最新の皮膚悪性腫瘍の診療

皮膚科

皮膚悪性腫瘍の診断と治療

皮膚悪性腫瘍(しゅよう)とは、皮膚や脂肪組織などの体表に発生する、いわゆる「皮膚がん」です。当科で行っている皮膚がんの診断と治療についてお話しします。

皮膚生検

皮膚の病気の診断は、皮膚科医が患者さんの話を聞き、病変を肉眼的に十分観察することが一番大切です。しかし、それでも診断がつかない場合は、病変を一部(または全部)切り取って、それを病理組織学的に検討する「皮膚生検」を行うことがしばしば必要になります。皮膚生検はとても有用な検査ですが、患者さんに痛みを伴う検査であり、傷あとも全く残らない、というわけではありません。

ダーモスコピー

近年、肉眼的な診察と皮膚生検の間を埋める検査として「ダーモスコピー」が登場し、皮膚がんの診断に役立っています。ダーモスコピーには「ダーモスコープ」という高性能の虫眼鏡のような機器を使用します(写真)。ダーモスコープはレンズを直接病変部に密着して使用し、病変部を拡大することで、さまざまな情報をもたらしてくれます。

写真
写真 ダーモスコープ

ダーモスコピーの利点としては、①簡便な検査であり、短時間の観察でさまざまな皮膚病の状態を把握できる、②患者さんに痛みを伴わない検査である、というのがあります。当科ではダーモスコピー検査を積極的に行うのはもちろんですが、皮膚生検で採取した検体の病理組織診断についても当院の病理専門医と一緒に詳細な確認を行い、正しい診断を下すように心掛けています。次に治療法を代表的な皮膚がんの種類別に説明します。

悪性黒色腫の手術治療

悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)は、いわゆる「ホクロのがん」です。皮膚の「メラノサイト」という細胞ががん化する疾患で、進行するとさまざまな臓器に転移し、命にかかわることもあります。当科では、悪性黒色腫に対して、原発巣の「拡大切除」や、リンパ節の転移を調べる「センチネルリンパ節生検」、一定の領域のリンパ節を一塊にして摘出する「リンパ節郭清(かくせい)」などの手術を行っています。

進行期悪性黒色腫に対する薬物治療

進行期の悪性黒色腫の患者さんに対しては、「免疫チェックポイント阻害薬」などの薬を用いた治療を行っています。免疫チェックポイント阻害薬は、本来患者さんが持っているがんに対する免疫力を高めることによって、がんを退治する薬です。がん細胞はPDL-1という分子を出して、免疫細胞の持つPD-1という分子と結合し、免疫細胞薬ががんを攻撃しないようにしているということが分かっています。免疫チェックポイント阻害薬の1種である「ニボルマブ」や「ペムブロリズマブ」という薬は、抗PD-1抗体製剤ともいわれ、免疫細胞のPD-1と結合することによって、がん細胞のPDL-1とPD-1が結合するのを防ぎます。これにより、本来の免疫細胞によるがん細胞への攻撃を再開させるのです(図)。

図
図 免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)の作用機序

乳房外Paget病の治療

乳房外Paget病(パジェットびょう)は、高齢者の外陰部にできることが多い皮膚がんです。診断が非常に難しく、しばしば湿疹やたむしと誤診されて治療されていることもあります。多くの場合は原発巣の手術治療だけで治癒しますが、進行するとリンパ節郭清術や化学療法が必要になることもあります。

有極細胞がんと基底細胞がんの治療

有棘(ゆうきょく)細胞がんや基底細胞がんは、高齢者の顔面にできることの多い皮膚がんです。治療は年齢や状態、希望に応じて手術や放射線治療などを選択していきます。高齢の患者さんの手術は、できるだけ体に負担をかけない局所麻酔手術を選択することが多いです。

当科では人工真皮を用いた手術を積極的に行っています。人工真皮は患者さんの皮膚を用いて、傷をふさぐまでの間に皮膚の代わりをしてくれる、いわば仮の皮膚です。人工真皮を用いることで手術を2回に分けて行うことができ、1回の手術時間を短縮できます。さらに2回目の手術までの間に、がんがしっかり取り切れているのかどうか詳細な検討ができます。本物の皮膚ではありませんが、2回目の手術までの間は、風呂に入るなど、普通の生活ができ、傷の痛みもありません。

おわりに

ここに紹介した皮膚がん以外にもいろいろな種類の皮膚がんがあり、治療法もさまざまです。「最近皮膚のできものが大きくなった」など、何か気になることがあれば、当科にお気軽に相談してください。

更新:2023.09.11