2 エビデンス:証拠。この治療法がよいと言える証拠
更新:2025.12.12
