骨盤内にある臓器の障害を最小限にする低侵襲治療 大腸(直腸と結腸)がんのロボット支援手術

藤田医科大学病院

総合消化器外科

愛知県豊明市沓掛町町田楽ヶ窪

直腸周囲の臓器と骨盤内の構造

直腸は直腸間膜という膜で覆われ、その中に血管やリンパ節、脂肪が包まれています。その外側には排尿や生殖、排便の機能をつかさどる神経や、直腸に密着して生殖臓器(腟、精嚢(せいのう)、前立腺)が存在します。肛門の近くでは排便にかかわる筋肉に囲まれています。つまり、直腸は骨盤の限られた狭い領域に存在する臓器です(図1)。

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図1:直腸周囲の骨盤内構造

直腸がんの手術

直腸がんの手術は、がんができた直腸とがん細胞が存在しやすい周囲のリンパ節や脂肪組織、血管を取り囲んでいる直腸間膜とともに袋状に包み込んで摘出します。しかし、前述したように直腸は骨盤の狭い範囲に存在し、周囲の神経や血管、臓器に傷がつきやすい手術です。また、がんの進行度によっては隣の臓器を一緒に切除しないといけない場合もあります(図2)。

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図2:直腸がん手術で切除する範囲

直腸がんのロボット支援手術とは

ロボット支援手術は、2cmほどの先端に関節がつき、手振れを補正してくれることや、3次元の高画質のカメラなどいろいろな機能を持ったシステムで、外科医がそのカメラ映像を見てロボットを操作します。そのため、狭い部分でも細かな組織が確認でき、緻密な操作ができます。特に狭い部分での手技が必要な直腸がんの手術では威力を発揮でき、神経や血管を傷つけることや出血を少なくすることができ、臓器の機能を温存する確率が高くできることが期待されています。

また、今までの術式より、肛門に近い領域まで手術操作ができ、肛門に近いがんでも肛門を残す可能性が高くなりました(図3、4)。

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図3:各アプローチ法によるシェーマ
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図4:ロボット支援手術の写真とシェーマ

結腸がんのロボット支援手術

米国では、結腸がんにおいてもロボット支援手術が広がっています。国内では代表的な施設のみが先進的に、結腸がんにおいてロボット支援手術の臨床試験を行っています。ただし、医療費は自己負担となります(2020年6月現在)。

大腸がんの集学的治療

大腸がんの化学療法として、抗がん剤や分子標的薬が開発され、治療の幅が広がりました。放射線治療は、腸が動かない直腸がんだけに用いられ、抗がん剤と一緒に行います。病変部を中心に照射できることと抗がん剤を一緒に使用することにより治療効果が良く副作用を少なくすることができます。ロボット支援手術とこれらの治療を組み合わせることによって、臓器の温存や治療効果を上げることが期待されています。

究極の肛門を温存する手術では、手術後に便が漏れたり、何度も便をしたくなることがありますので、患者さんの年齢や仕事を考慮して、どの術式がいいのかを判断します。ただし、肛門の機能が悪くなった場合でも、薬による治療やリハビリ治療を行い回復することがあります。当院で行っている仙骨神経刺激療法という方法を用いて、肛門機能を回復することが期待されています。

直腸がんと診断されたら

大腸がんの中でも直腸がんの手術は、さまざまな機能に関連する手術で、患者さんの生活の質を左右するとされています。多くの経験があり、総合的な治療ができる病院で相談することをお勧めします。

更新:2024.10.09