低侵襲治療で体への負担を軽減 大動脈瘤

徳島大学病院

心臓血管外科

徳島県徳島市蔵本町

大動脈瘤治療では、低侵襲(体に負担の少ない)と確実な治療を基本に最先端の治療を取り入れ、中国四国地方では有数の症例数を誇っています。大動脈瘤治療は2006(平成18)年7月に、ステントグラフトという新しい医療機材が国から承認されたことで大きく様変わりしました。ステントグラフト治療は、低侵襲治療という特性から今まで手術ができなかったハイリスクな患者さんの治療が安全にできるようになりました。また、術後の生活の質を落とさず早期の社会復帰を可能にしました。

さらに、従来の外科的治療とステントグラフト治療を組み合わせる(ハイブリッド治療)ことで、体への負担を軽減することが可能になりました。しかし、確実な治療を行うことが重要で、場合によっては従来の外科的治療が第一選択となることもあります。

大動脈瘤(真性瘤)とは?

心臓から全身に血液を送る太い血管が風船のように膨らむ病気で、突然破裂して死に至る可能性があります。この病気は食事の欧米化などに伴い、増加の一途にあり、命を失わないためには破裂する前に治療をすることが求められます。

病気の特徴

一般的に自覚症状がなく、病院で偶然発見されることが多数を占めています。腹部大動脈瘤の場合、やせている患者さんは、お腹に脈打つ腫瘤(しゅりゅう)を自覚できることがあります。

大動脈瘤の治療

動脈瘤が大きくないうちは降圧療法が基本となります。一定の大きさに達すると手術が必要となります。手術には次のような方法があります。

外科的治療(図1)

開胸、開腹を行い動脈瘤の部分を人工血管に置換する方法です。動脈瘤の形態に関係なく適応できる利点があります。侵襲が大きく、手術のリスクが高い、また創(きず)の痛みや社会復帰の遅れなどが問題です。

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図1 人工血管置換術

ステントグラフト治療(図2)

通常、鼠径部(そけいぶ)の小切開で行うため、侵襲が少なく、痛みも軽く、早い社会復帰が可能です。動脈瘤の形態によって適応できない場合があります。しかし、高齢などハイリスクな患者さんには特殊な手技を行えば、多くの症例に適応できます。

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図2 ステントグラフト治療

適応外症例に対するステントグラフト治療

  • 頸部(けいぶ)の血管に近い胸部動脈瘤の場合(写真1-a)
  • 腎動脈に近い腹部大動脈瘤の場合(写真1-b)
  • 胸腹部にまたがる動脈瘤の場合(写真1-c)
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写真1 ステントグラフト治療
a.弓部大動脈瘤に対する頸部分枝バイパスを併用したステントグラフト治療(debranch法)
b.腎動脈直下腹部大動脈瘤に対する腎動脈ステントを併用したステントグラフト治療(Snorkel法)
c.胸腹部大動脈瘤に対する開窓型ステントグラフトを用いた治療(開窓法)

ハイブリッド治療(図3)

開胸、開腹を伴う従来の人工血管置換術にステントグラフト治療を組み合わせることによって、体への侵襲を軽減できます。

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図3 ハイブリッド手術

大動脈解離(だいどうみゃくかいり)の治療

大動脈解離とは、血管の壁が2層に剥(は)がれる状態でA型とB型があります。A型は心臓に近い上行大動脈に解離がある状態で、通常は開胸による人工血管置換術の適応となります。B型は、下行大動脈が2層に剥がれる状態で、通常は降圧安静治療が基本ですが、場合によっては広範囲な胸腹部解離性大動脈瘤へと発展します。

そのような患者さんに早期にステントグラフト治療を行うという考えが注目されています。ステントグラフトで裂け目を塞(ふさ)ぐことで解離腔(かいりくう)の縮小が期待できます(写真2)。

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写真2 大動脈解離の治療

更新:2022.03.04