うつ病の適正診断と高度治療 うつ病
徳島大学病院
精神科神経科・心身症科
徳島県徳島市蔵本町

気分が落ち込む、興味がわかない
近年「気分が落ち込む、興味がわかない」といった症状を伴う、うつ病の受診者が増加傾向にあります。一方で「新型(現代型)うつ病」など多様化したうつ病が、医学的知見の明確な裏付けもなく広まり、混乱を生じています。さらに「抗うつ薬を含む向精神薬の有効性や安全性に関する疑義」が、再三報じられ、向精神薬が処方されている患者さんの適正な診断と評価が求められています。
このような状況の下、当科では、うつ状態にある患者さんに対するうつ病の適正診断と高度治療に取り組んでいます。
きめ細かな問診、血液検査、画像検査、心理検査などで診断
初めに、不安症やうつ病など精神疾患の既往や発達歴を含む生活歴、家族歴、病前の性格傾向など、診断に役立つ情報をきめ細かく問診します。血液検査は主に一般的身体状態の把握と身体合併症の鑑別のために行います。
例えばホルモンバランスの異常など、うつ状態の原因となる身体疾患が見つかれば、まず身体疾患の治療を行います。症状によっては、心電図や脳波検査をする場合もあります。頭部のCTやMRI、脳血流シンチグラフィは脳卒中や認知症の鑑別のために行います。心理検査はうつ病の重症度を評価スケールで数値化したり、認知機能や性格検査を使って患者さんの抱えるストレスの原因把握などに役立ちます。自殺願望や自殺企図、自傷行為や過量服薬があれば専門医の判断の下に適切な対応が求められます。
うつ病の診断は双極性障害(うつ状態だけでなく、躁状態のある病気)の可能性に配慮する必要があります。気分が高揚する、多弁になるなどの躁状態の既往が問診で明らかになれば、うつ病と診断して抗うつ薬で治療するのではなく、双極性障害と診断して気分安定薬で治療をする必要があります。

重症例では「大変な罪を犯してしまった」という罪業妄想、「もう治らない病気になってしまった」という心気妄想、「お金がなくなってしまった」という貧困妄想が現れることがあり、抗うつ薬と抗精神病薬を組み合わせて治療を行います。このように同じうつ状態でも、専門医による適正診断と症状に応じた適切な治療が求められます。
精神療法と薬物療法(身体療法)
治療には精神療法と薬物療法(身体療法)があります。うつ病になると「自分が弱いせいでこんな病気になった」「もう良くなることはない」などと自責的、悲観的になっています。うつ病は脳機能の変調によって生じる病気であり、精神的休養と治療により回復することを説明します。患者さんの苦悩に耳を傾けて共感するなど、支持的な精神療法を行います。このような疾患教育や支持的精神療法は患者さんの安心、安定につながります。


特別な精神療法として、過度に悲観的になった思考(認知)をバランスの取れた思考(認知)に導く認知療法を行う場合もあります。こうした精神療法と同時に患者さんの症状に応じた薬物療法が行われます。有効性、安全性に優れた新しい抗うつ薬が治療の中心ですが、どんな薬も副作用があるため、患者さんの症状や副作用に応じて専門医が薬の増減や変更を考えます。
自殺思慮や焦燥感が強い、幻覚妄想が現れている、食事が取れず衰弱が進んでいるなど、重症のうつ病患者さんの場合は入院治療をお勧めすることがあります。
重症の場合は、薬物療法よりも安全かつ速やかな効果が期待できる修正型電気けいれん療法をお勧めすることもあります。修正型電気けいれん療法は麻酔科医の協力が必要なので、総合病院でないと受けられない治療です。近年は、修正型電気けいれん療法を必要とする重症者や高齢の患者さんが増加しています。精神療法から修正型電気けいれん療法まで、患者さんの状態に応じたうつ病の高度治療を行うことが当科の特徴です。
更新:2022.03.04