変形性股関節症に対する低侵襲手術とは?

札幌医科大学附属病院

整形外科

北海道札幌市中央区

変形性股関節症とは?

股関節の軟骨が擦り減って関節の破壊が生じ、股関節痛(こかんせつつう)をきたす疾患です。歩行時や立ち上がり時の痛みが特徴で、悪化すると夜も寝られないほどの痛みが生じる場合があります。原因の約8割が太ももの付け根の骨(大腿骨頭(だいたいこっとう))に対する骨盤の屋根(臼蓋(きゅうがい))のかぶりが浅いこと(寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん))といわれています。痛み止めを飲んだり、リハビリテーションを行いますが、改善がない場合は人工関節へ交換する手術が必要となることもあります。

変形性股関節症に対する治療とは?

痛みがさほど強くない場合は体重のコントロール、杖(つえ)の使用、リハビリテーションによる筋力訓練、痛み止めの内服などを行います。それでも痛みが我慢できない場合は、手術治療が選択されます。手術には大きく分けて骨切り術と人工股関節全置換術(じんこうこかんせつぜんちかんじゅつ)がありますが、変形性関節症が進行している場合は骨切り術の適応となる場合が少なく、人工股関節全置換術が選択される場合が多いです。

人工股関節全置換術の合併症とは?

人工股関節全置換術は股関節痛を改善させるのには非常に良い手術ですが、さまざまな合併症があります。感染、深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)(エコノミークラス症候群ともいわれています)、脱臼などです。感染に対しては、手袋を二重に装着したり、抗生剤を予防的に投与したりしています。

深部静脈血栓症を起こさないためには早期のリハビリが重要ですので、術後翌日からは歩く練習をしてもらっています。また、足をマッサージするポンプや血栓をできにくくする薬を使用しています。

脱臼を防ぐためには?

人工股関節全置換術後の脱臼を防ぐためには、術後に股関節を内側に入れるいわゆる女の子座りの姿勢など、脱臼しやすい姿勢をとらないことが重要とされています。しかし、ふとした瞬間に脱臼しやすい姿勢をとってしまうことがあり、より脱臼しにくい手術を行うことが重要であると私たちは考えています。特に股関節周囲の筋肉を、できるだけ切らずに温存することが最も重要です。

また、股関節は後方に脱臼しやすい関節ですので、股関節の袋(関節包)を前方から切開する方法で手術を行っています。後方から手術を行っていた際には4.6%の後方脱臼がありましたが、前方からの手術では936 例中わずか1例(0.1%)まで脱臼率を減らしています。

股関節の低侵襲手術について教えてください

私たちはOCMアプローチという方法で手術を行っています。OCMというのはOrthopädische Chirurgie München というドイツの病院の名前に因んでいます。

この手術では股関節前方の外側に約8cm皮膚を切開します(図1)。中殿筋(ちゅうでんきん)という筋肉と大腿筋膜張筋という筋肉の間から進入しますので、筋肉は一切切らないで関節の袋に達します。関節の袋は一度切開しますが、最後にすべて糸で修復します。また、短外旋筋群という太ももに付着している筋肉を切らないため、術後の脱臼予防のみならず、術後疼痛(とうつう)にも有利です。大腿骨に入れる人工関節(ステム)は従来のものより短いもの(ショートステム)を使用しています(図2)。

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図1 皮膚切開
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図2 当科で使用しているショートステム

ショートステムはカーブ状になっているため、外側の筋肉を温存した状態でも挿入が可能となっています。また、股関節に近い部分の骨のみを最低限削るだけで済みますので、大腿骨の骨をできるだけ温存することが可能です。

このように、皮膚、筋肉、骨と3つの組織において低侵襲(体に負担の少ない)となっています。脱臼率の低下のみならず術後の疼痛もさほど強くないため、手術翌日からは歩く練習を開始することが可能です。多くの方で1週間程度で杖歩行や、何も使わないで歩行可能となっています。

このショートステムを当科で使用した395例の患者さんで術後7.3年経過し、人工関節の交換が必要となったのは転倒による骨折により再置換を要した1例のみとなっています(99.7%で交換が必要となっていません、図3)。

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図3 当科で使用しているショートステムの治療成績

更新:2024.09.23

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