がんの臓器横断的治療
藤田医科大学病院
臨床腫瘍科
愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪
臓器横断的がん薬物療法とは
「がんの臓器横断的治療」とは、原発巣(げんぱつそう)やがん種にかかわらず、バイオロジーに基づいて薬剤選択を行う治療のことです。現在、国内では、MSI-高値の固形がんに対するペンブロリズマブ療法と、NTRK融合遺伝子陽性の固形がんに対するエヌトレクチニブ療法が行われています。
MSI-高値の固形がんに対するペンブロリズマブ療法
DNA複製の際に生じる異常を修復する機能の低下を「マイクロサテライト不安定性」といいます。そしてマイクロサテライト不安定性が高頻度(こうひんど)に認められる場合を「MSI-高値」といいます。MSI-高値の頻度はがん種により異なります(1)(図1)。MSI-高値の固形がん患者には、原発部位にかかわりなく「PD-1抗体」であるペンブロリズマブの治療が適応となります。治療効果は12種類の固形がん、86症例の結果が報告されており、奏効率が53%、完全奏効率が21%と良好な結果でした(1)。
MSI検査は腫瘍(しゅよう)組織で検査が行われます。検査費用は21,000円です。保険診療で検査が行われますので、70歳未満なら3割の6,300円、70歳以上なら1割の2,100円の負担となります。
NTRK融合遺伝子陽性の固形がんに対するエヌトレクチニブ療法
正常なNTRK(神経栄養受容体チロシンキナーゼ)遺伝子が他の遺伝子と融合し、NTRK融合遺伝子が形成されると、TRK融合蛋白(たんぱく)が生成され、がんシグナル伝達経路を持続的に活性化します。エヌトレクチニブはシグナル伝達を抑制し、がん細胞増殖抑制効果を示す新薬であり、NTRK融合遺伝子が認められるすべての固形がんに治療が適応となります。
NTRK融合遺伝子は幅広いがん種に認められますが、その頻度は数%以下と低いです。しかし乳児型線維肉腫(にくしゅ)、乳腺分泌がん、唾液腺分泌がん、先天性間葉芽腎腫(かんようがじんしゅ)などの一部のまれな腫瘍には高頻度に認められます。エヌトレクチニブによる治療効果は54症例の結果が報告されており、奏効率が57%と良好な結果でした(2)(図2)。主な副作用は便秘、味覚障害、下痢、めまい、倦怠感(けんたいかん)、末梢性浮腫(まっしょうせいふしゅ)、貧血、クレアチニン上昇などがありました。
NTRK融合遺伝子検査は腫瘍組織で検査が行われます。現状ではNTRK融合遺伝子検査単独の検査は行われていません。「がんゲノムパネル検査」の検査項目の中にNTRK融合遺伝子検査が含まれるため、「がんゲノムパネル検査」を行っていただく必要があります。「がんゲノムパネル検査」の検査費用は560,000円です。保険診療で検査が行われますので、70歳未満なら3割の168,000円、70歳以上なら1割の56,000円の負担となります。
【参考文献】
1)Le DT, Durham JN, Smiyh KN, et al. Mismach repair deficiency predict response to PD-1 blockade. Science 2017;357(6349):409-413
2)Robert C Doebele, Alexander Drilon, Luis Paz-Ares, et al. Entrectinib in patients with advanced or metastatic NTRK fusion-positive solid tumours:integrated analysis of three phase 1–2 trials. Lancet Oncol 2020;21:271–82
更新:2024.10.07