当院で開発した腹腔鏡下手術 小児鼠経ヘルニア(脱腸)

徳島大学病院

小児外科・小児内視鏡外科

徳島県徳島市蔵本町

ヘルニアという言葉をよく耳にするかと思いますが、ヘルニアとは何かが飛び出して通常の状態でないことを表します。今回は、本来ならお腹の中にあるはずの腸が飛び出す小児の鼠径ヘルニア(脱腸)に対する腹腔鏡下手術を紹介します(写真)。

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写真 小児鼠径ヘルニアの腹腔鏡下手術

小児の鼠径ヘルニアとは?

小児の鼠径ヘルニアは、脚の付け根より上の部分(鼠径部)から腸が飛び出し、見た目が膨れる症状が特徴です。先天的な要因で、男の子の場合、胎児期にお腹の中にあった睾丸(こうがん)が陰嚢(いんのう)に下りる際に、腹膜も一緒に引っ張られて袋ができます。

通常、この袋は自然に消失するのですが、鼠径ヘルニアになる子どもの場合は、袋が消失せずそこに腸が入り込み膨らんでしまいます(図1)。女の子の場合、卵巣が脱出することもあります。

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図1 小児鼠径ヘルニアの成因

手で押さえたり、寝転んだりすると引っ込んでしまうので放置しがちですが、自然に治ることは少なく、そのまま放っておくと、「嵌頓(かんとん)」といって、今まで押せば引っ込んでいたものが、引っ込まなくなり腸の血流が悪くなり、壊死(えし)に陥る危険な場合もあります。よって、小児の鼠径ヘルニアは、診断がつけば比較的早期に手術が必要となります。

一般的には、小児鼠径ヘルニアは、男児に多く、右側に多いですが、両方にヘルニアがある頻度は20〜30%といわれています。

また、鼠径ヘルニアとよく似た病気で、鼠径部や陰嚢に水が溜(た)まった袋を形成し腫(は)れる精索水瘤(せいさくすいりゅう)や陰嚢水瘤(いんのうすいりゅう)については、2歳頃までは自然に治ることがあるため、経過をみますが、治らなければ2歳以降に鼠径ヘルニアと同じ手術が必要となります。

体にやさしい腹腔鏡下手術

小児の鼠径ヘルニアの手術は、高齢者の鼠径ヘルニアと違い、先天的にヘルニアの袋が遺残したことが原因です。手術は、ヘルニアの袋の高位結紮(こういけっさつ)(ヘルニアの袋の根元を糸でしばる)のみで良いとされていて、現在、手術法として2つの手技があります。

一つは、従来から行われている鼠径部切開手術で、鼠径部の皮膚を2cm程度切開し、袋に入った腸を元の位置に戻した後、袋の根元を糸でしばって塞ぎ、腸が外に出てこないようにします。もう一つは、最近増加している腹腔鏡下手術で、へそに5mm程度の穴を開けて、炭酸ガスによる気腹(お腹を膨らます)後に、腹腔鏡と呼ばれるカメラ(径4mm)とへその左方から手術操作をする鉗子(かんし)(径2mm)をお腹に入れます。そして腹腔鏡観察下に、特殊な糸付き穿刺針(せんしばり)(径1.5mm)を使ってヘルニアの袋の全周に糸を通し、高位結紮を行う手術です(図2)。

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図2 小児鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡下手術の模式図

腹腔鏡下手術の利点は、傷あとが小さく術後の痛みも少ないだけでなく、反対側の鼠径ヘルニアの有無を確認でき、有れば両側とも1回の手術で閉鎖ができることなどが挙げられます。問題点としては、比較的新しい手術手技で全国の小児外科専門施設で普及していますが、まだ、長期の術後成績が十分出ていないことなどがあります。そのほか、手術時間、入院日数、再発率、合併症の頻度などは、従来法と比べてほぼ同じと考えられています。

体にやさしい腹腔鏡下手術は、1995(平成7)年に当院で考案された手術法で、今では全国に広がり、多くの患者さんが体に負担の少ない治療を受けることができるようになりました。当院は徳島県で唯一の日本小児外科学会認定施設であり、今までに1500例以上の小児鼠径ヘルニアの腹腔鏡下手術を行い、年間約100人の鼠径ヘルニアの患者さんを受け入れています。

また、子どもの手術全般にわたり、内視鏡下手術(体に負担の少ない手術)を積極的に導入しています。新生児から15歳までの子どもの特性を十分熟知した小児外科専門医、指導医、日本内視鏡外科学会技術認定医(小児外科)が常勤していますので、安心して受診してください。なお、ご不明な点がありましたら、いつでも当科にお問い合わせください。

更新:2022.03.04