ここまで進化した糖尿病の診断と治療法 糖尿病
徳島大学病院
内分泌・代謝内科
徳島県徳島市蔵本町

はじめに
糖尿病患者さんは、超高齢社会や肥満者の増加などを反映して爆発的に増えています。徳島県は、1993(平成5)年から糖尿病死亡率ワーストであり(2007年を除く)、県を挙げて取り組むべき課題の一つです。ここでは、糖尿病全般と最新の治療について紹介します。
糖尿病とは?
糖尿病は、血糖を低下させる唯一のホルモンであるインスリンの作用不足のため、慢性の高血糖状態になったことをいいます。血糖値が著しく高い場合は、口渇、多飲、多尿、体重減少、疲れやすさなどがみられるようになり、病院を受診しますが、一般的にはほとんど症状がないため、長期間放置されることがあります。長期間の高血糖は、特に細い血管の異常が進み、網膜や腎臓、神経(三大合併症:イラスト)を代表とする臓器の障害が現れます。視力障害、時に失明、腎不全、手先、足先の感覚異常、足の切断に至るケースもあります。動脈硬化も進むため、心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳卒中など生命を脅かす病気にかかる率も高くなります。健康診断などで早期発見し早期治療につなげること、一度診断されたら、病院への通院を継続することが重要です。

診断――1型糖尿病と2型糖尿病
血液検査で血糖値、過去1~2か月の平均血糖であるHbA1c(ヘモグロビンエイ・ワン・シイ)を測定します。境界型や軽症の患者さんは75gのブドウ糖を飲み、空腹時から食後の血糖値、インスリンの分泌状態(インスリンが出にくいのか、効きにくいのか)を評価します。診断と同時に血圧測定、神経機能を含めた身体診察、心電図やX線写真、眼科受診、血液、尿検査で肝・腎機能、コレステロール値などのチェックを行います。家族に糖尿病患者さんがいて、肥満、過食、運動不足という、典型的な生活習慣病の糖尿病患者さん(2型糖尿病という)が多いのですが、中には1型糖尿病(インスリンを分泌する膵臓(すいぞう)が破壊され、インスリンが出なくなる)や、がんやホルモン異常に伴う糖尿病もあるため、糖尿病の成因調査も重要です。
治療目標の設定が重要
糖尿病患者さんの治療目標は、血糖値だけでなく、体重、血圧、コレステロール、中性脂肪値の良好な管理を行い、健常者と同様の日常生活の質、寿命をまっとうすることです。また、血糖値は、年齢や合併症、動脈硬化の進行などさまざまな点を考慮して患者さん一人ひとりに合った、適切な目標設定を心掛けています。血糖管理は、食事療法、運動療法、薬物療法(飲み薬や注射薬)に分けられます。医師、看護師、薬剤師、栄養士など多職種で適切な血糖管理を共に実践していきます。
薬物療法は薬効別に分類すると7種類の飲み薬、注射薬はインスリン製剤(超速効型、速効型、中間型、持効型)、GLP-1受容体作動薬が使用可能で、ここ数年、使用できる薬剤が劇的に増えています。それらの薬剤を適切に患者さんに応じて使い分けていくのが、私たち糖尿病専門医の腕の見せ所です。
診断、治療の進歩
1.持続血糖モニター(CGM)
特に、インスリン治療を行っている患者さんにとって有効です。CGM機器は、皮下に留置したセンサーを用いて10秒ごとに血糖値を測定することができます(写真、図)。夜間の血糖変動や自覚のない低血糖の情報も教えてくれますので、インスリン量の調整に不可欠なツールです。また、主に1型糖尿病患者さんに朗報ですが、CGMとインスリンポンプの併用機器の使用を開始しました。


2.インクレチン関連薬
インクレチンは小腸や大腸で作られます。食事を取ると分泌され、膵臓からのインスリン分泌を促し、血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンを抑える働きがあります。2009年に登場したDPP4阻害剤は、インクレチンを分解する酵素であるDPP4の働きを抑えます。この飲み薬は低血糖や体重増加を起こしにくい特徴があり、発売されて数年ですが広く使われています。GLP-1受容体作動薬はインクレチンの注射製剤で、食欲や胃の運動を抑える効果があるため、体重低下や食後血糖値を下げる効果など有効な薬剤です。
3.SGLT2阻害薬
腎臓に作用して、尿から糖を排泄(はいせつ)する新しい機序(働き)の薬剤で2014年春から使用できるようになりました。ご飯一杯分の炭水化物が尿から排泄されるため、血糖管理はもちろん、体重減少にも役立っています。一方で、高齢の患者さんは脱水状態や低血糖に気をつける必要があります。
最後に
この10年で診断のツールや多種多様の薬剤が発売され、よりきめ細かい血糖管理、病態に合わせた治療ができるようになってきました。当院では、糖尿病患者さんに真摯(しんし)に寄り添い、患者さん中心の医療を実践しながら日々、精進しています。ぜひ、一度当院での血糖管理を体感してみてください。
更新:2022.03.04