嚥下障害
概要
嚥下障害(えんげしょうがい)は、食べ物や飲み物をうまく飲み込めない状態のことをいいます。人は普段、食べたり飲んだりするときに口やのど、食道などが協力して食べ物を胃まで運びます。しかし、嚥下障害があると、この連携がうまくいかず、飲み込みに時間がかかったり、食べ物がのどや胸につかえたりします。高齢者に多いとされていますが、どの年代でも起こる可能性があります。
日本では高齢化が進むにつれて、嚥下障害による誤嚥(ごえん)(※1)から引き起こされる肺炎(はいえん)が大きな問題となっています。厚生労働省の人口動態統計(2020年)によると、肺炎は日本人の死亡原因の上位に含まれ、そのうち多くが誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)とも関連があります。そのため、嚥下障害の早期発見と対処は非常に重要です。
※1:飲食物が間違って気管に入り込むこと
嚥下障害の原因
嚥下障害は大きく分けて、口やのどに問題がある場合(口腔咽頭(こうくういんとう)の障害)と、食道に問題がある場合(食道の障害)があります。
- 1.口腔咽頭の障害
- 神経の病気:たとえばパーキンソン病(※2)や、筋ジストロフィー(※3)など、脳や神経をおかす病気によって飲み込む動作が妨げられることがあります。
- 脳のダメージ:脳卒中(のうそっちゅう)や脊髄(せきずい)のけがなどで、飲み込みに関わる神経がうまく働かなくなる場合があります。
- 咽頭食道憩室(いんとうしょくどうけいしつ):のどの一部に小さな袋のような空間ができ、そこに食べ物がたまることがあります。
- のどのがんや手術後の変化:咽頭がんや甲状腺(こうじょうせん)の手術などにより、のどの組織が変形してしまうことで嚥下障害が起こることがあります。
- 2.食道の障害
- アカラシア:食道の下部が正常にゆるまず、食べ物が通りにくくなる状態です。
- 拡散性けいれん:食道が強くけいれんを起こし、痛みやつかえ感が出ます。
- 食道の狭窄(きょうさく):長期間の胃酸の逆流(逆流性食道炎)や腫瘍(しゅよう)などにより食道が狭くなる場合があります。
- 食道がん:食道にがん細胞ができて食道内が狭まると、飲み込みが難しくなります。
- その他の原因:全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患(※4)や放射線治療で食道が傷つくことなどがあります。
※2:脳の神経細胞が変性して運動に支障が出る病気
※3:筋肉が徐々に弱る病気
※4:自分の体を守る免疫が自分の組織を攻撃してしまう病気
嚥下障害の症状
嚥下障害では、以下のような症状が起こりやすくなります。
- 飲み込むときに痛みや違和感がある
- 食べ物がのどや胸に引っかかっている感じがする
- よだれが増えてしまう、またはうまく飲み込めず口からこぼれてしまう
- かんだ後に声がかすれる、むせる
- 食べたものが口や鼻に逆流してしまう、あるいは吐き戻す
- 食事中や食後にせきが出やすい
- 飲み込みに時間がかかるため食事の量が減り、体重が減少する
- 食後に胸やけがよく起こる
特に食事中にむせることが多い場合や、体重減少が続く場合は、医療機関での受診を検討しましょう。
図:嚥下障害の症状嚥下障害の検査・診断
嚥下障害を調べる検査は、原因を特定するためにいくつかの方法があります。
- 1.バリウム検査(嚥下造影検査)
- バリウムという造影剤を含んだ液体や、やわらかい食べ物を飲み込み、その様子をレントゲンで撮影します。飲み込みの段階でどこに問題があるかを確認できます。
- 2.内視鏡検査
- のどや食道、胃を直接観察するために細いカメラを口や鼻から入れます。食道やのどにただれ、腫瘍がないかなどを詳しく調べられます。
- 3.嚥下内視鏡検査
- 細いカメラのチューブであるファイバースコープを鼻から入れ、飲み込みの状態をリアルタイムで観察します。食べ物や飲み物がどこでつまるかを見られます。
- 4.食道内圧検査(マノメトリー)
- 食道の筋肉が正しく動いているか、圧力を測って調べます。
症状や疑われる原因によって、上記の検査が組み合わせて行われます。
嚥下障害の治療
嚥下障害の治療は、原因や症状の程度によって異なります。主な治療の例は以下のとおりです。
- 1.飲み込みのリハビリテーション(嚥下訓練)
- 理学療法士や言語聴覚士などの専門家による指導のもと、のどや口まわりの筋肉を鍛えたり、正しい姿勢で食べたりする練習を行います。飲みやすいように、飲み物に少し粘度をもたせるためのとろみ剤を使うこともあります。
- 2.食事形態の工夫
- 水分や固形物を飲み込みやすくするために、ペースト状の食事に変えたりします。また、一口量を減らす、姿勢を正すなども効果的です。
- 3.内視鏡や器具を使った治療
- 食道拡張術:食道が狭くなっている場合、バルーン状の器具で食道を広げる処置を行い、つかえを軽減します。
- ステント挿入:狭い食道を広げるため、金属やプラスチック製の筒(ステント)を入れる方法もあります。
- 4.手術
- 食道がんや、アカラシアなどの構造的な問題がある場合、手術で食道の狭い部分を取り除いたり、筋肉を切開したりすることがあります。
- 5.薬物療法
- 逆流性食道炎が原因の場合は胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬など)が使われます。アレルギーや自己免疫疾患が関わる場合には、炎症を抑える薬が処方されることがあります。
- 6.経管栄養
- 重度で口から栄養を取ることが難しい場合、チューブを鼻やおなかから入れて栄養を補給する方法がとられる場合もあります。
嚥下障害の合併症
嚥下障害を放置すると、以下のような合併症が起きる可能性があります。
- 誤嚥性肺炎
- 食べ物や飲み物が気管に入り、肺炎を起こすことがあります。特に高齢者や体力が低下している人は重症化しやすいです。
- 栄養失調や脱水
- 十分に食事を取れなくなることで、体重が減少し、栄養不足や水分不足を引き起こすことがあります。
- 生活の質(QOL)の低下
- 食事が満足にできないことで、日常生活での楽しみが減ってしまい、気分が落ち込む場合もあります。
嚥下障害の予防
嚥下障害を完全に予防することは難しい場合もありますが、次のような点に気をつけるとリスクを減らすことができます。
- 1.ゆっくり、よくかんで食べる
- 早食いや大きなかたまりのまま飲み込むと、のどにつかえやすくなります。
- 2.姿勢を正して食べる
- 椅子にしっかり座り、背筋を伸ばして食べましょう。
- 3.のどや口まわりのストレッチや体操
- 日常的に首や肩をほぐし、のどの筋肉を意識して動かす習慣をつけるとよいでしょう。
- 4.持病の管理
- 逆流性食道炎など持病がある場合は、医師の指示に従って適切に治療を行いましょう。
更新:2026.02.04




