スマホ世代は要注意! 知らぬ間に進行する「イヤホン難聴」を予防せよ

メディカルブレイン編集部

スマートフォンの普及に伴って動画や音楽をより気軽に楽しめるようになり、今や私たちの生活に欠かせないものとなったイヤホン・ヘッドホン(以下、イヤホン)。しかし近年、イヤホンの使用が引き金となって起こる「イヤホン難聴(ヘッドホン難聴)」が増加傾向にあります。世界保健機関(WHO)も警鐘を鳴らしているイヤホン難聴とは、一体どのような病気なのでしょうか?

スマホ世代をむしばむイヤホン難聴

イヤホン難聴とは?

イヤホンで大音量の音楽などを長時間聴き続けることにより起こる難聴のことです。

大きな音にさらされることで起こる難聴には、大きく分けると「騒音性難聴」や「音響性難聴(音響外傷)」の2つがあります。騒音性難聴は主に工場の機械音や工事音などの騒音によって、音響性難聴は爆発音またはコンサートやライブ会場などの大音響によって起こります。

「イヤホン難聴」は後者の音響性難聴の一種であり、イヤホンの使用が原因となることからこう呼ばれています。

近年、携帯型音楽プレーヤーやスマートフォンの普及に伴い、イヤホンを使って場所を選ばずに音楽や動画、ゲームなどを楽しむ人が増えました。その一方で、WHOは11億人もの世界の若者(12~35歳)が、イヤホン難聴のリスクにさらされていると2019年に発表しています。スマホ世代にとっては、特に注意が必要です。(参照:New WHO-ITU standard aims to prevent hearing loss among 1.1 billion young people(WHO-ITUの新基準は11億人の若者の難聴防止を目指す)

イヤホン難聴の症状や特徴は?

イヤホン難聴の主な症状は、以下の通りです。

  • 長時間にわたり耳鳴りが続く
  • 話し声が聞き取りづらく、耳の中が詰まった感覚(耳閉感)がある
  • 高音が聞こえづらい

イヤホン難聴の大きな特徴は、少しずつ両耳の聞こえが悪くなり、進行がゆっくりである点。そのため初期症状を自覚しにくく、気が付いたら症状が悪化していた、なんてことも。

重症化するほど聴力の回復が困難あるいは不可能になるため、耳の聞こえに違和感を覚えたら放置せず、早めに医療機関で受診・検査することが肝要です。

なぜイヤホン難聴になるの?

耳は大きく、外耳・中耳・内耳の3つの部分に分かれますが、イヤホン難聴の原因となるのは、内耳の「蝸牛(かぎゅう)」という器官にある「有毛細胞」の損傷です。

耳から入った音は、この有毛細胞によって振動から電気信号に変換され、脳に伝わることで初めて「聞こえる」と認識します。

耳の構造のイラスト
耳の構造(参考:https://www.saiseikai.or.jp/medical/column/headphones-hearing-loss/

しかし、自動車の騒音や救急車のサイレンを間近で聞く程度とされる85dB(デシベル)以上の音を耳にする場合、音量と時間に比例して、この有毛細胞は傷ついてしまいます。

WHOでは、80dBで1週間当たり40時間以上、98dBで1週間当たり75分以上聞き続けると難聴のリスクが高まるとしています。また、100dBを超える大音量になると、突発性難聴になることも。

特にイヤホンは耳の中に直接音が入るため、周囲に音漏れするほどの音量で聞いたり、長時間使用したりすることで有毛細胞の損傷を進めてしまうのです。損傷が進んだ有毛細胞はやがて壊れてしまいますが、一度壊れた有毛細胞は再生できません。

音圧レベル
(dBSPL)
一日当たりの
許容基準
音の種類
130 1秒未満 航空機の離陸の音
125 3秒
120 9秒 救急車や消防車のサイレン
110 28秒 コンサート会場
105 4分 工事用の重機
100 15分 ドライヤー
地下鉄車内の騒音
95 47分 オートバイ
90 2時間30分 芝刈り機
85 8時間 街頭騒音
75 リスクなし 掃除機
70 洗濯機、乾燥機
65 エアコン
60 ヘッドホンでの適度の音量設定

(参照:WHOが定める一般的な音の大きさの許容基準および目安となる音の種類)

イヤホン難聴の予防と治療について

イヤホン難聴にならないために!

前述の通り、一度壊れてしまった有毛細胞は元に戻りません。しかし壊れる前であれば、耳を安静にすることで回復させることができるため、予防がとても大切になります。
WHOでは、イヤホンを使用する際に以下のような予防法を推奨しています。

  • 音量の大きさに気を付ける(装着時、声を張り上げずに他人と会話できるレベルが目安)
  • 長時間連続して聞かず、休憩を挟む(目安は1時間に10分間)
  • 使用を1日1時間未満にする
  • 周囲の騒音を低減する「ノイズキャンセリング機能」付きのイヤホンを選ぶ

ポイントとしては、「音量」だけでなく「聴く時間」にも注意すること。たとえ適切な音量でも、長時間にわたるイヤホンの使用は難聴のリスクを高めます。
耳の構造のイラスト

イヤホン難聴になってしまったら?

イヤホン難聴が重症化してしまった場合、補聴器などを使用して聴力を補うといった対処法はあるものの、効果的な治療法は現時点では残念ながら確立されていません。

初期段階で気づくことができた場合は耳栓の使用などにより、有毛細胞を回復させるべく定期的に耳を休ませる、などといった方法が主になります。

大音量が原因で起こる突発性の難聴に対しては、内服や点滴のステロイド剤による薬物療法が中心です。血管拡張薬(プロスタグランジンE1製剤)やビタミンB12製剤、代謝促進薬(ATP製剤)などを使う場合もあります。

しかし、基本的に聴力の回復は難しく、上記の治療でも十分に改善するという保証はありません。

耳の聞こえに異常を感じたら、自己判断せずに早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。また、常時イヤホンを使用する習慣のある人は、定期的な検査を受けるのもおすすめです。

意外と盲点になりがちな、耳の健康。好きな音楽や動画コンテンツを長く楽しむためにも、日頃からイヤホンの使用時間などに配慮する習慣を身につけておきましょう。

更新:2024.09.26