弁膜症疾患の最新の治療
心臓血管外科
心臓には4つの弁があり、それぞれが心臓の拍動に合わせて、開閉しています。その開閉機能に障害があると、放置することで、心不全に陥り、寿命が短くなる可能性があります。近年、症状や心収縮能の低下がなくても、早期に手術をした方が寿命が延長すると報告され、早期手術が推奨されています。当院では、循環器内科とカンファレンスを行い、手術方針や時期を患者様の年齢や併存疾患を考慮して緻密に計画し、手術を行います。下記に、弁膜症の中で、代表的な疾患に対する当科での治療方針を提示します。
大動脈弁狭窄症
弁膜症疾患の中で最も頻度が高い疾患です。心臓の出口にある大動脈弁が石灰化することで狭窄し(図1)、胸痛、失神、突然死を引き起こす可能性があります。高度狭窄でかつ症状を伴う場合には突然死の可能性があるため、できるだけ早期の手術を行うようにしています。
手術は、開胸心停止下で行う大動脈弁置換術と両側鼠径部の小切開(約2cm)もしくは穿刺のみで施行できる経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI,タビ)があります。開胸による大動脈弁置換術が、世界的に見て現在でもgold standardです。年齢に応じて、生体弁(ブタもしくはウシ)か機械弁に取り替えます(図2、3)。しかし、高齢(80歳以上)、低肺機能、心臓手術既往など通常の大動脈弁置換術ではリスクが高いと判断される患者様には、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)(図4~6)の方が望ましい場合もあります。通常の大動脈弁置換術では開胸し、人工心肺を用いて心臓を止めて手術を行います(手術時間:約3時間)が、TAVIでは人工弁を装着したカテーテルを用いて大動脈弁を置換する手術です(手術時間:約1時間)。当院では、一人一人の患者様について、循環器内科とカンファレンスを行い、どちらが最適かを判断します。
大動脈弁閉鎖不全症
心臓の出口にある大動脈弁が、うまく閉鎖しない病気です。放置すると、左室拡大をきたし、心機能が低下し、心不全に陥ります。近年は無症状であっても、心機能の低下により寿命が短縮すると証明されています。大動脈弁閉鎖不全症の原因は様々ですが、弁自体に原因がある場合は生体弁もしくは機械弁による大動脈弁置換術を行います。また、大動脈基部(大動脈弁を支えている場所)拡大が原因の場合には、大動脈基部置換術(Bentall手術、大動脈基部と大動脈弁を同時に替える)もしくは自己弁温存基部置換術を行っています。
僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全症は、左房と左室の間にある僧帽弁がうまく閉鎖せず、左室から左房に血液が逆流し左房に負荷がかかることによって、呼吸困難や不整脈の症状が出現し、放置すると、心不全に陥ります。近年、症状が出現する前に手術を施行した方が、長期寿命が期待できると報告されています。僧帽弁閉鎖不全症の原因は様々ですが、多くは僧帽弁を支えている腱索が断裂もしくは延長していることが原因です。当院では、断裂した腱索の代わりに、人工の腱索を立て自己弁で修復しています(僧帽弁形成術)。僧帽弁自体が破壊されている場合は、生体弁や機械弁を用いて、僧帽弁置換術を行います。弁形成術と弁置換術にはそれぞれメリット、デメリットがあるため、患者様の年齢や心機能によって判断しています。詳細は外来担当医にお気軽にお尋ねください。
低侵襲僧帽弁手術
従来の胸骨正中切開(傷約25cm)ではなく、右肋間を約6cm切開して、胸骨を切らずに僧帽弁手術を行う方法です。術後運動機能の回復が早く、傷が目立たないという点から美容面にも優れています。年齢、体格、心機能によって適応にならない場合もありますので、お気軽に外来受診をしてください
当院では、様々な弁膜症疾患に対して、患者様の状態(年齢、体力など)に合わせて、適切な手術を行いますので、お気軽に外来受診をしてください(水曜日:福井、山田、田邉/金曜日:髙森、田邉)。
更新:2024.10.08