日本人がアメリカ最高権威の医学賞を受賞。脳でつくられる「オレキシン」と睡眠障害「ナルコレプシー」との関係を解明
メディカルブレイン編集部

2026年9月、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史教授が、覚醒維持を促す神経ペプチド「オレキシン」の発見と、オレキシンの欠乏により睡眠障害の一つである「ナルコレプシー」が発病することを解明したことが評価され、アメリカで最高の権威を持つ医学賞であるラスカー基礎医学研究賞を受賞しました。今回はこのオレキシンとナルコレプシーについて解説します。
オレキシンとナルコレプシーの関係
日中突然強い眠気に襲われるのがナルコレプシーの特徴
ナルコレプシーとは、どのような睡眠障害なのでしょうか。ナルコレプシーは夜しっかり寝ているにもかかわらず日中突然強い眠気に襲われたり、突然眠り込んでしまったりする睡眠障害です。
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日本睡眠学会「ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン」によると、ナルコレプシーは10代~20代前半によく発症し、特に14歳~16歳が発症のピークです。その半面、40代以降で発症することはほとんどありません。ナルコレプシーは世界中の人々に発症する睡眠障害ですが、世界全体の有病率の平均が0.05%(2000人に1人)なのに対し、日本の有病率は0.16%(600人に1人)と、世界で最も高いのが特徴です。
脳の神経の受容体がオレキシンを受け取ることで、覚醒状態を安定して保てる
ナルコレプシーの原因となるのが、柳沢教授が発見した神経ペプチドの一種であるオレキシンの欠乏です。神経ペプチドとは細胞間の情報伝達や調節を行うアミノ酸が数個〜数十個つながった分子の総称で、オレキシンは脳の視床下部にある神経細胞(ニューロン)でつくられます。

オレキシンには、覚醒した状態を安定して保たせる働きがあります。オレキシンのおかげで、健康な人は日中突然眠くなることもなく過ごせるのです。
脳の視床下部でつくられたオレキシンは、脳の別の神経細胞の表面にある受容体に結び付き、覚醒状態を安定して保つための信号を発します。オレキシンが鍵、受容体が鍵穴のような関係になっています。

健康な人は、脳の視床下部でつくられたオレキシンを受容体が受け取るため、覚醒状態を安定して保つことができます。しかし、自己免疫の異常や遺伝的要因などでオレキシンをつくる神経細胞が失われていると、オレキシンが欠乏し、覚醒状態を保てなくなってしまい、ナルコレプシーにつながります。
これがオレキシンとナルコレプシーの関係です。
ナルコレプシーの症状とは?
日中の強い眠気に加え、脱力発作や金縛り、幻覚などの症状が現れる
ナルコレプシーの最も特徴的な症状は日中に突然強い眠気を覚えることですが、それだけではありません。主な症状は、以下のようなものがあります。ただし、全員にすべての症状が現れるわけではありません。
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日中の強い眠気
日中に、我慢できないほどの強い眠気が急にやってきて、うたた寝や居眠りをしてしまう症状。
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情動脱力発作(カタプレキシー)
「笑い、喜び、驚き、あるいは怒り」などの強い感情が引き金となり、全身や膝、顎などの力が急に抜けてしまう症状。特に笑った時の発作が代表的です。
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睡眠麻痺
いわゆる金縛りの状態です。寝入りばなや、目覚めた直後に体が動かせず、声も出せません。数秒から数分程度で自然に動けるようになります。
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入眠時幻覚
眠りに入る時や、目覚めた時に、現実にはない映像や音が聞こえる症状。
オレキシンが足りているにもかかわらず起こるタイプ2も存在
ここまで解説してきたオレキシンの欠乏が原因で起こるナルコレプシーはタイプ1とされていて、オレキシンが足りているにもかかわらず発症するナルコレプシーも存在します。それが、タイプ2です。
ナルコレプシー タイプ2は、まだ起こる原因は明確にわかっていません。以下のようにタイプ1とほぼ同じ症状が現れますが、タイプ2では情動脱力発作(カタプレキシー)は見られないのが大きな違いです。

ナルコレプシーの診断の際は、情動脱力発作(カタプレキシー)の有無についての問診に終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)、反復睡眠潜時検査(MSLT)、そして脳脊髄液オレキシン測定などを行い、タイプ1なのか、それともタイプ2なのか、あるいは別の睡眠障害なのかを総合的に判断します。
オレキシンの発見とナルコレプシーとの関係の解明がもたらしたもの
ナルコレプシー タイプ1の治療薬が2026年に販売開始
柳沢教授がオレキシンの存在を発見したのが1998年。それから28年が経過したいま、オレキシンは2種類の薬の開発につながっています。
その1つが、ナルコレプシー タイプ1の治療薬です。オレキシンをつくる神経細胞が失われているのなら、オレキシンを別の物質で補えないかという発想で開発された薬が、2026年8月に国内で承認され、同年10月に保険適用されて販売が開始された「オーゼイフル(一般名:オベポレクストン)」(武田薬品工業)です。
「オーゼイフル(一般名:オベポレクストン)」は服用するとオレキシンの代わりに脳の神経細胞のオレキシン受容体と結び付き、覚醒状態を安定して保つための信号を発出させます。これにより、オレキシンの欠乏が原因となるナルコレプシー タイプ1の症状を改善させるのです。
ただし、「オーゼイフル(一般名:オベポレクストン)」はタイプ2には効果がありません。タイプ2の場合は、日中の強い眠気を抑える薬物療法と、規則的な睡眠や計画的な仮眠を組み合わせて治療を行います。
不眠症に効果がある睡眠薬の開発にもつながる
もう1種類が、睡眠薬です。安定した覚醒状態を保つ働きがあるオレキシンを、受容体が受け取らないようにブロックすれば、自然な眠気を引き起こすことができるという発想で生まれた薬で、オレキシン受容体拮抗薬と呼ばれています。日本では複数の成分がすでに承認され、販売されています。
睡眠障害は、眠れなくなる不眠症、眠り過ぎてしまう過眠症、眠っている際に寝ぼけ行動などを起こしてしまう睡眠時随伴症、そして睡眠関連呼吸障害などに大別されます。ナルコレプシーは過眠症の一つですが、患者さんが最も多いのは不眠症です。
この不眠症に対して効果があるのが、オレキシン受容体拮抗薬です。脳の働きを強く抑える従来の睡眠薬と比べると寝付きが自然で、依存性も少なく、筋弛緩効果によるふらつきなども起きにくいのが特徴です。
柳沢教授がオレキシンを発見してからの28年間で、ナルコレプシーの原因を解明する基礎研究から新薬開発までが一気に進んだことが高く評価され、今回のラスカー賞受賞につながったのです。
更新:2026.10.30
