悪性黒色腫(メラノーマ)の新しい薬物療法-免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的薬
藤田医科大学病院
皮膚科
愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪
メラノーマの臨床像と診断
悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)(メラノーマ)は、皮膚の色と関係するメラニン色素を産生するメラノサイトという細胞ががん化した腫瘍(しゅよう)です。発生部位は、足底が最も多く(約30%)、このほか体幹、頭頚部(とうけいぶ)、爪、粘膜など、全身のあらゆる部位に発生することがあります。
メラノーマは、リンパ節転移や血行性転移を起こしやすいがんなので、早期診断・治療が最も重要です。皮膚がんは体の表面にできるので、注意すれば自分もしくは家族により早期に発見することが可能ですが、早期の場合には普通の“ほくろ”と見分けが付きづらいことがあります。メラノーマの診断のためには、見た目や痛み・痒(かゆ)みなどの症状、経過などを含めた総合的な診察が重要です。
メラノーマの早期症状としては、ABCDEの5つの特徴があるといわれています(図1)。当てはまる場合や判断に迷う場合には自己判断せず、まず皮膚科専門医を受診することが早期診断につながります。見ただけで診断がつかない場合には、病変部を10~30倍に拡大し明るく照らして観察できるダーモスコピーという特殊なルーペを用います。ダーモスコピーでも診断が難しい場合には、腫瘍を切除して病理検査を行います。
メラノーマに対する薬物療法
メラノーマの治療選択は、がんの進行度や体の状態などから検討されます。がんの進行度は「病期(ステージ)」として分類され、リンパ節や他の臓器への転移があるかどうかによってステージが決まります。メラノーマでは、0期からIV期と5つに分類されます。早期のメラノーマでは外科手術が治療の主体となりますが、進行している場合には、外科治療のほかに、薬物療法、放射線治療など、いろいろな方法を組み合わせた治療が行われます。
薬物療法は、がん細胞の縮小や消滅、再発の危険が高い場合の再発抑制を目的に行います。薬物療法には、細胞障害性の抗がん剤(化学療法)、インターフェロン製剤に加えて、近年登場した免疫チェックポイント阻害薬、低分子性分子阻害薬があります。
免疫チェックポイント阻害薬
がん細胞は、Tリンパ球という免疫細胞の表面にあるブレーキをかける(免疫チェックポイント受容体)ことで攻撃から逃れています。免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキを解除することで、がん細胞を攻撃できるようにTリンパ球を活性化させる薬です(図2)。メラノーマにはニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブが用いられています。効果(がんの縮小)はおよそ10~40%で、一度効果があると効果は長期間続くことがあります。
また、手術後の再発リスクの高い場合の再発抑制のためにも使用されます。免疫チェックポイント阻害薬は、Tリンパ球のブレーキを解除するため、がん細胞だけでなく、正常な細胞や臓器も攻撃を受けることがあります(免疫関連副作用)。肺炎や肝障害、下痢・大腸炎、皮膚障害、内分泌障害、神経・筋障害など、全身のどこにでも生じ得るため注意をして治療を進めていく必要があります。
低分子性分子阻害薬
低分子性分子阻害薬とは、正常の細胞を傷つけないように、がん細胞の増殖にかかわる分子を攻撃する薬です。メラノーマではさまざまな遺伝子異常が知られていますが、BRAFと呼ばれる遺伝子の変異が、がん細胞の増殖にかかわっていることが明らかになっています。BRAF遺伝子変異は日本人のメラノーマでは30%程度に検出されます。
そこで、BRAF遺伝子変異があると検査で確認された場合には、変異BRAFとその下流のMEKの働きを阻害する低分子性分子阻害薬を組み合わせた治療をすることができます。ダブラフェニブ(BRAF阻害薬)・トラメチニブ(MEK阻害薬)、エンコラフェニブ(BRAF阻害薬)・ビニメチニブ(MEK阻害薬)の2種類が使用可能です(図3)
低分子性分子阻害薬は、がん細胞に標的をしぼった治療となるため、免疫療法と比べて全身的な副作用は少なく、治療効果(がんの縮小)は半数以上に認められますが、使い続けると薬が効きにくくなること(薬剤耐性)があります。また、使用薬剤の種類によって発熱、皮膚障害、肝機能障害、視力障害などの副作用が生じることがあります。
更新:2024.10.07