免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の新治療 皮膚がん、悪性黒色腫
徳島大学病院
皮膚科
徳島県徳島市蔵本町

皮膚がんには、いろんなものがあります。皮膚がんの中で最も悪性度が高く、注意すべきものが悪性黒色腫です。名前の通りほとんどの腫瘍(しゅよう)は黒く、進行するとリンパ節や内臓に転移しやすい傾向があります。悪性黒色腫は、一般に「ホクロ」のがんといわれますが、良性のホクロが悪性黒色腫へ変化することはまれで、皮膚の色であるメラニンを作る色素産生細胞に遺伝子の異常が蓄積し、悪性黒色腫になると考えられています。
悪性黒色腫の早期診断と治療
日本人に多い悪性黒色腫は、手や足の指、足の裏など末端部に発生することが多いです(写真1)。自覚症状はないことが多く、放置されたままになる心配があります。直径が6mmよりも大きい、形が非対称性、境界が不明瞭、色むらがある、盛り上がっている、などが悪性黒色腫の特徴です。

黒色の病変に対して近年、ダーモスコピーという機器を用いた診察が主流になっています(写真2)。ダーモスコピーは、10倍ほどに病変を拡大し、さらに偏光フィルターを通すことによって、病変の場所、色の変化、血管拡張の有無など病変を詳しく観察することができます。悪性黒色腫、鑑別しなければならない良性のホクロ(正式には色素性母斑(しきそせいぼはん))、ほかの腫瘍の特徴も一般的に知られるようになり、以前に比べ、悪性黒色腫かどうかをより高い確率で診断できるようになりました。

ダーモスコピーによって、悪性黒色腫の可能性が高い、あるいは悪性黒色腫の可能性を否定できない場合には、病理組織検査を行います。病変の辺縁(へんえん)から少し離して、病変すべて切除する切除生検を行うのが原則ですが、病変が大きくすべてを切除するのが難しい場合は、一部分だけを切除する部分生検をすることもあります。病理組織検査で悪性黒色腫と診断し、どのくらい広く病変を切除するか、リンパ節生検・郭清(かくせい)をするか、などの治療方針を決めます。当院では、形成外科と連携して悪性黒色腫の治療を行っています。
悪性黒色腫は、最も悪性度が高い皮膚がんですが、早期に診断し適切に治療をすれば完治可能なので、ほかのがんと同じように早期発見・早期治療が重要です。
進行した悪性黒色腫に対する新しい治療
悪性黒色腫を適切に切除したとしても、しばらくして内臓に転移が見つかることがあります。転移の場所は、肺、肝、脳、骨などさまざまです。内臓の切除ができない転移に対して、最近まではダカルバジンという抗がん剤(1986〈昭和61〉年に発売開始)を中心とした多剤化学療法しかなく、効果は限られていました。しかし今日、進行した悪性黒色腫に対して新しい治療ができるようになりました。それは、大きく分けて免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬(ぶんしひょうてきやく)の2つがあります。
患者さん自身の免疫能力によって、悪性黒色腫の病変が自然に消失することがあり、以前からその能力を上げる免疫療法が盛んに行われてきましたが、効果は限られていました。近年、PD-1とCTLA-4が免疫能力を抑える重要な分子であることが分かってきました。それぞれの働きを抑える抗体を投与することで、患者さん自身の免疫能力を上げることができ、内臓の転移を縮小・消失させる効果がみられています。オプジーボ®という抗PD-1抗体は、2014(平成26)年9月から使用可能となり、現在数人の患者さんに投与し経過観察しています(写真3)。抗CTLA-4抗体も2015年内に厚生労働省に認可される予定です。

また、日本の悪性黒色腫の約30%にはBRAFといわれるがん遺伝子に活性化するような異常がみられます。BRAF遺伝子に異常のある悪性黒色腫に対して、ゼルボラフ®というBRAF阻害薬が2014年12月に厚生労働省に認可されました。さらに、BRAFのシグナルの下のMEKという分子も共に阻害する併用療法も2015年内に厚生労働省に認可される予定です。BRAF遺伝子に異常があれば分子標的薬も使用可能です。
このように進行した悪性黒色腫に対して、ダカルバジンしかなかった時代から、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を使用できる時代になりました。進行した悪性黒色腫でも患者さんに十分期待を持っていただけます。私たちも誠心誠意、治療に取り組んでいきたいと考えています。
更新:2022.03.04