脳腫瘍の覚醒下手術

覚醒下手術の目的

脳神経外科の手術では合併症として脳機能障害による運動麻痺（まひ）や言語障害、そして高次脳機能障害などがあげられます。特に脳腫瘍の摘出を行う場合には大きく取れば、病気を治す効果が上がる一方で、脳機能障害が生じやすくなります。機能障害を最小限とするために手術前だけではなく、手術中にもさまざまな検査をします。

「図１」に示すように機能的頭部MRI、脳磁図、トラクトグラフィー（MRIを使って神経線維ネットワークを検査する）、機能的ニューロナビゲーション（手術中にナビを使って実際に手術している場所と重要な脳機能部位との位置関係を確認する）や術中脳電気刺激などがあります。覚醒下手術も安全にかつ、病変を最大限に摘出して再発を防ぐことを目的としています。特に、言語機能やそのほかの高次脳機能は覚醒状態でしか確認ができないため、リスクの高い脳神経外科手術では、医師はできうる限りの準備をして行っています。

脳腫瘍の中でも特に摘出率が生命予後に関係する（多く摘出できれば再発を遅らせることができる）「神経膠腫（グリオーマ）」の手術では、脳機能マッピング・モニタリング（手術中に脳電気刺激を使って脳機能の場所を同定し、かつその機能が保たれていることを確認する）が安全に最大限の摘出を行うため必要です。

覚醒下手術の実際

手術前に覚醒下手術のシミュレーションを行います。当院では13歳から80歳代まで多くの脳腫瘍の患者さんが覚醒下手術を受けています。医師、看護師だけでなく、検査技師やリハビリ担当の作業療法士など、多くの手術スタッフがチームとしてこの手術に精通しています。

脳腫瘍を摘出する際には全身麻酔から覚醒した状態として、「図２」のように「消防車は何色ですか」「お名前は」「絵を描いてください」「漢字ひらがなを読み書きしてください」「右手足を動かしてください。」「100－７は」「この線の真ん中はどこですか」といった質問に答えてもらいながら進めていきます。大きな病院でこそ可能なチーム医療といえます。

覚醒下手術を受けることのできる病院

日本Awake Surgery 学会は覚醒下手術施設認定病院を学会HPにて公開しています。

覚醒下手術は「安全に」脳腫瘍を摘出することが前提の手術で、１）麻酔法、２）手術手技、３）脳機能マッピング・モニタリング法、４）高次脳機能評価法、５）看護技術（術前・術後を含む）の知識と技術について、厳しい審査を経て認定を受けます。

当院は日本Awake Surgery 学会編集『覚醒下手術ガイドライン』の作成に携わっています。

当院では最近10年間に毎年30人ほどの覚醒下手術を行っており、国内で多くの経験を持っています。脳腫瘍の覚醒下手術治療後には引き続いてレーザー治療、最新の薬剤や放射線治療を行うことがあります。

札幌医科大学脳機能センターまたは脳神経外科にて、地域医療連携室（FAX 011-621-2233）を通じて道内あるいは道外からも紹介患者さんを受け付けており、十分な初期治療を受けた後に地元で通院継続が可能です。

更新：2024.09.23