1秒でも早い急性心筋梗塞の治療開始を目指してークラウド型医療情報伝送システム
救急部
近年、医療は驚くほどの進歩を続けており、救命率も大きく向上しています。しかし、命は助かったものの、元通りの日常生活を過ごせないような障害が残ったのでは、満足すべき治療とはいえません。救命だけでなく、いかに後遺症がなく元気に社会復帰できるかも大切です。
特に、脳梗塞(のうこうそく)などの脳神経系の病気や、心筋梗塞(しんきんこうそく)などの心血管系の病気の場合、分単位の治療の遅れが、その後の機能回復に大きな影響を及ぼします。治療が迅速に行われるには、病院での治療だけでなく、家庭や学校など一般市民による初期対応や、救急隊による搬送時間の短縮など、病院外での活動も、とても大切なのです。それぞれが適切に連携し、スムーズに流れていくことが良い結果につながります。治療は発症の現場からすでに始まっているといえるでしょう。
急性心筋梗塞の場合
特に迅速な治療開始が重要な代表的な病気の1つが急性心筋梗塞です(図1)。「締め付けられるような突然の胸の痛み」「冷や汗」などが典型的な症状で、中年以降のタバコを吸う男性に多い病気です。心臓に栄養を送る血管が閉塞(へいそく)してしまうことが主な原因で、一刻も早く、閉塞した血管を再開通させる治療(カテーテル治療)を行うことが、救命率を高めるために極めて重要です。
また、治療の開始が遅れると、心機能の回復が不十分となり、せっかく退院しても、息切れやむくみなどの心不全症状が残存してしまい、その後の日常生活に大きな負担を強いられることになってしまいます。特に発症から90分以内に治療が行われると心機能の回復が良好だとされます。しかし、体に異常を感じ救急車を要請しても、それで心筋梗塞の診断がつくわけではありません。病院で心電図検査を行うことが必須となります。これでは病院に到着するまでの間に手遅れになりかねません。
クラウド型コンピューティングシステムを用いた情報伝送システム
当院では、救急現場と病院との間での連携がスムーズなることを目的に、クラウド型コンピューティングシステムを利用した医療情報伝送システムを取り入れています(図2、写真1)。
このシステムは、救急現場で救急隊員が心電図や状況写真などの情報を記録し、インターネットを介して病院や医師に伝送するというものです。これまでも電話回線を用いて伝送する試みはありましたが、電波の不安定さなどの理由でなかなか実用化されませんでした。しかし、インターネット環境の進歩により、画像や動画などの容量の大きい情報も安定して通信することができるようになりました。また、インターネットを利用するため、電話のように1対1でなく、一度に多くの人の間で情報を共有できるようにもなりました。
このシステムの導入により、患者さんがまだ現場にいるうちに医療情報が病院に伝えられるため、治療開始時間が大きく短縮されるようになりました。これまでは、患者さんが病院に到着してから心電図検査を行い、急性心筋梗塞の診断がついてから、治療の準備を始めていましたが、今では、患者さんが到着する前から専門医チームや治療室をスタンバイしておくことが可能となり、到着と同時に迅速な治療が開始できるようになりました。特に、山間部や沿岸部など、心筋梗塞に対するカテーテル治療ができる病院までの搬送距離が長い地域で、その効果を発揮しています。
福井県は全国でも有数の長寿県とされますが、急性心筋梗塞の人口当たりの死亡率は全国に比較して高く、残念ながら男女とも全国ワースト10内に入っています。このシステムがさらに普及すれば、心筋梗塞の治療成績が上がり、福井県の長寿ランキングはもっと上がることが期待されます。
更新:2024.08.19