マルトリートメントに起因するトラウマ 症状の治療:こころの傷を癒やしにかえて

子どものこころ診療部

マルトリートメントによる愛着障害と呈する症状について

幼い頃にマルトリートメント(不適切な養育:虐待や育児放棄)を受けた子どもは、安心感や愛情が満たされないため、親子の愛着(アタッチメント)がうまく築けなくなることがあります。自己肯定感を持てず、幼児期以降に大人や友だちとの交流、こころのコントロールに問題を起こしてしまいます。これを愛着障害といい、反応性アタッチメント障害と脱抑制型対人交流障害に分類されます。

反応性アタッチメント障害は、うれしさや楽しさの表現が少なく、つらいときや甘えたいときも素直に甘えられず、人のやさしさに嫌がる態度を見せます。相手に無関心で用心深く、信頼しないなど人との交流や気持ちの反応の少なさがあり、一見すると発達障がいの自閉スペクトラム症(ASD)のような症状を示します。説明のつかないイライラや悲しみ、不安などこころのコントロールに問題もみられます。

一方、脱抑制型対人交流障害は、初めての場所でも振り返らずに行ってしまう、初対面の見知らぬ大人にも警戒心なく近づき、過剰になれなれしい言葉や態度で接して、ためらいなくついて行くなどの行動がみられ、一見すると注意欠如・多動症(AD/HD)のような症状を示します。大人の注意をひこうとしますが、同年代の子どもとは信頼関係や仲間関係を築くことが難しい状況です。

そのほかマルトリートメントを受けた子どもに、不安症や強迫症、抑うつ症状、素行症、摂食障害、睡眠障害などが見られ、これらについても介入が必要になります。

当診療部での治療の特徴

まず、子どもが安全で安心できる場を提供します。心理検査や知能検査、絵の検査で現在のこころの発達状況・行動の状況・心の傷の状態を確認し、必要な治療を提案します。子どもの不安や怒りの感情に対するリラックス法、感情コントロールなどの心理教育や、認知行動療法を提供しています。トラウマ体験のフラッシュバックにも介入します。さらに、安心感を取り戻すための対処スキルを身につけるために、場面にあった適切な行動と対人コミュニケーションを促すための「ソーシャルスキル・トレーニング」も行っています。子ども自身の、人に対する信頼感の回復や自己肯定感を高めることを目的とし、適切な養育スキルを学ぶペアレントトレーニングや養育者の方の困り事の相談など、養育者を含めて家族全体に働きかけ、愛着の修復や再形成を目指せるように関わっています。他にも生活習慣改善・学習アドバイスを行っています。

当診療部には子どものこころ専門医やトレーニング・資格認定を受けた臨床心理士がいます。箱庭療法(写真)や遊戯療法(プレイセラピー)に加え、専門的な心理療法として眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)と パルサー、トラウマに特化した認知行動療法(TF-CBT)、自我状態療法を行っています。

また、薬物療法として、気分調整薬や漢方薬、睡眠調整薬などの処方を行っております。

写真
写真 箱庭療法の様子

更新:2024.10.07