子宮体がん・卵巣がんの手術をすると、生活にどんな影響がありますか?

滋賀県立総合病院

産婦人科

滋賀県守山市守山

子宮体がんの治療は?

子宮体(しきゅうたい)がんは子宮体部にできるがんで(図1)、その多くが子宮内膜から発生するため、子宮内膜がんとも呼ばれています。

図
図1 子宮体がんの部位

最も多い自覚症状は不正性器出血です。月経ではない期間や閉経後に出血がある場合は注意が必要です。子宮体がんと診断される人は40歳ごろから増加して、50歳から60歳代でピークを迎えます。

子宮体がんの治療は、手術による子宮と両側付属器(卵巣・卵管)の切除が基本です。また、がんの進行に応じて、腹部・骨盤内リンパ節郭清(せつかくせい)が行われます。

手術によりがんを取り除くと同時に、がんの広がりを正確に診断し、抗がん剤治療を追加する必要があるかどうかを判断します。

早期の子宮体がんでは、腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)やロボット支援下手術が可能な場合もあり、当院でも適応症例には積極的に行っています。出血が少ない、入院が短期間になるなどのメリットがありますが、がんの進行の程度や、年齢、ほかにかかっている病気などによっては、行えない場合があります。

卵巣がんの治療は?

卵巣がんは、卵巣に発生したがんです(図2)。はじめはほとんど自覚症状がなく、下腹部にしこりが触れる、お腹(なか)が張る、トイレが近い、食欲の低下などの症状があって受診することが多いです。ただ、初診時にはすでにがんが進行していることも少なくありません。しかし、卵巣がんに関しては科学的に根拠のある検診方法が確立されていないのが現状です。

図
図2 卵巣がんの部位

卵巣がんの原因の約10%は遺伝的なものによると考えられています。また、BRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子の変異があると、発症しやすくなることが分かっています。血縁の家族に乳がん・卵巣がんの方がいる場合は、遺伝子検査が可能なこともありますので、相談ください。

卵巣がんの治療は、手術によりがんが取りきれたかどうかが予後(よご)(*)に影響します。初回手術では原則、可能な限りがんを摘出します。標準治療として行われているのは開腹での子宮と両側付属器(卵巣・卵管)、大網(だいもう)の切除です。腹腔鏡下手術は標準治療ではありません。残存する腫瘍(しゅよう)の大きさが予後に関わるため、腫瘍が腹腔内に広く進展している場合には、術前の抗がん剤治療や、腸管部分切除、横隔膜(おうかくまく)切除、脾臓(ひぞう)切除などが必要になることがあります。また、卵巣がんは再発の危険が高いことがあるため、術後抗がん剤治療を行うことがほとんどです。

*予後:今後の病状についての医学的な見通し

手術、術後治療による副作用は?

子宮体がん、卵巣がんの場合、両側の卵巣を摘出することが標準となりますが、閉経前に両側の卵巣を切除する手術をした場合、女性ホルモンが減少し、更年期障害に似た症状が起こりやすくなります。

具体的には、ほてり、発汗、だるさ、イライラ、頭痛、肩こり、動悸(どうき)、不眠、骨粗(こつそ)しょう症(しょう)、高脂血症などの症状が出ることがあります。症状の強さや発症する期間は患者さんによって異なるため、年齢や症状に応じて、骨粗しょう症の予防や、これらの症状を軽くするための治療を行います。

子宮体がん、卵巣がんの手術ではリンパ節郭清を行うことがあります。これは、転移を起こしている可能性があると考えられる場合に、再発を防ぐため、がんだけでなく、がんの周りにあるリンパ節も切除することをいいます。

リンパ管にはリンパ液と呼ばれる液体が流れており、血液中の余分な水分やタンパク質を吸収する役目を担っています。骨盤内や足の付け根のリンパ節を取り除くと、両足から骨盤を通って心臓に向かうリンパ液の流れが滞り、下半身などがむくむことがあります。このむくみはリンパ浮腫(ふしゅ)と呼ばれ、治療後早期に発症することもありますが、数年後に発症することもあります。リンパ節郭清後に放射線治療を追加して行った場合は、よりむくみが出やすくなります。

むくみが出た場合には、加圧ストッキングを履いたり、リンパ浮腫マッサージを行ったりすることで、悪化を抑えます。

子宮体がん、卵巣がんでは、残存病変がある場合や、再発の危険が高い場合に、術後の抗がん剤治療が必要となります。抗がん剤治療の副作用は、一般的に、脱毛、口内炎、下痢、白血球や血小板の減少などです。まれに、肝臓や腎臓に障害が出ることもあります。

また卵巣がんには、分子標的薬(ぶんしひょうてきやく)という、がんの増殖にかかわっている分子を標的にしてその働きを阻害する薬を使用することがあります。

副作用の症状の現れ方には個人差があり、症状が強い場合には、治療の途中で薬剤を変更することもあります。治療の経過は患者さん一人ひとりによって異なるため、こうした副作用にも個別に対応することで、よりよい治療を心がけています。

卵巣がんは、毎年のように遺伝子検査とその結果に基づく分子標的薬の個別化治療が導入され、再発リスクを低減し生活の質を向上させる治療ができるようになっています。また、遺伝性卵巣がんの予防的手術が保険収載されました。手術を受けることで発症リスクを1/5に低減できます。

更新:2024.01.25