「妊娠したから薬は飲めない」はもう古い?見直しが進む、妊娠にまつわるお薬事情

メディカルブレイン編集部

母体や赤ちゃんに影響を与えてしまうことから、妊娠中や妊娠を望む女性への使用が「禁忌」とされている薬があります。ところが近年、最新の研究結果などから、薬の使用を控えることよりも妊娠中や妊娠を望む女性であっても適切に薬を使用して治療を進めた方が有益なケースがあることが分かり、いくつかの薬が妊娠中や妊娠を望む女性への使用の「禁忌」が解除されています。今回は、妊娠中や妊娠を望む女性にとってのお薬の最新事情を解説します。

妊娠中・妊娠を望む女性にとって「禁忌」とされていた薬の解除が続く

入手しづらかった薬の「禁忌」についての情報

妊娠中や妊娠を望む女性が薬を使用する際は、母体だけではなく赤ちゃんへの影響も考えなければなりません。そのため、以前から妊娠中や妊娠を望む女性にとって使用が「禁忌」とされる薬がありました。

ただその一方で、妊娠中に薬を使用することの安全性についての情報を入手しづらいという問題があり、そのため持病があって服薬治療中の女性が妊娠に積極的になれなかったり、あるいは妊娠を望むあまり服用が必要な薬を自分の判断で中止してしまったり、さらには妊娠していることに気づかずに「禁忌」とされている薬を使用してしまい、子どもを産むかどうかを悩んでしまったりといった問題が散見されていました。

そこで厚生労働省が2005年に国立成育医療研究センター内に設置した「妊娠と薬情報センター」が、薬が母体や赤ちゃんに与える影響について最新の研究結果などを踏まえたうえで妊娠中や妊娠を望む女性の相談に応じていました。

最新の研究結果を踏まえ、「禁忌」ではなくなった薬が増加

「妊娠と薬情報センター」は2016年から専門家と力を合わせ、妊娠中の女性への投薬についての情報を改定する取り組みも続けています。その結果、これまで妊娠中や妊娠を望む女性には「禁忌」とされていた薬の中で、「禁忌」が解除される薬も見られるようになりました。

以下の一覧は、「禁忌」が解除された主な薬です。

解除時期 適応症 種類 薬の一般名
2018年 自己免疫疾患(リウマチ、潰瘍性大腸炎など) 免疫抑制剤 タクロリムス水和物
シクロスポリン
アザチオプリン
2022年 高血圧、狭心症 カルシウム拮抗剤 アムロジピン
ニフェジピン
2024年 虚血性心疾患、拡張型心筋症に基づく慢性心不全など β遮断薬 カルベジロール
ビソプロロール
2025年 慢性胃炎 吐き気止め ドンペリドン

それぞれの薬について、詳しく解説します。

【2018年に解除】自己免疫疾患の治療に用いる免疫抑制剤3薬

リウマチや潰瘍性大腸炎といった自己免疫疾患の治療に用いる免疫抑制剤の中に、「タクロリムス水和物」「シクロスポリン」「アザチオプリン」という3つの薬があります。

(関連記事:「リウマチ」「潰瘍性大腸炎」

動物を用いた試験の結果、胎児への影響があると考えられていたため、妊娠中または妊娠している可能性のある女性への投与は「禁忌」とされていました。

図:保存療法、手術療法、「自家培養軟骨」を用いた治療法

ところが海外の研究結果などを踏まえて検討したところ、免疫抑制剤を投与した妊婦の胎児に先天性異常の発生率が上昇したという報告はないことなどから、2018年に「禁忌」が解除されました。

同時に、「アザチオプリン」は遺伝子を損傷する可能性があるため、投与期間中の妊娠は可能な限り避けることが望ましいことと、服用する場合にはそのリスクをパートナーにも説明すべきということが追記されています。

【2022年に解除】高血圧や狭心症の治療に使用するカルシウム拮抗剤2薬

「アムロジピン」と「ニフェジピン」はカルシウム拮抗(きっこう)剤で、血管を拡張させることで血圧を下げる働きがあることから、高血圧や狭心症の治療に使用されます。

(関連記事:「高血圧」「妊娠高血圧症候群」「狭心症」

「アムロジピン」は妊娠末期に使用すると妊娠期間や分娩時間が延びてしまうことがあったこと、「ニフェジピン」は動物試験の結果から赤ちゃんへの影響が懸念されていたことなどから、妊娠中または妊娠している可能性のある女性への投与は「禁忌」でした。

図:保存療法、手術療法、「自家培養軟骨」を用いた治療法

これら2つは、高血圧に対して第一選択薬とされているカルシウム拮抗剤の中でも処方割合が高い薬です。検討の末、2022年に妊娠中または妊娠している可能性のある女性への投与について「禁忌」を解除し、危険性よりも治療を続けることのメリットが上回る場合にのみ、使用してもよいことになりました。

【2024年に解除】虚血性心疾患や慢性心不全などの治療で使うβ遮断薬2薬

心拍数を減らしたり血圧を下げたりする効果があるβ遮断薬は、虚血性心疾患や拡張型心筋症に基づく慢性心不全などの治療で使われます。「カルベジロール」と「ビソプロロール」の2薬は、このβ遮断薬です。

(関連記事:「虚血性心疾患」「心不全」

いずれの薬も赤ちゃんの先天性異常を引き起こす可能性があると考えられていたため、妊娠中や妊娠を望む女性の使用は「禁忌」とされていました。

ところが最新の研究結果を基に検討したところ、妊娠中または妊娠を望む女性であっても治療のメリットが危険性を上回る場合には使用してもよいことになり、2024年に「禁忌」が解除されました。

【2025年に解除】慢性胃炎による吐き気を止める薬「ドンペリドン」

「ドンペリドン」は、慢性胃炎による吐き気止めの薬です。妊娠時の「つわり」が慢性胃炎による吐き気の症状に似ているため、妊娠に気づく前に処方される場合があることから、特に妊娠中の女性からの相談件数が多かった薬です。

図:保存療法、手術療法、「自家培養軟骨」を用いた治療法

赤ちゃんに先天性異常を生じさせるリスクがあるとして、妊娠中または妊娠を望む女性の使用は「禁忌」とされてきた薬ですが、「妊娠と薬情報センター」が「妊娠初期に使用したとしても赤ちゃんに対する先天性異常のリスクを高める可能性は低い」とまとめた報告書などによって、2025年に「禁忌」が解除されました。

ただし、注意点があります。妊娠時の「つわり」は「ドンペリドン」の適応症ではありません。そのため「禁忌」が解除されても、「つわり」を止めるために「ドンペリドン」を積極的に用いることはできません。

「禁忌」が解除されたからといって、市販薬のように気軽に使用するのはNG

このように、「妊娠中は薬を飲んではいけない」というイメージは医学の進歩と研究結果・データの蓄積により、昔のものになりつつあります。妊娠中あるいは妊娠を望む女性であっても、持病の治療を中断しなくてもよい場合が増えつつあります。

しかし、気を付けなければならないのは、「禁忌」が解除されたからといって、「イコール安全」ではないことです。「禁忌」が解除されても、妊娠中・妊娠を望む女性が使用するには「治療のメリットが危険性を上回る場合」などの条件が付くことが多々あります。また、妊娠の週数によって同じ薬でも服用できる場合、できない場合もあります。

一人で悩んだり自己判断をしたりはせずに、まずは持病の主治医と産婦人科の主治医の双方に相談してみることが大切です。

更新:2026.04.27