他人事ではない、身近な疾患「認知症」の診断法と治療・ケア
札幌医科大学附属病院
神経精神科
北海道札幌市中央区

認知症とは?
超高齢社会において、認知症患者数は増加の一途をたどっており、現在、全国で約500万人の患者さんがいるとされ、2025年には700万人を超えると試算されています。認知症は、実に65歳以上の5人に1人が罹(かか)る可能性があり、誰もが介護者となる可能性のある身近な病気です。認知症の新たな治療法開発と病態解明は、医療の最重要課題の1つで、現在、国は医療と介護体制の整備に力を入れています。
認知症とはどのような病気?
認知症は、脳の障害により、認知機能(人がもっているさまざまな知的機能)が低下する病気の総称であり、その原因はさまざまです。脳の細胞が脱落し、脳内に異常な物質が蓄積していくアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症などの変性性(へんせいせい)認知症と、脳血管の障害が原因となる血管性認知症などがよく知られています。
初期症状は、一般にもの忘れが多く、進行していくにしたがって家事や仕事上のミス、日常生活における支障が徐々に明らかとなります。認知症の種類によっては、幻覚や妄想、うつ状態、パーキンソン症状(*1)、性格の変化などが生じます。
*1 パーキンソン症状:振戦(しんせん)(手足が震える)、無動(むどう)(素早い動作ができなくなる)、筋固縮(きんこしゅく)(筋肉がこわばる)、姿勢反射障害(体のバランスがとりにくくなる)などが代表的な症状
病気ですか?老化ではないのですか?
数十年前までは、人は年を取ると誰でも呆(ぼ)けてしまうと信じられていました。
その後、世界中の多くの調査・研究から、認知症の脳には異常があり、病気であることが確かめられています。また、認知症にはさまざまな種類があることが知られており、それぞれの症状の特徴に応じた治療法が開発され、治療とケアが行われるようになりました。
早期の介護の導入を図るために、国は介護保険制度を創設しました。
治療法とケアについて教えてください
認知症が疑われる状態の中には、正常圧水頭症(せいじょうあつすいとうしょう)やうつ病などが紛れ込んでいることがあり、根本的な治療につなげていくこともあります。しかし、現在、認知症の多くの原因・病態は完全には明らかとなっておらず、根本的な治療法の開発にまで至っていません。そのような中で、認知症の進行を遅らせることのできる抗認知症薬が数種類開発され、診療において使用されています。
また、認知機能低下以外の、イライラや妄想症状、生活のリズムを乱す不眠といった周辺の症状に対して、専門的な観点からケアや環境調整、薬物療法により、本人の苦痛、家族の負担を軽減することが可能です。
専門外来では何をしているのですか?
当科は、「もの忘れ専門外来」を設置し、多くの患者さんの診療にあたっています。
まず、詳しい生活歴と病歴の聴き取りや診察を行い、身体合併症の精査、血液・生化学的検査、最新の脳画像検査・生理機能検査等を実施します。そして認知症の有無を診断し、認知症と間違われるような疾患がないかどうかを慎重に検討します。

認知症と診断された場合には、重症度と認知症の原因を判断し、認知症の種別(下位診断)を確定します。また、日常生活や社会生活における機能障害と課題、家族の介護困難度などを精査し、その上で適切な治療および環境調整について、精神保健福祉士や地域の支援者等を交えて家族と話し合っていきます。
初めて専門外来を受診した患者さんについては、クリニカル・パス入院という、脳ドックのような集中的な検査入院を実施しています。その後、定期的にクリニカル・パス入院を希望する患者さんも多数います。また、最近では、新たな薬剤の開発のための治験にも積極的に取り組んでいます。
患者さんによっては、怒りっぽい、妄想的、昼夜が逆転、徘徊といった周辺症状により、周囲との折り合いが悪くなったり、家族の介護負担が増大していることがありますが、専門外来では介護者への助言、介護保険や社会資源の導入などにより支援を行い、適宜、薬物療法を実施し問題解決を図ります。
物忘れ外来では、地域の内科クリニックなどからの患者さんの紹介も多く、地域連携をとりながら継続的に患者さんと家族、地域のかかりつけ医療機関をサポートしています。
更新:2024.09.23