認知症スペシャリストによる先端診療

脳神経内科

認知症とは

超高齢社会を迎え、福井県の高齢化率は31.0%(2022年12月15日現在)にまで達しました(図1)。それに伴い認知症患者数は増加の一途をたどり、県内でも3万5000人に達するものと予測されます。認知症とは、単に年のせいで忘れっぽくなっただけではなく、物忘れのために日常生活や社会生活に支障をきたす状態を指します。最新の診断基準(DSM-V)では、薬の管理ができなくなることも認知症の重要な症状の1つに加えられました。

図
図1 福井県の高齢化率の推移(各年10月1日現在)(福井県ホームページをもとに作図)

認知症の種類

一言で認知症といっても「アルツハイマー病」だけではなく、レビー小体型認知症、血管性認知症、そして前頭側頭葉型認知症など原因疾患は多岐にわたります(図2)。アルツハイマー病は初期から物忘れが主体となり、日付が分からない、今かかってきた電話の内容が思い出せない、置き忘れが多くなるなどの症状が現れます。レビー小体型認知症では、亡くなったご主人が今ソファーに座っている、トイレでお孫さんの顔だけ見えるなどのありありとした幻視がみられます。血管性認知症は脳梗塞(のうこうそく)、脳出血に伴う認知症で、感情失禁(怒りっぽい)、手足の麻痺(まひ)、意欲低下などがみられます。前頭側頭葉型認知症では、意欲がなくなる、怒りっぽくなる、万引きなどの行動異常、言葉が出なくなる症状(失語症)がみられますが、初期には物忘れははっきりしません。運転中に一旦停止無視、信号無視などを起こし、大事故につながる場合もあります。

図
図2 もの忘れ外来患者さんの内訳(1679例中) MCI: 軽度認知障害 B12: ビタミンB12欠乏症 iNPH: 正常圧水頭症

専門医による認知症の確実な診断――アミロイドPET検査も行います

当院は認知症学会教育指定病院に認定されており、脳神経内科、精神科、脳脊髄(のうせきずい)神経外科の協力のもと鑑別診断、治療を積極的に行っています。

まずは病歴を詳細に聴取します。できればご家族とともに受診いただき、家庭での状況もお聞きしています。怒りっぽくなった、物盗られ妄想、徘徊などの情報は本人から聴取することは困難です。その後、神経学的診察、専門職員による詳細な心理検査を行います。さらに、血液検査、脳MRI、SPECT検査を用い、神経内科専門医、認知症学会専門医がきちんと鑑別診断を行います。アミロイドPET検査を行うことも可能です(高エネルギー医学研究センターと協力、写真)。アミロイドPET検査を行うことのできる施設は国内でもまだ限られています。この検査により、ごく初期のアルツハイマー病の診断も可能となります。

写真
写真 SPECT検査、アミロイドPET検査

治療薬の種類・特徴と先端的治験

アルツハイマー病の場合、治療薬は、大きく分けて2種類に分類されます。まず海馬の神経伝達物質であるアセチルコリンを増やす薬です。ドネペジル、ガランタミン、そしてリバスチグミン(貼り薬)という薬剤があります。そのほか、グルタミン酸の神経伝達や神経細胞死を抑え、病気の進行を遅くするメマンチンという薬があります。レビー小体型認知症ではドネペジル、抑肝散(よくかんさん)という漢方薬が使われます。

アセチルコリンを増やす薬では、記憶が多少改善し、元気が出ることが多いです。また、メマンチンでは、進行を遅らせる効果、気持ちを落ち着ける効果を実感できます。抑肝散でも気持ちを落ち着ける効果がみられます。

そのほか早期アルツハイマー病に対する治療(レカネマブ:アミロイドβ蛋白に対するモノクロナール抗体製剤)や、血液検査によるアルツハイマー病の早期診断に関する臨床研究も全国に先駆けて行っています。

認知症の生活指導、公的サービスの利用について

当科では、認知症看護認定看護師やメディカル・ソーシャル・ワーカー(MSW)による日常生活指導や、デイサービス、訪問看護などの公的サービスについてのきめ細かい指導を行います。初期の認知症、または認知症までいかない軽度の物忘れ(MCI:軽度認知障害)の場合は、生活指導が重要です。新聞を読む、日記をつける、運動をする(1日3000~5000歩の散歩)、そして五目ならべ、花札、オセロゲームなどのゲームをお勧めしています。ボランティア活動も進行予防効果があると思われます。徘徊、物盗られ妄想に対する対応法についても相談を受けています。

家族の介護負担が大きくなる若年性認知症については、福井県若年性認知症相談窓口と協力し、適切な対応を行っています。

【症例数または診療実績等】

認知症患者数 過去1年間(アルツハイマー病445例、レビー小体型認知症32例、前頭側頭葉型認知症39例)

【問い合わせ先】

もの忘れ外来は毎週月曜、あるいは毎週木曜午後
*脳神経内科外来
TEL 0776-61-3111(内線3230)

大学病院の「院内デイケア」の紹介

急性期病院では、急な入院や、急な症状の変化がある高齢の患者さんが入院しています。高齢の患者さんは、家とは違う環境に対応する力が低下していきます。そのため、認知機能の低下が進み、生活のリズムも崩れやすくなります。ベッドから離れて、レクリエーションなどを行う事で、入院生活に活性化や、認知機能低下の予防に効果があると言われています。

当院では、2014年6月より入院高齢者患者のこころとからだの機能低下予防を目標として、院内デイケアを行っています。月曜日から金曜日の14時~15時、決まった時間にレクリエーションを行い、入院生活のリズムを整えるお手伝いをさせて頂いています。院内デイケアに参加された患者さんをみていると、他患者との交流により、会話が増えたり、笑顔が見られる事が増えています

また、2016年から高齢者サポートチームを立ち上げ、現在、認知症ケアチームの活動を通して、高齢の患者さんが、安心して入院生活を過ごせる様サポートをしています。

写真
院内デイの様子(テーブルホッケー)
写真
花火の作品づくり

更新:2024.10.07