大腸がんの低侵襲手術
札幌医科大学附属病院
消化器・総合、乳腺・内分泌外科
北海道札幌市中央区

大腸がんとは
国内の大腸がんは高齢化と食生活の欧米化などにより過去40年で7倍になり、すべてのがんの中で最も患者数が多く、死亡数は肺がんに次いで2番目に多い病気です。大腸がんの治療には、内視鏡治療、外科治療、薬物療法、放射線治療などがあり、病期(ステージ)や患者さんの状態に応じて、ガイドラインの記載に従い治療方針を決めます。
大腸がんの手術
大腸は結腸と直腸に分かれます。大腸がんの手術では、①がんのある部分から十分離れた位置で大腸を切除し、②ステージに応じて適切な範囲のリンパ節を含む腸間膜を切除し、③残った大腸同士をつなぐことが基本となります(図1)。

結腸がんの手術では、がんのある部分から口側・肛門側にそれぞれ約10cm離して大腸を切除します。約20cmの大腸を切除することになりますが、栄養の消化・吸収、排便に対する影響は少ないです。
直腸がんの手術は、直腸を切除し、結腸と残った直腸もしくは肛門をつなぐ「直腸切除術」と、肛門ごと直腸を切除し、肛門の代わりとなる便の出口として永久人工肛門(ストーマ)を作る「直腸切断術」の2つに大きく分けられます(図2)。

大腸がんの低侵襲手術
大腸がん治療で一番大切なのは、がんをすべて取りきる根治(こんち)性(*)と無事手術を終了する安全性です。この2つの次に大切なのが、患者さんの体への負担が少ない低侵襲性、手術前と同じ機能が維持できる機能温存、体に残る傷跡をできるだけ目立たないようにする整容性です(図3)。

近年、大腸がんの手術はお腹(なか)を大きく切る開腹手術より、低侵襲に手術ができる腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)やロボット支援手術が増加し、右側の結腸がんでは約50%、直腸がんでは約70%で腹腔鏡手術やロボット支援手術が行われています。腹腔鏡手術やロボット支援手術は開腹手術と比較し創(きず)が小さい、痛みが少ない、術後回復が早い、入院期間が半分から3分の2になるなど、患者さんにとってさまざまな利点があります。
また、直腸がんに対する腹腔鏡手術やロボット支援手術は開腹手術よりも排尿・排便・性機能の機能温存に優れているとされます。当科では、大腸がん症例の98%にロボット支援手術や腹腔鏡手術を行っています。
当科には、日本内視鏡外科学会の審査をクリアした高度な技術を有する内視鏡外科技術認定医が、消化器外科単独では道内で最も多い6人在籍しており、安定した技術による手術を提供しています。
*根治:完全に治すこと。治癒
術後の排便障害への取り組み
直腸がんに対する直腸切除術の後は、便を溜めるという直腸の機能が低下し、頻便(ひんべん)(1日に何回もトイレに通う)や便失禁(べんしっきん)(便が漏れてしまう)などの症状を生じることがあります。
当科では直腸がん手術後は、定期的に患者さんの排便状況とQOL(生活の質)の評価、肛門機能検査を行っています。当科の研究では手術により、ダメージを受けたおしりのリハビリテーションを積極的に行うことで、直腸手術後の肛門機能の回復が促進されることが明らかになりました。
TAMIS(タミス)ってなに?
TAMIS(経肛門的低侵襲手術(けいこうもんてきていしんしゅうしゅじゅつ)、図4)は良性の直腸腫瘍や早期の直腸がんに対し、お腹に全く創をつけず、おしりから腹腔鏡の技術を使ってがんを取りきる手術です。大腸カメラと違い、切ったところを縫ったり、細かい止血が可能で確実な切除ができます。直腸を切り取らず、術後の排便障害や疼痛(とうつう)がないTAMISは究極の低侵襲手術です。道内でTAMISを受けられるのは当科だけです。

更新:2024.09.23