卵巣がん
概要
卵巣がんは子宮の両脇にある卵巣に発生するがんで、発生した場所によって上皮性卵巣がん、胚細胞性卵巣がん、性索間質性卵巣がんの3つの種類に分けられます。90%以上が上皮性卵巣がんで、いずれのがんも閉経前後や妊娠・出産を経験していない人に多いとされています。ただ若年層で発症するものもあり、初期にはほとんど自覚症状がないため、がんであることを見過ごしてしまうケースも少なくありません。
これまで欧米人に比べて日本人には少ないがんといわれてきましたが、近年の食生活の欧米化もあり、日本でも増加傾向にあります。卵巣がんは進行するとおなかの臓器を包む腹膜を経て、広範囲に広がってしまう特徴があるので、女性にとって注意すべきがんといえます。栄養バランスの良い食事に留意することや、適度な運動を続ける、過度の喫煙や飲酒はやめるなど、生活習慣を整えることが予防への第一歩といえるでしょう。
症状
卵巣がんは、早期段階ではほとんど自覚症状が現れません。けれども進行するに従って、下腹部の違和感や痛みや張り、腰の痛みなどを感じるようになります。また卵巣がんが大きくなると、大腸や膀胱など、周りの臓器を圧迫するため、便秘や頻尿といった症状も現れます。同じように、胃を圧迫することで食欲低下や吐き気、嘔吐(おうと)などを引き起こすこともあります。
こうした強い症状を感じるときは、卵巣がんがすでにほかの臓器に転移した後であることが少なくありません。裏返せばそれだけ早期発見が難しいがんということでもあり、早期の治療を実現するためにも、たとえ違和感がなくても定期的に婦人科検診を受けるとともに、少しでも体に異常を感じたら早急に医療機関を受診することが大切です。
原因
卵巣がんが発生する明確なメカニズムはまだ分かっていない部分も多いのですが、原因の一つには遺伝的な要素があるとされています。例えば母や姉妹など、家族に卵巣がんになったことのある人がいれば、発症の確率が高くなる傾向にあります。また、これまでの排卵回数の多さががんの発症に関連しているとの指摘もあり、妊娠や出産の経験がない人や、高齢出産をした人、初潮が早かった人や閉経の遅い人など、生涯における排卵回数が多いほど発症するリスクが高いとも考えられています。
検査・診断
卵巣がんが疑われるときは、腟から指を入れて子宮や卵巣の状態を調べる内診や、肛門から指を入れて直腸やその周辺に異常がないかを調べる直腸診のほか、超音波検査(エコー検査)やCTやMRIによる画像検査、血液検査などを行います。
超音波検査
腟の中やおなかの上から超音波を当て、卵巣の状態や大きさを調べます。簡便に行える検査で患者さんの負担も少なく、卵巣がんが疑われる場合に第一に行われる検査です。
画像検査(CT検査、MRI検査)
超音波検査で卵巣に何らかの異常が認められる場合には、CTやMRIを用いた画像検査を行います。卵巣の状態を詳しく調べることのできる精密検査であり、がんの広がり具合や転移の有無なども確認できます。
血液検査
血液検査によって腫瘍マーカー(がんであるかどうかの目印となる物質)を調べます。腫瘍マーカーは体にがんがあると異常値を示し、それによってがんを発見することができ、診断の手がかりの一つとなります。
病理検査
手術で切除したがんの組織や、腹水や胸水などを顕微鏡で詳しく観察します。がん細胞が含まれていれば、卵巣がんであることの確定診断ができます。
治療
がんの進行度合いや患者さんの年齢、合併症があるかどうかといった状態に合わせて治療法を選択しますが、卵巣がんは抗がん剤が効きやすいがんとされています。多くの場合、外科手術と抗がん剤治療を組み合わせて行うのが基本です。また、将来の妊娠・出産を希望している場合は特に、治療法の選択については医師と十分に話し合うことが望ましいでしょう。
外科手術と抗がん剤治療
がんが発生した卵巣や卵管のほか、子宮や腹膜の一部をすべて切除する手術を行います。ごく早期の段階であれば手術だけで治療できることもありますが、術後の再発を防ぐために抗がん剤や分子標的治療薬(ぶんしひょうてきちりょうやく)を用いた化学療法を組み合わせた治療を行います。また、ほかの臓器に転移しているような場合も、化学療法でがんを小さくしてから摘出手術をすることもあります。
放射線治療
脳や骨などへのがんの転移の可能性を抑えるために、高エネルギーのX線などを当ててがん細胞を小さくする、または消失させる放射線治療を行うケースもあります。
更新:2022.05.16