オーダーメイド治療と胸を切り開かない縦隔鏡下経食道切除術 食道がん

徳島大学病院

食道・乳腺甲状腺外科

徳島県徳島市蔵本町

増えている食道がん

食道は咽頭(いんとう)から胃までの細長い管で、飲み物や食べ物は食道を通って消化されていきます。食道に発生するがんが食道がんです。食道がんは高齢男性に多い病気で、年間1万人以上がかかっています。食道は胸の中で気管や心臓のほか、大事な血管や神経など重要臓器に囲まれており、がんが進行すると治療が難しく、現在、日本では男性のがん死亡原因の6番目です。

食道がんは①50歳以上の男性②タバコやお酒をよく飲む人に多い(しかし、お酒に強い人より弱い人の方がかかりやすい)③喉頭(こうとう)・咽頭がん、胃がんにかかったことがある人④逆流性食道炎――などが危険因子です。最近、欧米では胃液や胆汁の逆流から食道の粘膜に異常が起こる「バレット食道」から発生するがんが増えています。

症状は、多くの場合が無症状ですが、食道が染みるような感じや胸がチクチクする感じを自覚することがあります。その後は食事がつかえる、体重が減る、背中の痛み、咳(せき)が出る、声がかすれるなどの症状を認めるようになります。

食道がんの治療(図1)

食道の周りにはリンパ網が発達しており、食道にがんが発生すると早期にリンパ節転移が起きます。胃がんや大腸がんでは転移を起こさないような表在性のがんでも高頻度にリンパ節に転移します。そのため食道がんの手術は右胸を切り開いて、左肺だけの人工呼吸にして右肺の空気を抜いて手術スペースを作り、リンパ節と食道を切り取ります。お腹と頸(くび)のリンパ節も切り取って、胃を頸までつり上げて食道の代わりとする手術が行われてきました。この手術は合併症が多く、手術後、何日も人工呼吸をしなければいけないケースも少なくありませんでした。

最近は、内視鏡手術が進歩し内視鏡で胸の中をのぞきながら行う胸腔鏡下手術(きょうくうきょうかしゅじゅつ)が増えてきました。しかし、手術時間は長くなり合併症もあまり減ってはいません。

リンパ節転移のない、食道の粘膜表面の早期がんであればカメラで観察しながら、がんを切り取る内視鏡下粘膜切除術で治すことができます。しかし、小さなリンパ節の転移はCTやMRI、PETCTでも正しく診断することはできません。

食道がんには放射線治療や抗がん剤も効果がありますが、放射線単独では効果が弱いため抗がん剤を併用します。抗がん剤も2~3種類の薬を組み合わせた方がより効果があります。しかし、進行したがんはいったん治ったように見えても再発することが多く、また放射線治療後の手術は合併症が多く、放射線による合併症も何年も経ってから現れることがあります。重粒子線や陽子線も登場して効果が期待されていますが、まだ保険適用でないことや治療実績が少ないことが問題です。

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図1 食道がんの治療選択
食道がんの治療選択は多様になっています。リンパ節転移のない早期がんには内視鏡治療が可能。がんの浸潤する深さ(T)が深い進行がんには、術前化学療法が標準治療。隣接臓器に浸潤するがん(T4)や転移のある病期IVでは放射線、抗がん剤、姑息的治療を行います

当院の低侵襲食道がん治療

低侵襲治療とは、体に負担の少ない治療のことです。当院では食道がんの治療に関してできるだけ体にも心にも負担をかけない治療をめざして工夫をし、新しい技術を開発してきました。

CTリンパ管造影検査

リンパ節転移診断の難しい食道がんに対して、内視鏡下に注入した造影剤でリンパの流れとリンパ節の関係を調べることで、正しい転移診断を行うことができます。当院だけの最新診断技術です。

縦隔鏡下食道切除術(じゅうかくきょうかしょくどうせつじょじゅつ)

頸(くび)から挿入した縦隔鏡で胸の中を観察しながら周囲のリンパ節とともに食道をくり抜く方法です(図2)。この方法は肺を虚脱することなく手術ができるので、肺の手術を過去に行った人や重症な併存疾患のある高齢者にも体への負担をかけずに手術ができます。しかし、もともとスペースのない縦隔を押し開きながら行うには確かな技術が必要で、当院の専売特許です。手術で使用する縦隔鏡も地元、徳島で作って全国に販売しています(写真)。

イラスト
図2 手術術式
頸から挿入した縦隔鏡で縦隔内の術野がビデオモニターに映し出され、この映像を見ながら安全に手術を進めます
写真
写真 縦隔鏡
先端が扁平で透明なダイセクター(クリアダイセクター/株式会社 大一器械、徳島市)を5mm径の斜視型光学視管と一体化させ縦隔鏡として使用

術前化学療法

早期には症状がなく、早期発見が難しいのが食道がんです。進行した食道がんは周囲の重要臓器に及んでいて、手術で治すことが難しくなりますが、抗がん剤を組み合わせてがんを小さくして、体に負担の少ない手術を行うことができます。これを私たちはタイムマシーン治療と呼んでいます。

オーダーメイド治療

当院では進行度やがんの性格(がんを直接、内視鏡下に一部切り取って化学的に分析することで判定します)、生活環境なども考慮して、十分に相談した上で患者さん個々に合った治療を選択しています(図3)。

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図3 食道がんのオーダーメイド手術
当院では進行度やがんの性格(がんを直接、内視鏡下に生検して化学的に分析して調べる)、生活環境などを考慮して、十分に相談した上で個々の患者さんにあった治療を選択しています

更新:2022.03.04